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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1780/1818

三百三十・その絶死の連撃を、彼は知りたくなかった

SIDE:月締信太


 開始早々、僕は後悔していた。

 敵の攻撃が酷い。

 握られた拳は僕の顔程の大きさ。それが砲弾のごとく、眼で追えない速度で地面に突き刺さる。

 一撃ごとに舞い上がる土埃、風圧で体勢は崩され、返す拳の風圧でギガスの方へと身体が寄せられる。


 近接戦闘は完全な不利。

 距離を取ろうにも速度は相手の方が上。

 バックステップをしようものなら次の瞬間にはほぼゼロ距離で顔面向けて放たれている拳が襲いかかってくる。


 唯一こちらが勝っているのは槍の強度。

 拳を受けることはできるし、槍で受ければ勢いと威力を消せるらしい。

 多分槍の英雄としての能力だろう。


 不幸中の幸いである。

 正直ここまで不利な闘いは初めてかもしれない。

 何しろ一度でも避け損ねたり受け損ねれば、待っているのは自分の死。

 一撃でも喰らえば、おそらく僕の身体など粉砕されるだろう。


 トマトとかに思い切り拳打ち込むような状態になりそうだ。

 しかも、こちらの攻撃は全く当たらない。

 隙だらけなのに隙がない。

 相手の速度と腕力に押されてこちらの反撃は殆どできず、なんとか可能だった数撃も野性の勘と天性の肉体ですぐに避けられる。


「はは、だぁのじぃなぁ」


 しかも相手は遊び気分だ。

 全く本気になってない。

 ゴムボールのような体系をしているせいか、結構ぼよんぼよんと飛び跳ねる。

 ただのゴムボールなら良かったが、この筋肉ボールは跳ねると同時に拳を飛ばして来るのだ。


 こちらは眼で追えないので、発射のタイミングと勘で槍を防御に回す。

 すると槍にぶつかる拳の衝撃。

 少しびくんと震えるが、それだけだ。


 正直、普通の槍を普通に振るってるだけだったら最初の一撃で槍が砕けて自分の身体も砕け散っていただろう。

 今回は相手が悪かった、だけではさすがに済ませられない。

 こいつが相手だろうが、負けられないのだ。


「ごれはどうだぁ?」


「っ!?」


 刹那、危険を感じて槍を地面に突き立て飛び上がる。

 遅れ、さっきまで居た地面が爆散。

 今のは!?


 ギガスが飛び込み蹴りを放ったらしい。

 クレーターのように飛び散った土煙をモノともせずに巨大な肉塊がこちらに飛んでくる。

 槍を地面から突き放ち、二段ジャンプ。

 飛んで来た肉塊をやり過ごす。


「はぁ!?」


 放物線描いて飛んで行くはずだった肉塊は、中空を蹴りつけ軌道修正、ドバンっと空気の壁を打ち付けた音と共に音速で僕に突っ込んでくる。

 ぎりぎり槍で守ったものの、空中に居たがために僕の身体が地面に激突。

 背中からの衝撃で口から血が噴き出す。


 嘘だろこのバケモノ、槍を使ってやっとの二段ジャンプを自身の筋肉だけでやりやがった。

 しかも速度と強度が段違い。

 即座に体勢を整えて地面に着地したものの、全身の痛みと内臓が悲鳴をあげているせいで動けない。


 アイテムボックスからエリクサーを取り出しなんとか飲み込む。

 本数は少ない、体力は一気に回復できたけど、これをあと何度繰り返せばいいんだ?

 向こうからの追撃は無い。どうやらこちらが武器を構えるまで待っているらしい。


「なんだよ、余裕か?」


「もっどだのじもう、おで、ここまであばれるのひざびざ。どでもだのじい!」


 おいおい、あんだけやってて遊び感覚じゃん。

 はは。裏世界の生物ヤバ過ぎでしょ。しかも意識在るってどうなの? これ、話合わせれば戦わずにとかできちゃったり、いや、無理か。


 息を整え槍を握る。

 このままだと駄目だ。

 ただ槍を振るうだけじゃコイツには防御だけしかできずに殺される。


 スキル解禁だ。

 僕の持つ全てを使って、全力を尽くす。

 それ以外は数分も持たずに……死ぬ。


「ステータスギガブースト!!」


「おぉ?」


 槍を構えたまま前に出る。

 走りだした僕に拳を握りボクサースタイルで突っ込んでくるギガス。

 肉の塊が特攻して来るのはあまりにも恐怖だ。

 でも、さらに前へ。


「音速突破ッ」


 さらに速度を上げる。

 衝撃波の壁を突き破り、槍が灼熱する。

 一点突撃。槍の担い手だからこそ放てる至高の一撃。


「乾坤一擲・蒼狼流星槍ッ」


 焔を纏い青くたなびく炎の尾をなびかせ、槍が肉塊へと直進する。

 全てを切り裂き突破せんと、青い焔の槍が……


「ぬぅんっ」


 両手で抱え込むように穂先が握られる。

 がくんっと槍の直進が止まった。

 まさかの正面からのガードに足が止められる。


「嘘だろ!?」


「おもじれぇ技だぁ。だども……どるぁ!」


 弾き飛ばすように押しだされる槍と共に吹っ飛ばされる。

 はずみで手から槍が飛んで行く。

 放物線を描いたのは僕自身。

 着地などできるわけもなく地面を転がり全身に擦過傷を作る。


 一番威力の高い必殺スキルだぞ……正面から押さえ込まれて弾かれるって……

 ああ、ごめんユーデリア、僕、こいつには勝てそうにないや……


  


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