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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その魔物の生態を彼は知らない
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その魔物の強さを彼女は知らない

 森へとやってきたリエラは、周囲に散らばる人の群れを流し見る。


「カインさんとネッテさんはどこかな?」


 確かに、これだけ人がいるとさすがにわからんな。

 にしても……森の入口だけでこれだけ人がいるとか、奥の方は大丈夫なのか?

 魔物も人間の多さに驚いたのか全く姿を見せない。にっちゃうくらいである。しかも、そこかしこで捕獲されている。


「どこに居るんだろうねぇ、アルセ」


 お手上げ状態のリエラ。アルセが理解できるはずも無かった。

 仕方がないのでアルセと共に奥へと進む。

 あまり奥に進むと凶悪な魔物が出そうなので、にっちゃうが見える範囲を捜索することにした。


「ああもう、アルセ、待って、一人で行ったら魔物として討伐されちゃうからっ」


 ……ああ、そういえば。

 何の気なしにアルセを連れて探していたが、僕は見えないわけだ。

 結果、周囲にはアルセイデスという魔物が無防備に人間たちのまん前を歩いてるように映る。


 10万ゴスが目の前を歩いているのだ。飛びつかない冒険者がいるだろうか。

 リエラから離れないようにしよう。

 慌ててリエラの横に戻る。


「ああもう、ひやひやしたよ……」


 アルセの頭を撫でながら、リエラは安堵の息を吐く。

 それに、アルセはなぜか満面の笑みを返していた。

 何も知らないって、幸せだね。


「でも、ほんとカインさんもネッテさんも見当たらないね。私達で探そっか」


 と、リエラはその辺を飛び跳ねていたにっちゃうを見つけた。


「とりゃっ」


 抵抗らしい抵抗を見せず、にっちゃうはリエラに捕まった。


「んー、やっぱりにっちゃう見つけるのは楽勝だね」


 すぐ捕まえられるのか。

 警戒もしてないみたいだし、僕が捕まえてアルセに渡しても大丈夫そうだな。

 ん……あれは。

 僕はアルセと共にゆっくりと近づく。

 突き出ていたそれに、思いっきり蹴り入れた。


「いっでぇッ!?」


「うわ、何ッ!?」


 よしっ、やったった。思わずガッツポーズ。

 叢から飛び出て来たのはカイン。

 その悲鳴に驚いて、近くに居たネッテも飛び上がっていた。


「あ、ネッテさんっ」


「あらリエラ。よく私たちを見つけたわね」


「はい。というか、アルセがカインさん見つけたらしいです」


「くっそっ。今の蹴りはアルセか。良い蹴り持ってやがるなちくしょうっ」


 涙目で訴えるカイン。

 当然ながらその蹴りは僕のモノだ。痛いに決まってる。

 まぁ、アルセのせいになったならいいか。


 あっと、そうだった。

 こいつら見つけたらやろうと思ってたんだよ。

 僕はアルセの髪にリボンを結んでみせる。露店の一つから盗んだ奴だ。

 金は払わなかったけど、誰が取ったか、何時盗られたかすらわからないので気にするほどではあるまい。


「お? なんだアルセ、それどうしたんだ?」


 ニコリと微笑むアルセを見て、カインとネッテは可愛いと言って笑っていた。


「あ、アルセ、それってもしかしてあのエセ神父の報告?」


 リエラ……神父のことエセだと思ってんだ……


「エセ神父? 何かあったの?」


「あ、はい。その、神父さんがオラクルだとか言って、対象のにっちゃうは耳にピンクのリボンをつけてるとか言ってましたよ」


「マジかよ。オラクル聞けたのか」


 カインはリボンうんぬんよりオラクルを聞いたことに驚いているらしい。


「リボン……か。ナイス情報よアルセ」


 と、カインとネッテはさっそくリボンを付けたにっちゃうを探し始めた。

 やっぱり、あの神父のオラクル、結構当るみたいだ。


「あ、あの、信じちゃってるんですか?」


「オラクルっても神の声が聞こえるわけじゃないわよ。ただの正確な占い。高確率で当るわ。他に何か言ってなかった?」


 ネッテの言葉に考えだすリエラ。

 リエラがあっと思いだした頃。

 僕の腕を引きながら、アルセがどこかへと行こうとしはじめる。

 余り遠くにはいけないけど、行きたいというなら行って……あ、ここでいいの?


 アルセはいきなりしゃがみ込み、僕から手を放すと、葉っぱで覆われた場所に向ってダイブ。

 にっ。という声が聞こえた。

 どうやらリエラたちの行動を真似てにっちゃうを捕まえてみたようだ。


「確か、ラッキーカラーは黄色とか……」


 お、なんだ、アルセも捕まえたのか? との声に、ネッテとリエラも会話しながらそちらを見る。

 アルセが黄色い毛を持つにっちゃうを連れて茂みからやって来たところだった。


 しかも、耳には桃色のリボン。

 偶然としてはでき過ぎな程だった。


「黄色の……にっちゃ……う?」


 驚くリエラ。

 その横で、にっちゃうを見たネッテはゆっくりと後ずさり。

 その顔には、戦慄が浮かんでいた。


「リエラ……下がりなさい、ゆっくり、目を離しちゃダメよ」


「はい?」


「リエラ、武器は手にするなよ、絶対だ、いいな。銃も隠せ」


 小さな声で、しかしリエラによく聞こえるようカインも注意を促す。

 意味のわからないリエラは戸惑うばかりだった。


「知らないようだから、言うわね」


 黄色いにっちゃうから視線を離すことなくネッテが真剣な声音で話す。


「黄色い毛を持つにっちゃうはにっちゃう・つう゛ぁい。にっちゃうの亜種なのよ」


「は、はぁ。だからなんなんです?」


 一応言われた通りにしながらも、リエラは納得行かない様子。


「にっちゃうには確かに攻撃手段はない。っつーか頭突きくらいはするが身体が柔らかいのでダメージはない。でもな」


 と、今度はカインが口を開く。

 なんか、傍目から見てると結構余裕そうだ。

 まぁ、彼らは真剣なんだろうけど。


「にっちゃう・つう゛ぁいは別だ。その頭突きはアダマンタイトすら砕くと言われてる」


「アダマン……なんですそれ?」


「……ようするに、アルセイデスの蔦も簡単にぶち破っちゃうわけ」


 アルセの蔦といえば、あのキルベアすら身動き取れない硬い蔦だよな。

 それを破る頭突き……どれだけ硬いんだ?

 というか、それを人体がくらったら……

 ようやくリエラは納得したらしい。


 ただし、一人、理解していない人物がいる。

 そうアルセだ。

 両手で見せびらかすようににっちゃう・つう゛ぁいを持ったアルセは、笑顔満面で即死の銃口を彼らに向けていた。

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