その大軍から逃げる術を、僕らは知らない
殿中でござる
種族:偽人 クラス:丁髷族
装備:名も無き刀、紋付き袴
種族スキル:威嚇
殿中でござる:仲間を呼びます。
斬り捨て御免:攻撃力一・五倍の斬撃攻撃。放った後の隙が大きい。
居合斬:一度鞘に刀を戻しての一撃。カウンターで喰らえば即死属性付加。
丁髷砲:頭の上にある筒で砲撃。
武士は食わねど高楊枝:戦闘を行っていない時、立っているだけでHP・MP・TPが徐々に回復。
HARAKIRI:戦況が不利になると自殺する。
ドロップアイテム・無銘刀・紋付き袴・丁髷砲
な、なんじゃこりゃああああぁぁぁぁぁぁっ!!?
僕は魔物図鑑を見て思わず驚く。
気になったのだろうか? おー? と覗きこんで来るアルセに、魔物図鑑を見せてやる。
「何してるのアルセ……ってこれ、何?」
ネッテが気付いて魔物図鑑に載った記載を見る。
その記載を読む程に、顔を青くさせて行く。
既に突撃していたカインたちに向って叫んだ。
「カインッ! そいつら遠距離攻撃と即死攻撃を持ってるわ! 接敵は気を付けて!」
「んなっ!?」
斬りつけて来た刀の一撃を受けようとしたカインが慌ててひらりと躱してバックステップ。
「ござる!」
「殿中でござる!!」
さっきから叫んでいる殿中でござる。おそらく記載にあった仲間を呼ぶというスキルだろう。
遠くの方から無数のござるが聞こえて来る。
「こいつら仲間を呼ぶわ!」
「こんな狭いとこで大軍と激突ってか!?」
下がるカインと辰真。
殿にクーフが残って柩の一撃で敵の一体を屠る。
その一撃の強力さを知った二体の殿中でござるは戦慄の表情で鞘に刀を仕舞うと突撃体勢になり腰を深く落とす。
「ござる!!」
気合い一閃、居合斬。
クーフの隙を狙った致死の一撃。
しかし、
「ところがどっこい妖精の輪」
殿中でござるが踏み出した場所には妖精の輪。
アニアの悪戯が成功し、殿中でござるの首に急成長した植物が巻きつく。
持ち上げられた殿中でござるはじたばたしていたが、直ぐに緩慢になって息絶えた。
く、首吊りっ!?
そして仲間が二人死んでしまった残りの殿中でござる。
不利を覚ったらしく、唇を噛みしめ刀を引き抜くと、両手で逆手に持って、なんと自分の腹に突き立てた。
驚く僕らの前で、殿中でござるはハラキリ、自害してしまうのだった。
「な、なんだこの偽人……無茶苦茶じゃねぇか」
「カイン、ゆっくりしてる暇はないわ!」
先程殿中でござるに呼ばれた仲間たちが駆ける音が聞こえる。
ここに留まれば援軍との鉢合わせだ。
僕は即座にポシェットに三体の遺体を取り込み、アルセと共に逃走を始める。
光源が移動したのでカインたちも直ぐに後を追ってきた。
「いい、皆。殿中でござるの特性、頭に叩き込んで。気を付けるべきは二つ。居合斬と丁髷砲よ。居合斬は多分アニアが邪魔してくれたおかげで不発になった行動よ。あの刀をしまった状態からの一撃よ。あの動作になったら絶対に攻撃範囲から逃げて。即死効果がどの範囲まで及ぶかわからないから絶対に風圧も喰らわないように」
全員が頷くのを見て、駆けるネッテはさらに告げる。
「丁髷砲はまだ見てないけど、頭の上に存在してるらしいわ。あの髷から魔弾みたいなのが飛ぶらしいから遠距離だからと油断しないで。できるだけクーフの柩を前にして!」
「心得た」
クーフが頷く。が、それを上塗りするようにカインが叫ぶ。
「おい、やべぇぞ! 前に広間がある!」
「何か居ます! ちょ、待って、カインさん、アレ、殿中でござるが一杯!?」
目の前に存在したのはまさかのモンスターボックス。いやハウスか。
慌てて回れ右しようとするが、そちらからは殿中でござるが死に際に放った仲間を呼ぶ攻撃で現れた援軍。
ござるござると徐々に距離を詰めて行く。
ここには大立ち回りをしてくれる時代劇ヒーローは誰もいない。
ちょっと暴れん坊な人とか桜吹雪の人とか来てくれない? 印籠持ってても良いよ!
前門のモンスターハウス、後門の魔物の援軍。完全な挟み打ちです。
ちなみにモンスターハウスというのはその部屋自体がトラップみたいなもので、魔物が大量に生息して、やってきた冒険者に襲い掛かるというものだ。
普通はドアで隠れていて入ったら解ったりするものだけど、この広間にはドアが無いみたいなので通路から殿中でござるの群れが居るのは丸分かりでした。
「ええい、やるっきゃねぇ。突破するぞ!」
「ちょ、あのモンスターハウスをですか!?」
「狭い場所で遠距離魔弾撃たれまくるよりマシだ!」
リエラの驚きに応えるカイン。僕としては通路を突破した方が良いんだけど……まぁ、どっちにしろ死闘になるのは確定っぽい。




