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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1778/1818

三百二十八・その一番強い存在を、彼らは知りたくなかった

SIDE:斬星英雄


「はぁ、なんとか動けるようになったよ」


「大事がなくて良かったです」


 にこやかに微笑むギオちゃんに、思わずドキリとする。

 ああもぅ、この人は元魔王で男だったんだからバグ化が収まったら俺様魔王に戻るんだぞ、何ドキドキしてるんだ僕は。


「それで、その剣本当に使うの?」


「はい、私でも、きっと役に立てると思うんです。この剣、凄くえっちですけど、その分皆を助けられますから。恐いですけど、がんばります」


 ―― まかせろ坊主、ギオは俺がしっかりと守ってやんよ。その為に、ちょいとエロいポーズしてくんねぇ? 出力回復に必要なんだよ ――


「え、エッチなポーズですか? え、えっと、こ、こう?」


 ソレは、まさか伝説の、だっちゅーのポーズ!? 懐かしいなぁ、多分知らずにポージングしたんだろうけど。

 って、待って、次のはエッチなポーズじゃないぞ。ただのサイドチェストだぞ!?

 まぁ性剣は喜んでるみたいだからこのままでいいか。


 さて、あとは気絶した光来を連れて帰るだけなんだけど、どうやって連れて行こう?


 ―― おう坊主。そこに落ちてる奴隷の首輪使っとけ ――


 え? でもこれは……


 ―― 奴隷の首輪ってのは主人に絶対服従ではあるがよ、主人が条件付けしなけりゃただの首輪なんだぜ? 命令として坊主に攻撃しないよう命令して、一緒について来いとか命令しときゃ逃げねぇし、相手の意思は尊重できるぜ ――


「そうなんですか? じゃあ、首輪をして貰っちゃいましょう」


 と、首輪を持って倒れた光来の元へと向かっていくギオちゃん。

 って、待って。君が行ってどうするの!?


「クソがッ」


「きゃぁ!?」


 首輪を掛けようとしたギオちゃんの手首を掴み、一気に立ち上がる光来。

 まだ動けたのか!?


「ひっ」


「まだだっ、まだ俺は負けてねぇ! 性剣、もう一度だ。もう一度俺を守れッ、そうすりゃ斬星なんかにゃ負けやしねぇ!! 女、性剣を渡せっ」


「ひっ、い、いや、やめてくださいっ」


「うるせぇ、さっさと渡「いっやあぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」おるぼぁっ」


 ギオちゃんの腕を掴みあげて叫んだ瞬間だった。

 ギオちゃんが恐怖のあまり、光来の頬に張り手を一撃。

 魔王のステータスが乗った一撃が光来の頬をばっちぃーんと良い音響かせ叩き付ける。


 光来は放物線を描きながら高速きりもみ回転で吹っ飛び、地面に頭から埋まる。まるで掘削機やドリルを地面に突き刺したように、頭の半分程がしっかり地面に埋まっていた。よく、頭無事だったなあいつ……

 へっぴり腰で地面に落ちて、沈黙が流れだす。


 ―― なぁ坊主。もしかしてだが、この嬢ちゃん。むっちゃ強い? ――


「ステータスそのままの元魔王だよ、国滅ぼせる位の実力者」


 ―― おおぅ…… ――


 つまり、素のままでもアホみたいに強いギオちゃん、多分ここに居る面子の中で一番の強者はギオちゃんだと思う。

 そして、そんなギオちゃんの剣になったがゆえに、性剣は使用される機会がおそらく今よりも減るのだろうことは想像に難くない結果であった。


 ―― あれ? 俺ってもしかして、選択ミスった? ――


「勝利確定棒に振ってオリチャーしたんだから諦めろ。お前だってギオちゃんが殺されるのは嫌だったんだろ?」


 光来を救出して奴隷の首輪を填めておく。

 命令は、僕等英雄とその仲間たちへの危害と殺害の禁止、あと逃走禁止と自殺禁止かな?


 ―― そりゃそうだがよぉ、ああもう、ままならん人生、いや、剣生だっ ―― 


 そもそも剣じゃ無く普通の人生送ればよかったのに、いや、まぁやむにやまれない事情があったんだろうけど。


「はぁ、それにしても、メインの闘いじゃ無い所で全力使うって、僕はどうしてこう、駄目なんだろ……」


「そんなことないです。光来さんの野望を止められましたし、ここの国の姫様に被害がおよびませんでした。これは英雄さんの頑張りが齎した結果です。胸を張ってください」


「あ、う、うん」


 ―― 坊主、顔が赤いぞ。別なモンも真っ赤にしちゃってんじゃねーのかぁ? ――


「黙ってろエロ剣」


「え? え?」


 ギオちゃんは分からなかったらそのままでいいから。

 とにかく、駄女神さんから集合要請でてるし、あの木の根元に急ごう。

 僕が何かできるとも思えないけど、少しくらいはできることを手伝わないと。


 それにしても、回復が中途半端だと凄く動くのが億劫だな。

 高位の回復薬貰った方がいいだろうか?


「?」


 視線が合ったギオちゃんは何故か微笑みを返してきた。

 僕は何も言えなくなって視線を逸らす。

 ちょっと暑い気がするのは気のせいだろう。


 アレは男、元男というか魔王だから、落ち付け僕。

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