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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
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三百二十七・その決着の理由を、彼は知りたくなかった

SIDE:斬星英雄


「テメェ……裏切ったなッ」


 ―― 何言ってんだぁ元相棒、いいか、俺はちゃんと言ってたぞ? 俺は女相手しか俺を振らせねぇってよぉ。なのに女に握らせることなく女を斬るぅ? ふざけんなよ相棒ッ、裏切ったんじゃぁねぇ、俺が、裏切られたんだよっ!! ――


 理論無茶苦茶だこのエロ剣。

 でも、これで性剣の防御や攻撃は光来から離れた。

 今が、チャンスだ。

 ただ……体が、動かない。


「くす……りを……」


「あっ、そうでした!」


 かすれたかすかな声を聞き、ギオちゃんが懐を漁る。

 自分から視線を逸らしたギオちゃんに、光来が憤慨する。


「ざけんなクソ女っ! 敵の目の前で何してんだッ」


「ひっ!?」


 飛びつこうとした光来だったが、性剣がガードする。

 今まで彼を守っていた剣は、その性能をギオちゃん警護に全て回したのだ。

 かなり厄介だったが、それがそっくり光来に返ってきたらしい。

 同情するぜ。するだけだけどな。


 ポーションが投げられ、僕の身体を濡らす。

 割れやすい瓶は粉々に砕け、ポーションが体の傷を癒して行く。

 ……よし、身体が動く。


 大して回復したわけじゃない。

 ふらつきながらもゆっくりと立ち上がる。

 ようやく立ちきった時には、既に光来も仕切り直しとばかりに普通の剣をアイテムボックスから取り出した所だった。


「最終、ラウンドと行こうぜ、光来」


「死に損ないが咆えるなッ、さっさとくたばってろよッ!!」


 くたばれないから立ち上がったんだろ。

 死んでないから、立ち向かうんだろ。

 理由があるから、負けられないんだよッ!


 僕はまだ、闘える。

 そして、性剣が攻撃を行わないというのなら、防御を行わないというのならっ!

 光来勇気、僕がお前を必ず倒すッ!


「そんなふらふらで勝てると思うのかよッ!」


「グーレイさんの元に連れ帰って謝らせてやる。宣言するよ光来勇気、その変なプライド、一撃でへし折ってやるッ!!」


「やってみろよクソがッ!!」


 今の体力で闘うことは可能だ。継戦するだけなら足を動かす必要はない。数分は打ち合えるだろう。でも、それは駄目だ。数分を越えれば足の踏ん張りは無くなる。つまり、最終的に負ける。

 なら、どうするか。

 簡単だ。長期戦が敵に利するなら、短期決戦に全てを掛ければいい。

 ギオちゃんのことは癪だが性剣に任せよう。


 そうだ、短期決戦。一気に動くために体力はその一撃にのみ全力を使う。

 ならば一閃。武器は刀でいいだろう。

 居合斬だ。

 刀を鞘に仕舞って静かに構える。


「居合斬程度で勝てると思ってんのなら笑ってやるよ斬星ッ、カウンター狙いだろうがなんだろうが、諸共にへし折ってやる、光の剣でなぁ!」


 剣が光り輝く。エンチャントで光属性にしたんだろう。

 正直それが僕に対してどういう効果を齎すか不明すぎるんだ。

 何しろ眼つぶし効果はギオちゃんの魔法で打ち消されてる。普通の剣とどう違うのかが分からない。

 だから、相手の攻撃については考えない。


「リエラさん……使わせていただきます……」


 さぁ、気合を入れろ。全てを賭けろ。

 僕が今できる全てで……光来勇気、お前を……倒すッ!!


「明鏡……止水」


「あん?」


 意識が研ぎ澄まされる。

 光来が何か喋っているが、水の中を進んでいるような感覚、ゆったりとした時間を駆け抜ける。

 光来の口が開かれ一言が紡がれるより早く、光来が指先一つ動かすより速くっ、光来が何かを察して逃げるなり防御するなりするよりも、はやく!!


「っ!?」


 刹那、時が止まった。

 妙に清らかな世界に紛れ込む。

 ゆっくりと動いていたはずの光来が微動だにしなくなっていた。

 ソレはまるでリエラさんたちが言っていた、明鏡止水のその先、涅槃に辿りついたかのように。


 今は、どうでもいい。

 ただ、前へ。

 柄に掛けた手に力を込める。

 一撃に全てを掛ける。ただし、英雄仲間だから……武器は逆刃に持ち替える。


「くら、えぇぇぇッ」


 今放てる、至高の一撃だった。

 手にした武器を一閃。全ての力を乗せて叩き込む。

 刹那、音が戻る色が戻る時が戻る。


「は?」


 何が起こったのか分からず目を見開く光来。

 その脇腹をえぐるように叩き込まれた刀が一つ。

 骨が軋み嫌な音と共に何かが砕ける感覚が襲う。


 振り切った刀で残心。吹き飛ぶ光来が地面を滑走する。

 出しきった。

 正直もう、一歩も動けない。この体勢から自力で動けない。

 それくらい、全ての力を出し切った。


 ―― な、なんだ今の? 全然見えなかったんだが ――


 はは、明鏡止水、いや、涅槃寂静だっけ、初っ端から発動させてりゃもっと楽に勝てたのかな?

 でも、僕コレ苦手だからなぁ。何回かに一回しか成功しないんだ。

 今回は物凄く集中できてたから。出来る確信があった。だから使っただけなんだ。

 はぁ、疲れた……


 駆け寄ってくるギオちゃんに無理した笑みを浮かべる。残念ながら口を開く体力すら僕はもう消費してしまったらしい。

 ギオちゃん、ポーションじゃ無くてもうちょっと高価な奴、ください。マジで。

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