三百三十一・その戦う必要がなかったことを、彼は知りたくなかった
SIDE:月締信太
身体が動かない。
今のダメージで体に力が入らない。
僕はなんとか立ち上がろうと必死に力をいれるが、全身が痛みを返してくるだけで動こうとしてくれない。
ゆっくりと、ギガスが近づいてくる。
このままだと僕は……
空の上では未だにマンタモドキが墜落しているのが見える。
つまり、ユーデリアがこちらに来る可能性は、ゼロだ。
ソレはすなわち、僕の死が近づいていると言っていい。
ああ、悔しいな。ユーデリアと、幸せな人生、送れるって思ってたのに、僕はここで、この巨大な肉の塊に押しつぶされるのだ。
ユーデリアは泣いてくれるだろうか?
「どしだぁ? もう終わりがぁ?」
そうだよ、終わりだよっ。
僕の大技不発にしといて挑発か畜生。
残念だけど全身の力が無くなっているので何かを告げることすら……
「あれ? もしかしてだけどギガスさん?」
……ん?
「あんれ、お前、だじが、グーレイと一緒にいだ……」
……んん?
「何してんの、ギガスさんって確か裏世界にいたよね。あ、僕は斬星だよ斬星英雄」
……んんんんんんっ!?
視界に飛び込んできたのは何してんの? と素で分かってない様子で近づいてきた斬星さん。
ソレを見付けたギガスが知人に会ったように片手を上げて挨拶する。
「なんがなぁ、がみとがいう奴が表世界いぐって裏世界の住民ぜぇんぶ押しだしたんだ。おでも兄者も離れ離れでこっぢぎじまっでよぉ。んだら、ごいづが力試ししでぎだがら、遊んでたんだど」
「へー、遊んで……月締君っ!? 血だらけじゃないか!? ぎ、ギオちゃんっ」
「あ、はい、お薬出しますね」
「ポーションよりハイポーション以上の奴ね。このダメージはかなり上級じゃないと回復しないよ」
「は、はい、そうですよね!?」
今、ポーション取り出してたよね?
え? ていうか、このバケモノ、知り合い?
「あ、そうだギガスさん。今この街裏世界の魔物に襲われてるんだ。もしよかったら手伝ってくれません?」
「おぅ、構わんどぉ、楽しませでもらっだじなぁ、手伝ってやんでよ」
回復薬を貰ってなんとか動けるようになる。
ふぅ、大変な目にあった……
「あ、あの、もしかしてですけど、知り合いですか?」
「んだ」
「グーレイさん達と裏世界に行った時に出会った兄弟の弟さんだよ」
マジに、知り合いだったの、か……
ソレってもしかして、グーレイさん達と会えば戦う必要無く仲間になったって、こと?
僕の頑張りは……? 無駄?
「折角だし戦場に一緒に向かいません? このままグーレイさんの居場所に行こうかと思ったけど、前線を維持した方が良さそうだし」
「んだな。おでがそっちのちっごいのと遊んでるあいだ、他のが必死そうだったしなぁ。遊んだ分あっごではだらぐかぁ」
はぁ、なんだろう、この徒労感?
「まぁ、でも、頑張ったんじゃないかな月締君も、僕らがこなけりゃギガスさんと知り合いだとは分からなかっただろうし」
「ちっごいの結構強かっただぁ、おで、久々に楽しめたでよ」
「そりゃよかった。月締くんもよくギガスさん相手に一人で戦おうと思ったなぁ、僕じゃ無理だよ。ギガスさんの遊びで死にそうだし」
斬星さん、絶対僕が闘った理由理解してるよね?
というか、後ろで逃げようとしてるのって、光来さん?
そっか、捕らえる事に成功したのか。
でも、アレって奴隷の首輪? さすがにちょっとそう言うのは関心しないなぁ。
「ん? ああ、もしかして月締くん、この奴隷の首輪が気になる?」
「え、ええ。なんでそんなのを。いくらなんでも……」
「そこのエロ剣に聞いたんだけど、この首輪、主人が放棄したらすぐ外れるらしいんだ。とりあえずグーレイさん達の所へ連れて行くまでに逃げられないように使わせて貰ってるよ」
「あー、手錠とかの代わりなんですね。まぁそういうことなら、いいか、光来さんだし」
「なんでだよ!? こいつ等人に奴隷の首輪付けてんだぞ!? 人としてクソだろぉがよ!?」
――「「お前が言うなっ」」――
僕と斬星さん、ついでに多分性剣からのツッコミが重なった。
「おで、あんましお前らどいっじょぢでねぇんだど、そいづの性格理解しだぞ」
「あ、あはは……光来さんの性格知られちゃったみたいですよ」
「肉達磨に知られてもどーでもいいね、クソッ」
「にぐだるま? おでのことだか?」
「あー。僕らと比べて筋肉が付き過ぎてるっていう意味だよ」
「んだか。そりゃだぢがに、おでは肉達磨だなぁ」
ちょっと意味は違う気もするけど、本人が納得したなら良いか。下手に蔑みの言葉だと知らされたらどうするんだろう?
まぁ、出来るだけ悟られないようにするけど、多分その内バレるよ斬星さん。




