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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
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三百三十六・その彼の想いを、彼女は知らない

SIDE:小玉陸斗


 信頼していなかったと言えば、嘘になる。

 あいつなら大丈夫。そんな思いと共に、もしかしたらという思いは常に存在した。

 食の英雄と言うから食べたもので消化不良を起こしたりはしないだろ。そう思っても常に、胃薬は用意していたし、いつでも向かえるようにと、各町の医療関係者は探していた。


 結果を言えば不要だったけど、この世界に来てから、俺は檸檬のことばかり気に掛けていた気がする。

 幼馴染の妹だからって事もあるんだろうけど、なんかこう、放っておけないんだよな。

 今回だって凄く心配で……特に空から聞こえたバリバリという感電音が聞こえた時にはさすがにそちらを見てしまった。

 そう、見てしまったのだ。

 檸檬が全身から煙を噴きながら巨大な龍モドキに喰らいつく姿を。

 徐々に内部に入って行く彼女だが、何故か不安が俺の全身を震わせる。


 そのまま、彼女が居なくなってしまうんじゃないか、そんな嫌な予感が脳裏をよぎったのだ。

 アイテムボックスを確認する。

 失った肉体すら回復するエリクシールとかいうのはグーレイさんから各自一本づつ貰っている。

 檸檬も使ってるとは思うけど……食べるのに夢中だったらもしかしたら……


 龍モドキが落下し始める。

 あの速度で落下したら内部に居るとしてもかなりのダメージになるのでは?

 これ、皆気付いてないけど、不味いのでは!?


 周囲の魔物を解体しながら俺は前進を始める。

 ただの杞憂ならいい。

 俺自身にこれを使えばいいだけだ。


 必死に進む。

 足に噛みつかれた。

 グリープが引っぺがされる。

 腕に噛みつかれた。

 手甲が噛み砕かれる。

 すぐに解体したので相手は消えるが、防具のダメージは無視できない。

 いや、防具だけじゃない。

 左腕に噛みつかれた。

 嫌な感触で左腕の感覚が消える。


 右腕で敵を解体。

 すぐに別の敵が襲ってくるので蹴り飛ばして解体。

 あと少し……


「おい、戻れ小玉ッ! 何してんだあの馬鹿!?」


「クソ、敵が多過ぎる、私ではあそこまで向えんぞ!?」


 御免リックマンさん、矢田、でも、もう少しなんだ、後少しであの龍モドキの落下地点に……

 あっ!?


「ええい、頼む、これを彼に届けてくれっ!!」


「え? で、でも……」


「頼む、君しか、君しか頼めないのだっ!!」


 リックマンさんは防波堤だ。魔物達との最前線で食い止めないといけないから俺の元へは向えない。

 矢田は空担当になっているし、Gババァも空の魔物を仕留めるのに手いっぱい、俺への援護は無理だろう。

 ああ、畜生、俺ってば馬鹿だなぁ、足まで喰われたら檸檬の元まで行けないじゃないか。


 右腕が引きちぎられる。

 口にナイフを持って相手を解体する。

 四肢が動かなくなってもこれで……


「この、馬鹿ァッ!!」


 不意に、身体を浮遊感が包んだ。

 不思議に思った次の瞬間、空を飛ぶマンタモドキの上に跳ね上げられ、女性に抱きとめられる。


「あれ? シシリリアさん?」


「なんでその体で普通に疑問浮かべられんのよっ!? ほら、さっさと飲め」


 無理矢理何かを飲まされる。ああ、これは、リックマンさんが持ってたエリクシールか。

 少しして、身体に気持悪い感覚、何か失ったモノが復活するというか、ああ、喰われた場所が生えてるのか。こんな感覚なのか、ちょっと慣れたくはない感覚だな。


「ありがと」


「あんたが自滅してたから渡せって言われただけよ! 全く迷惑だわ」


「ならさ、迷惑ついでに、檸檬の場所まで連れてってくれないか?」


「はぁ!? ああもう、あそこに行けばいいんでしょッ!」


 どうやらバグっていても騎乗能力はあるらしい。

 ……ん? 彼女が触れてる騎乗生物、バグってるのでは?

 そしてそこから俺も感染しているのでは?

 まぁ、いっか。


「ほら、付いたわ。なぜか魔物が寄りついてないんだけど、これってもう死んでるのよね?」


 胴体真っ二つで食い散らかされている龍モドキ、俺は近くに降ろして貰い、解体を始める。

 中に居るだろう檸檬を間違って斬らないように、慎重に慎重に……まだ帯電してるぞ、これ。

 やがて、もぞもぞと動く何かを発見する。


「え? これって……あんたたちマジオカシイわよ!! なんでこんなになってまで戦おうって思えるのよ!?」


「檸檬……もう、いい、もういいんだよ、ほら、これ飲んで」


「ちょ、ちょっと!? その炭化したの、触れたら崩れない? 大丈夫?」


 ちょっとビリッと来るけどそこまでじゃない。

 おそらく、既に龍モドキは絶命していて、残った帯電している電力が微弱な放電をしてるんだろう。

 檸檬を抱きとめ、むりやりエリクシールを飲ませる。


「……あれ? 陸斗?」


 喉をやられているのか、かすれた声で、彼女は呟く。


「ああ、もう終わったよ。お疲れ、檸檬」


「そっか……あのね、言わなきゃいけないこと、あるの」


「……ああ、俺も、言いたい事がある」


 彼女が死んだかも、そう思ったら、居ても立っても居られなくなった。

 だから……多分、俺は……


「陸斗、好きです、付き合って?」

「檸檬、好きだ。彼女になってくれ」


「バカップルかよッ!?」


 シシリリアさんの魂の叫びが、虚空へと消えていった。

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