三百二十九・その凶悪なバケモノの存在を、彼らは知りたくなかった
SIDE:月締信太
グネイアス街門前、そこに僕らは陣取っていた。
最初こそ反乱軍の大多数と戦闘していたんだけど、王城のあたりに虹色に光り輝く大樹が出現してからは、人対人の戦闘は、人対裏世界の魔物軍との戦争に変化した。
敵対していた反乱軍は僕らと手を取り魔物達の迎撃を行っている。
もともとこちらは殺すつもりで闘っていなかったので、戦闘で気絶していた面々もすぐに意識を取り戻して参戦してくれている。
人同士で争っている場合じゃないと気付いてくれたんだろう。
何しろ空を埋め尽くすほどの巨大マンタモドキの群れと大地を黒く埋め尽くす裏世界の魔物達の群れである。
「よい、敵であるッ! 我が夫よ! 征ってくる」
って、ユーデリア空飛んだぁ!?
あ、違う、アレジャンプだ。
そしてそのままマンタモドキを突き破り、その背を足場にジャンプして別のマンタモドキに飛び乗り反撃不能な場所から渾身の一撃が叩き込まれる。
背中から致死の一撃をくらったマンタモドキは下側にブパッと体内の消化器官を噴出し息絶える。
その頃にはユーデリアは別のマンタモドキに飛び乗っていた。
頭上は任せてよさそうだ。
「灼上さん。皆の指示はお願いしますね。あと援護も。僕は……地上部隊を受け持ちます」
返事も待たず、僕は街門から飛び降り魔法で着地。
魔法って便利だよね。あんな高所から飛び降りても普通に着地出来ちゃうし。
槍の英雄になってから一番、いや、二番目に嬉しかったことかな。
一番はもちろんユーデリアと出会えたことだ。
「じょぉぉっ」
一番最初に辿りついたカエルモドキを槍を投げで撃破する。
そのまま槍は後の魔物を数匹貫き、自動で戻ってくる。
近づいてくるまではこれでなんとか。
「おお、ずげぇ、ずげぇ、ガエルどもがいぢげぎだぁ」
何度目かの投擲時だった。
槍が戻ってこなかったことで訝しんだ僕の元へ、群れの中から何かが突出する。
「おがえじだぁっ」
「っ!?」
投擲した速度よりも数段速く、槍が手元へと戻ってくる。
慌てて避ける僕の頬を掠り、背後の地面に突き刺さる。
「な、なんだ?」
「おもでぜがいっでなぁおもじろいなぁ。おではギガズってもんだぁ」
「喋る肉塊……中ボスか何かか……?」
突き刺さった槍を引き抜き、僕は構える。
不味いな。僕がコイツと闘ってしまうと他の魔物達を撃退出来ない。
でも、こんなバケモノを放置してたら……
「月締君、大丈夫? 生きてる!?」
「強敵出現、危険」
「……おい、ギガスだっけ?」
「んだ?」
「一対一で勝負だ。ついて来い」
「ほぉぉ、おもじれぇなお前。いいだろ、づいでってやる!」
「朝臣さん、ゴールドさん、街中の広場で闘います、後は……お願いします」
下手にフィールドで戦えば、こいつと魔物とを相手取らないといけない。
多分、僕じゃソレは無理だ。
だから邪魔の入らない場所でやるしかない。
それは、グネイアス国内の郊外地域、そこしかないだろう。
街門内部に入れる事になるけど、どうせコイツの討伐に失敗したら侵入確定だ。街門壊されるよりはマシだろう。
走り出す僕に付いてくるギガス。
焦った顔をしていた朝臣さんたちには悪いけど、こいつは暗殺タイプの朝臣さんやゴールドさんじゃ無理。
そしてユーデリアは空の魔物を駆逐するのに忙しい。
灼上さんは指揮官で居てくれた方が殲滅力が上がる。
だから……消去法だ。僕しか相手出来ない存在だ。
ごめんユーデリア。僕は、生き残れるか分からない。
こいつはあまりにも凶悪だ。
数メートル大の肉塊。しかもその全てが筋肉だ。
あの拳から放たれた一撃は、おそらく直撃した瞬間僕の命を奪うだろう。
「おもでにゃ強い奴がいっばいいるっで聞いでっがらなぁ、楽じみだぁ」
郊外にやって来たので、立ち止まって振り返る。
ギガスもここで暴れるのだと理解したようで、野太い拳を鳴らして気合を入れている。
潰れた首は筋肉に埋没し、まさに肉達磨といった体付きだが、その全てが筋肉であるならば、普通の人間など及びもつかない速度で動き、腕力で攻撃し、反射速度で回避する。
勝てるか? といえば無理としか言いようがない。
英雄としての能力でなんとかやるしかない。
僕の勝利条件は、ユーデリアが空を平定して戻ってくるまで、僕の状況を聞いて助けに来てくれることだけを期待する。
ふふ、男として助けを期待するとか、男としてどうなんだろ?
いいや、僕の実力なんてそんなモノだし、期待する位は自由だよね。
でも、だからこそ……ユーデリアが来るまでは生き残らないと、ね。
槍を構え相手を見据える。
岩山のような巨大な体躯。それが、しなやかな動きで戦闘態勢へと移る。
「ギガスさんだっけ?」
「んだ」
「僕は、月締信太。槍の英雄月締信太です。いざ尋常に……勝負ッ!!」
絶望への挑戦が、始まった。




