その彼がなぜここにいるのかを、彼らは知らなかった
「あれ? 皆さん奇遇ですね」
始め、それが誰なのか分からなかった。
コテージの一つから出て来たのは……ミクロンさんです。
おい、お前が何故ここにいる!?
「ミクロン!? なんでここに?」
「魔物図鑑をこちらでも創ろうと思いまして、皆さんが向いそうにない場所に足を運んでいるんですよ。まさかここに来られるとは思いませんでしたが」
メガネを直してふふんと鼻を鳴らすミクロン。
コテージから降りて来る途端、足元に妖精さんが。
ああ、悪どい笑みを浮かべていらっしゃる。
氷の魔法を使った妖精により、ミクロンの足が滑った。
つるーん、ゴン、ドタドタドタ。
氷に足を取られたミクロンは上段部分に後頭部を打ち付けそのまま階段落ち。
うわぁ……
さすがに妖精も予想外だったようで笑いを止めて驚いていた。
アルセだけだよ、指差して笑ってるの。
もう、ダメだよアルセ。下手したら命にかかわる落ち方なんだから。
「ミクロン生きてる?」
「なんとか……まぁ妖精のすることですから笑って許すぐらいでないと」
許せる段階か?
ミクロンと話し合うネッテはその場に放置して、僕らはロッテアに紹介された三つのコテージに分かれて入る。
一つは男性用、一つは女性用、残りはどこぞのバカップルというか家族用です。
エンリカたちのコテージが一番遠くに有るのは気を利かせてくれたのだろうか。
ありがたいことこの上ない。
奴らの声が夜中聞こえてきたら……きっと僕はリカードさんの代わりに豚を討つと思う。
カイン、クーフ、辰真と別れ、女性陣がリエラを筆頭にコテージに入って行く。
女性用コテージにはリエラ、葛餅、ネフティア、アルセ、プリカ、アニア。結構女性の人数が増えたな。
というか、アニアよ、お前妖精郷着いたのになぜ一緒に部屋に入って来る?
まるでそのまま付いてきそうな勢いじゃないか?
「ふぅ。ようやく休める……」
コテージ内は簡素な造りで、六つのベッドがあるだけの部屋だった。
キッチンとかはない。本当にただただ寝泊まりするだけの施設らしい。
というか、よく人数分用意されてたね。
リエラがベッドに座ると、プリカも適当なベッドに腰掛ける。
ネフティアもベッドを選んだので、アルセ用のベッドも選んであげる。
ん? ここでいいの? じゃあここにしようか。
そんな僕に対して、何故女性用コテージに普通に入って来てるんですか? といった疑惑の視線をリエラから受け取った。
いやいやリエラさん。僕は純粋にアルセの世話をするためにですね……
「全く、驚いたわね」
あ、ネッテさんおかえりなさい。丁度良かった。
僕への視線を逸らしてネッテに視線を向けるリエラ。
疑惑の視線が無くなった御蔭で僕は思わず息を吐く。
「ミクロンさん、ですか?」
「ええ。いっつも城から出ていない気がしてたけど、行動する時は誰にも言わずに我武者羅だから」
なんというか、さすが学者というべきだろうな。
「彼の図鑑を見せて貰ったんだけど、エルダートレントに会ってるみたいね。ただドリアデスやドライアドについては書かれてなかったわ。何でも男性一人で会うのは危険だからと妖精たちに止められてるみたいね。おそらくミクロンの性格上おあずけに耐えられなくなって向うと踏んでの悪戯ね」
あいつの貞操、終わったな。
「それで、あの人はついてくるんですか?」
「……ええ。ロウ・タリアンのこと話したらこっちに来るって。ドライアドどうこう言ってたのも既に忘れたみたいにはっちゃけてたわ。妖精たちが舌打ちしてたわね」
ちっ。悪運の強い男だ。
「ところで、この辺りはお風呂とかシャワー、ないですよね?」
「そういえば、水のある場所自体見てないわね」
「水なら泉にあるよぉ。行く?」
「食事はぁ? ご飯はまだぁ?」
「えー? ご飯は自分たちで作れだよ?」
アニアが水場に案内すると告げると、何故かプリカが食事を催促。
お腹からはぐきゅるるるるると獰猛な動物の唸り声が聞こえています。
そんなプリカに告げるアニア。呆れた顔をしている。
「折角だし水場でオリーでも食べましょうか」
「それがいいでしょうね。カインさんたち誘って行きましょう」
と、いうわけで、荷物……はないので皆揃って部屋から出る。
部屋には何も残さないでおいた。
荷物があれば置いて行くのだろうけど、クーフの柩や僕のポシェットという便利道具があるので手荷物がないのだよ。
だから、僕らが部屋を出た後に隠れるように部屋に入って行く妖精たちを見て御愁傷様というしかなかった。
多分、外出から帰ったら荷物が大変なことに……みたいな悪戯する気だったんだろう。
全くないから悪戯できない彼女たちがどう行動するか、ちょっと楽しみである。
帰ったらどんなことになってるかな?




