三百三十八・その悪夢が現れたことを、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
「おお、弟者よっ!!」
「兄者ぁ――――っ!!」
僕らは今、何を見せられてるんだろう?
筋肉達磨と筋肉達磨が魔物の群れを蹴散らして抱きしめあっている。
再会を喜ぶ男達は、邪魔な周囲の魔物を血肉へ変えて、再会を喜び合う。
正直これが美少女同士とかなら眼福ですってもんだけど、筋肉達磨が二体抱きしめあってるとなんだかなーって気分になる。
けど、これでかなり楽になりそうだ。
弟さんは斬星君達の知り合いってことでこちら側だし、兄の方も知り合いだろうから味方になってくれるだろ。
となると、魔物の群れに対して余裕が生まれる訳か。
「ぬぅぅんっ」
ユーデリアさんも空に上がったまま戻ってこないし、かなりの魔物を退治しているけど未だに魔物数が減った気がしない。
本当に裏世界の世界中の魔物がここ目指してんのかな? そうなると数万や数十万じゃ足りないくらいの魔物達がやってきている訳だけど、そこまで僕等は苦戦してないから数はそれ程でもないはずなのだ。
それに巨大な生物は来てないし。
八本足とかの群れが来たらさすがに無理だったけど、現れた魔物は殆どがカエルモドキなどの小型、大型はマンタ系とかだろう。そのほとんどはユーデリアさんが対応してくれてるから問題は無い。
「よぉし弟者、まがぜろぃ、我が力みせぢゃるぜぇ」
弟さんと共に魔物を蹴散らし始める兄者さん。
御蔭で戦場がかなり楽になった。
グネイアスの兵士や反乱軍の人たちは遠くから弓や魔法を発射するだけでも十分対処出来るようになったし、僕らも……ん?
なんだ……あれ?
少し遠くに、何かが見えた。陽炎のように空間が歪んで見える。
そこに、黒い人影が……いや、むしろ黒い人型が……
「なんだあれ? ノヴァかな?」
「ノヴァさんならグーレイさんとこだろ。わざわざあんな魔物の群れにダイブしてる訳ないよ」
じゃあ。何だ?
「信夫っ!」
ッ!?
それに反応出来たのは、偶然だった。
声に反応して飛び退いた、次の瞬間、先程まで僕が居た場所を黒い光線が通り過ぎていく。
「は? え?」
はるか後方で街門が崩れる音が聞こえた。
全身からどっと汗が噴き出る。
なんだ、今の?
「ぼぉっとすんな灼上さんっ! 次が来るぞっ!!」
「お、おっほぉぉぉっ!?」
慌てて飛び退き動きだす。
再び放たれた光線が魔物を飲み込み、僕の真後ろを通り過ぎていく。
ひぃぃ、背中当たった? いや、服だけだ。服の背中側だけ消失してしまったけど今は逃げることを優先だ。
「おおお、なんだぁありゃぁ!?」
「弟者、こりゃさすがに引ぐぞぉ!!」
未知の攻撃に肉達磨二人も撤退。
僕らが街門まで撤退した時には、既に街門が瓦礫の山と化していた。
な、なんでこんなことに!?
というか、アレなんなの!? 真っ赤な口がニタァって裂けてるんだけど!?
「一気に巻き返された!?」
「あんなもん戦えるか!? 一撃で街門まで破壊出来るんだぞ!?」
「性剣、何とかできないのか!?」
―― あんなの対応出来るかぁ!? ――
遠距離でアレだもんなぁ、近づいたらどんな攻撃が来る事か。
ユーデリアさんも近づかないように、月締君、伝えてくれる?
「なんとか伝えますけど、っていうか女神様見てるなら伝えてくださいよっ!」
―― ……め…………じゃ…… ――
なんて?
ノイズ混じりの天の声、明らかに異常事態だ。
「ゴールドたん、悪いんだけどグーレイさんに連絡に行って来てくれる?」
「ん。大丈夫?」
「こっちはなんとか持ちこたえてみせるよ」
多分、グーレイさん達が探してた奴だ。
つまり、ゴールドたんがグーレイさんの元へ辿りついて援軍が来るのを待ちながら少しずつ撤退、中間地点位で合流できるはずだ。
せめてあの光を跳ね返せるメンバーさえいれば……光?
「ああっ! 光だよ、光、光来君っ!」
「あ?」
「あの光、君なら撃ち消せるんじゃないか!?」
「いや、無茶言うなよデブ。さすがにあんなもの……ん? 光なら……いけるか?」
神妙な顔で考え出す光来君。四の五の言ってる暇はないから、すまん。
「悪いけど命令、あの光何とかしてくれっ!!」
「うをい!? 命令しないんじゃなかったのかよ!? 畜生、覚えてろよデブッ!!」
光来君が皆の前に出る。
光来君向けて一直線に飛んでくる黒き光の奔流。
彼に当たるその刹那、光は15°くらい上方向けて、反射されて飛んで行く。
「おー、行ける行ける、光全反射」
いや、駄目だったら君死んでたよね今の!? 命令ってそこまで簡単に命投げだせるの!? 奴隷の首輪恐っ!?
これは光来君をグーレイさんの元に送ったら速攻で破壊しよう。
この世界に生存させてはいけない道具のようだ。