三百三十四・その面倒臭い女の扱いを、彼は知る気もない
SIDE:矢田修司
弓を引く。矢を番える。相手を狙う。
弦を離す。矢が飛ぶ。次を番える。
残心なんて不要だ。極力削る。そんな時間こそ惜しい。
空を飛ぶ魔物どもはひっきりなしに襲いかかってくる。
こいつらを一掃するのは難しく、弓使いたちも高度の関係か外す者が多い。
こうして矢を放っていると、俺が一番命中率良い気がするんだが?
俺なんて、アレだぞ。リーダーに言われたから一日10射程度やってるくらいだぞ?
こんな適当にやった弓の英雄が一番命中率が良いってオカシイだろ。
お前らほんと弓兵か?
あ、今落下していったのはシシリリアの奴が乗って来てた奴じゃね?
まぁいいか、とりあえず出来るだけ削っときゃ言い訳は立つ。
リーダーが頼むと言って来たからな、俺が出来る範囲はやらせて貰うぜ。
「だから、私はっ」
雑音は聞く気はねぇ。
シシリリアがなんか叫んでるが気にしねぇ。
集中集中……あ?
なんだこりゃ? 集中し過ぎたか? 空の上の魔物どもとの距離近く見えるな。
まぁいい、狙いやすいならむしろやりやすくなっただけだ。
もしかして、これがバグった効果か?
だったら嬉しい誤算だが……ん?
遥か遠く、魔物達の合間に見え隠れするソレを見付けて、思わず訝しむ。
作業のように矢を放ちながら、合間に見えるソレが何かを探りだす。
次第、背中に流れ始める汗。全身が震えて来る。
……ヤベェの、来てンじゃねぇか。
「あいつは好き勝手してるのに、私だって好きにしていいじゃんっ。なのになんでっ」
はぁ、結局あいつはやりたいように生きるって意味をはき違えていただけか。
やりたいように生きるってなぁよ、自分が好き勝手生きるだけじゃねぇ、その結果自分が死ぬ事になろうがサツに捕まろうがテメェで責任まで取るってことだ。責任を他人に預けている様じゃ好き勝手生きるって言えねぇよ。とはいえ、アレはさすがに俺にゃ無理だわ。
「おっさん、悪りぃが全員に撤退告げてくれや」
「はぁ!? あんた、いきなり何言ってんの!?」
「るせぇよ、クソ女。アレ見てから言え」
あれ? と皆が俺が指差した方角を見る。
しかし、誰も気付いてないらしい。
「おい、Gババァ、アレが見えるか!」
仕方なく上で魔物と一人戯れているババァを呼ぶ。
「アレとはなんじゃ? ん? ああ、あの長いのか。ありゃ多分龍とかいう生物じゃな」
「龍っ!? それはまさかあの時の?」
「さすがにアレを相手に闘えるか未知数だろ、こういう時は逃げるのが一番だ」
が、皆の表情は硬い。
まぁ、そうだろうなぁ。アレがアーデの大樹に到達してしまうと最悪の結果になりかねない。
つったって、俺らじゃ勝てる要素ゼロだぞ?
「アレを倒せばいいのよね?」
「倒せると思ってんのか?」
「倒せるかどうか分かんないけど、近くに行ければ……食えるわね」
……ここにバケモノよりバケモノがいるじゃねぇか、何この女。ヤベェ。
「ふむ、なら儂が運ぼうかねぇ」
「矢田っち、悪いんだけど、周辺の魔物狩ってくれる? 邪魔されるの嫌だし」
「ああ、いや、まぁアレ倒せるってならやるがよ? マジか?」
「任せてよ! えへへ、いやー、龍の踊り食いは初めてだなぁ」
「全く生は駄目だって言ってるだろ檸檬。でも、今回はお任せ確定、かな」
「うん、私に任せて。陸斗は下をお願いね」
「下、かぁ。まぁやるだけやるか。ちょっと、本気出してしまおう」
「今まで出してなかったのかよ?」
「巻き添えになるかもって自重してたんだ。リックマンさん、他の冒険者さんたちを下がらせて貰えます? 矢田、空は任せるぞ」
「チッ、しゃーねーが任されてやる」
方針が決まったので俺達は動きだす。
シシリリアが呆然とした顔で見ているが、俺達は誰も気にしない。
さっきまで仲間面して言い分聞いてた杙家ですら全く無視な現状に、彼女だけが切り替えできてないようだ。
俺は気にせず矢を番え、弓を構える。
ちょっとの雑談の間に随分と奥まで迫ったものだ。
纏めて矢を引き絞り、放つ。
本来ならこんな無茶な撃ち方じゃ一匹足りと狩れやしないのだが、弓の英雄の効果だろうか?
撃ち放った無数の矢は、謎の軌道を描いて同じ数の魔物を屠って行く。
ハッ、今回は英雄補正にお任せするとしようじゃねェか。
さすがに俺だけだとあの数無理だったからな、
丁度良いから今回はこの補正を存分に使わせて貰う。
引き絞った際に位置合わせ等を行っていたのだが、これを放置してひたすら狙いを付けずに矢を放つ。
なのに放たれた矢は空を飛ぶエイモドキをことごとく討ち取って行くのである。
なんっつーか、的絞って矢を射る必要性、あるのか?
見る必要すらないから適当に放っとけば勝手に当たるみたいだし。
なんか必中スキル取ってたかな?