その場所でゆったりできるかを、彼らは知らない
「初めまして、この妖精郷を管理しているハイピクシーのロッテアといいまーすっ」
能天気な妖精が現れました。
他の妖精と違うところ? 一回り大きいくらいかな?
掌サイズの妖精たちと比べると、といったところだ。
ハムスターくらいのサイズかな? もうちょっと大きい?
そんなロッテアはやっぱりハイテンションで現れた。
周囲を飛びまわりカインたちを見て回ると、気絶しているネッテの髪に舞い降りる。
「ふぅ。ちょっと一息」
そして「ぶっ」と何かがきこえた。
おい、ちょっと待てそこの妖精、お前どこに座って何をした?
こら、鼻押えてくちゃいくちゃいとか言ってる場合かっ!?
「悪戯にも限度あるだろ……」
呆れた声ながら注意らしい注意をしないカイン。
それでいいのか?
気絶中のネッテが険しい顔をして眉根を寄せている。可哀想に。
「で、何しに来たの?」
「ああ、なんかこの森の奥にロウ・タリアンってのがいるらしくてな。そいつに挑戦しに行くんだ」
「へぇロウ・タリアン……え? マジで。自分から死にに行くとか、君たちは自殺志願者だったのかい?」
「いや、倒すつもりだけど……そんな危険なのか?」
「男性はまず勝てないと思うよぉ。アレはそういう生き物らしいから」
男性に対してだけ強くなるんだろうか? それってつまり、ロリコーンのメスバージョンとかそんなんかな?
でも、なんだろう。この語呂からなんとなく理解出来るような不安感。
僕の不安が間違いであってくれますようにと願っている僕がいる。
奴なわけない。あんなの化け物がこの世界にいるはずない。というか居てほしくない。
いや、普通に化け物は失礼か。人間だし。
でも、可能性が高い。偽人なんて魔物がいるくらいだし奴が居ても……
「で、妖精郷で一日ゆっくりしたいと。いいよ? でもゆっくりできるかなぁ」
「なんだよ。なんかあんのか?」
「だって、妖精は悪戯好きの生き物だよ? ゆっくり寝れるなんて、できるかなぁ?」
不敵に微笑むロッテア。
その顔からして確実に悪戯するよと言われている様なものだった。
あるいはそう思わせて警戒させて襲って来ないとか。
襲撃にびくつくあまり一日寝れないで起き通す。これも立派な悪戯である。
容赦ないな妖精。
だが、こちらも笑顔の圧力では負けていなかった。
「いいですよ。私の家族にこれ以上何かするのなら、私はここを焼け野原に変えるだけですから」
底知れぬ笑顔で圧力を掛けるエンリカ。その殺意にさすがのロッテアもぶるりと身体を震わせる。
「さすがに、身の危険を感じる存在に悪戯する気はないかなぁ」
妖精たちの間ではエンリカは悪戯対象外になったようだ。
何せ次に何かすれば妖精郷を滅ぼすと宣言したエルフ様だしね。
家族に悪戯しなければ問題ないのだからバズ・オークとバンリの安全は確保されたようなものだろう。
「一応、迷い込んで来たりした人間用に寝床は幾つかあるからそこに泊るといいわ」
「わざわざ悪いな。できれば、悪戯を無しにしてくれるとありがたいんだが」
「それは無理ね。妖精のアイデンティティだし」
カインが落胆して見えたのはおそらくこれからの自分を想像したのだろう。
頑張れカイン。勇者はこの程度の悪戯笑って許せるはずだ。
ネッテをクーフが背負い、僕らはロッテアに連れられて妖精郷の居住地へと向うのだった。
妖精郷はその殆どが花畑だ。
妖精は花の上に乗って休憩したり、花を摘んで日傘みたいにしたり、花の蜜を吸ったりしている。
蝶々なども混じっているように見えるが、それを追いかけ回す妖精の方が多い。本当に悪戯好きらしく誰に対しても悪戯するようだ。
妖精同士でも悪戯し合っている。
「人間とかいるのか?」
「他の人? いるよぉ。なんか妖精が好きだって変わったのが数人。悪戯し放題だからこっちとしては大歓迎だけどね。あ、一人私達の仲間と結婚した人居たな。アレは真性の変態だよ。どっちもね」
妖精と結婚する人間も変態だが、人間と結婚する妖精も確かに変態だ。
で、そんな二人は少し離れた郊外で暮らしているのだとか。行く気にはならないけどね。
他にも妖精の生態を調べたい学者さんとか道に迷ったまま帰れずにいる少女とかいろいろいるらしい。
「ほいさ、着いたよぉ」
人間たちの寝床……どう見ても……犬小屋だ!?
「さぁさ、何処でも好きな部屋で寝てくださいな。クスクスクス」
確信犯だ!?
さっそくの悪戯にカインたちは何も言えないでいる。
あ、アルセ、入るの!?
僕から離れてとことこ歩いたアルセは犬小屋に入る。
そして顔だけ入口から出していた。
何か気に行ったらしく笑顔です。
「ぷくっ。あっははははは。ホントに入った。入ったよ。ざんねーん。それは人用じゃなくてペットの寝床でしたぁ。ホントはこっちぃ」
悪戯が成功したとばかりにロッテアが楽しげに言う。
やはりか。まぁアルセは楽しそうだからいいけどさ。アルセ小屋……か。ちょっと可愛い。
でもここをアルセの部屋にするつもりはないので僕はアルセを引っぱり出す。
あれ、もうちょっと入ってたかったの? ダメです。
結局連れて行かれたのはコテージが連なる場所だった。
凄いな。これ、誰が作ったんだろう?
どう見ても妖精には建設不可能な施設です。
ロッテア
種族:妖精 クラス:ハイピクシー
・ピクシーの上位個体。
妖精郷を管理しているが、全体的なピクシー社会からいえば格下の存在。
時折妖精会合というモノに出席するため妖精郷から外に出るらしい。
ハイピクシー
種族:妖精 クラス:ハイピクシー
・ピクシーの上位個体。
ピクシー達より一回り大きい。
高位存在ではあるが悪戯好きには変わりがない。
ドロップアイテム・妖精の粉・妖精の羽・妖精の腕輪




