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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第六話 その結婚式にでた食事の素材を僕らは知る気はない
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その祝福の理由を、皆は知らない

「豚だ……」


「オーク?」


「え? どういうこと?」


「何でオークが?」


 困惑に満ちたエルフ達の視線を一身に受け、それでも胸を張って歩きだすバズ・オーク。

 凄いな、リエラと違って肝が据わってる。

 彼はリカードさんと村長に連れられて村の中央へと向かって行った。


 僕らは遅れて彼に付いて行く。

 アニアさん、マルケさん、何でそんな悪だくみしてる顔で笑ってるのかな?

 って、なんか妖精が大量に現れたぞ!?


「うふふ。妖精郷に戻った際に皆に伝えといたよ。エルフニアでエルフとオークの結婚式があるから見に来たらって」


 おいそこの妖精、お前なんて危険なことしてくれてんの?

 エルフだけでも手一杯だってのに、悪戯好きの妖精が大挙して押し寄せてるぞ。

 どうすんだよこれ、エンリカの結婚式大丈夫なのか?


「ふむ。まだエンリカは来てないらしい。おい豚」


「ぶひ?」


「いいか、教えた通りのことを一つでも抜かした場合お前の顔面の傷が増えていくから覚悟しろ。エンリカに絶対に恥を掻かせるな」


 ドスの利いた声で告げるリカードさん。

 ゴクリと生唾飲み込むバズ・オーク。

 ここから先はバズ・オークだけの戦場だ。

 頑張れバズ・オーク、ここがお前の腕の見せ所だ。

 紳士力を見せてみろ!


 わぁっと声が上がった。

 感嘆を洩らす女性陣。

 緑の薄い花嫁衣装を着たエンリカが母親に連れられやってきた。


 凄いな、まるでウエディングドレスだ。

 頭に掛かってる薄緑のはケープかな?

 伏せ眼がちに歩くエンリカの姿を見たバズ・オークは一瞬、我を忘れたようにぼぉっと突っ立っていた。

 目の前にエンリカが来た事ではっと我に返って慌てて腕を差し出す。


 エンリカの右手を取って、片膝ついて傅くと、エンリカの手の甲にそっと口づけする。

 ここからが結婚式の始まりだ。

 エルフ式というのは遥か昔に一人の若者が神に誓った婚約の儀を模しているらしい。


 その男は数々の女性をその甘いルックスで落とし、遊び歩いていたらしいが、あるエルフと出会ったことで本当の恋に目覚め、気の無い彼女の気を引こうと必死にアピールし、なんとか彼女のハートを射止めたのだとか。その時、彼らの創造神とされる神に祈りを捧げた告白を行ったらしい。


 その出会いこそが今の手の甲にキスらしい。

 ちっ。リア充の恋物語とか死ねばいい。

 どんな話かと言えば散々遊び歩いたチャラ男が初心な女性を手篭にする話じゃねェか。

 爆死しろ。というか爆死させてやる。


 バズ・オークの左腕にエンリカが腕を絡ませ、二人揃って前を向く。

 ウエディングロードのように中央の祭壇向けて歩きだす。

 祭壇はエルフニアの中央にそびえる巨大樹の根元に設置され、村長が彼らの到着を待っていた。


「では、夫、バズ・オーク、妻、エンリカ・エル・ぱにゃぱの婚約の儀を始める。双方、世界を管理せし神々へと誓いの報告をあげよ」


「あなた、あの誓い、覚えてますか?」


「ぶひぷひ」


 エンリカとバズ・オークが揃って声を出す。


――我等エンリカ・エル・ぱにゃぱ、ぶひバズ・オーク両名は生まれ落ちし場所も育てし場所も違えども、健やかなる時も、病める時も、共に分かち、共に歩むことをここに誓う。願わくば、同じ日、同じ時、同じ瞬間に息絶え、共に永遠にある事を求む。全ては我らを見守りし神々に捧ぐ。我らが命、燃え尽きるまで――


 アメミルドの首飾りにあった文句を少し変えてエンリカが告げる。

 バズ・オークも告げていたけどこれ、ちょっとわかりません。

 だってぶひぶひ言ってるだけだし。


 そして、誓いの言葉が終わった瞬間だった。

 バズ・オークとエンリカの身体が突然光り輝く。

 唐突な事象にエルフ達が驚きの声をあげていた。

 というか、妖精共何してんだよ。


 僕だけは気付いた。妖精の数人がなんか魔法を唱えやがったことを。

 そのせいで、まるでバズ・オークたちが祝福受けたみたいに見えたんですけど!?

 クスクス声を殺して笑い合う妖精たち。

 精霊球っぽいのも舞い始めた。当然奴らの仕業だ。


 エルフ達には動揺が広がっている。

 オークと結婚したエンリカを、この後村八分にしようとか、下賎の民だと見下そうとしていたプライドの高いエルフたちは見てしまったのだ。神々の、精霊の祝福を。

 エルフと婚約したオークが神々の許しを得たという事実を目撃してしまった。


 それはつまり、神が認めた。ということに他ならず、その神が認めたオークを夫に迎えたエンリカは下賎などでは決してない。神の寵愛を受けた立派なエルフだという事に他ならない。

 オークが、エルフとの結婚を認められたという事を、今度はエルフ達自身が認めなければならなくなった。

 エンリカを卑下することはできない。それをしてしまえば自分が、祝福した神をないがしろにしたという不敬となるからだ。


 妖精さん、今回の悪戯はイイことしましたね。黙っとくよ、奇跡でも何でもなく妖精の悪戯だったという真実は。

 カシャ。

 祝福を受けたバズ・オークとエンリカが、祭壇の上で誓いのキスを交わし合う。そんな光景が、僕のCGに追加されたのだった。

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