第四章プロローグ・その脅威を止める術を、誰も知らない
「どうして、どうして俺なんだっ」
赤く燃えるような黄昏時、深い森を掻き分けて、男は息も絶え絶えに走っていた。
その首は何度も背後を振りかえる。
隣には二人の男女。
巨大な柩を肩に引っ提げた青白い男と亜麻色の女性。彼女の頭の上には空色の、今は夕日に照らされ黄昏色に染まったスライムのような生物がいる。
「バルスさん、急いで!」
「分かってる。分かってるけどっ!!」
「奴の狙いはお前だ。残ったカインやユイアの犠牲を無駄にするな!」
暁にくゆる森を、三人は駆け抜ける。
だが、不意に背後に迫る気配が生まれた。
焦るバルスは嘘だ! と叫びながら必死に駆ける。
アルセから貰ったガイアアーマーが今は重くて恨めしい。
開けた場所へと躍り出る。
そこまで駆けて、バルスは思わずつんのめった。
何も無い場所で無様にこけたバルスに、思わず立ち止まる男と女。
「バルスさん、立って、早くしないと奴が!」
「仕方ない、リエラ、バルスと逃げろ!」
「クーフさん。でも……」
「奴が、来た。我がやるしかあるまい」
茂みが揺れる。柩を持つクーフは戦慄の面持ちでソレを出迎えた。
ポンパドールに特攻服。筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の男が一人、現れる。
やはり追い付いて来たか。クーフは舌打ちしつつ柩を握る手に力を込める。
正直、こんな事になるなんて思いもしなかった。
その男はクーフなど眼中にないとばかりに威嚇して来る。
睨みつけられたクーフは顔を背けることなく対峙する。そんな彼に、奴は行った。
バルスに見せたあの行動を。
思わず背筋をゾクリを這うような感覚に、クーフは戦慄の表情で柩を構えた。
「行け、リエラ!」
「は、はいっ!」
バルスの手を引いて走る。
既に日は傾き、夕闇が迫ろうとしていた。
掻き分けた先の茂みが揺れる。
思わずそんなっ。と呟き立ち止まるリエラ。
視線の先から現れたのは……緑の少女だった。小さなつぼみを頭に揺らす少女を見て、リエラは思わず安堵の息を吐く。
良かった、ようやく合流できた。
そんな微笑を浮かべ、リエラは彼女へと駆け寄る。
「リエラさんッ!」
刹那、バルスが叫ぶ。
咄嗟にそちらを向こうとしたリエラ。横合いから重量物が激突した。
緑の少女の目の前で、華奢な少女が宙を舞う。
ポンパドールの男が邪魔者を排除して、ついにバルスへと王手を掛けた。
バルスは恐怖で腰砕けとなり、太ももが暖かく湿っていく。
ポンパドール男は粘つく笑みを浮かべてバルスに近づく。
そんなバルスの危機のすぐ横で、リエラが地面に……激突した。




