三百二十四・その男達の闘いを、彼らしか知らない
SIDE:斬星英雄
「よぉ、また会ったな」
「チッ、しつこいな斬星」
僕はギオちゃんと一緒に彼を探していた。
他の面々とは大樹が出現した時点で別れた。
おそらくアレを守るために反乱軍も国軍も裏世界の魔物相手に闘いだすだろう。だから、彼らにはそちらに回って貰ったのだ。
僕は、僕だけは、一つだけ心残りの闘いが待っている。
ギオちゃんにも向こうに行くよう伝えたんだけど、自分は役に立たないし、せめて貴方の闘いを見届けたいのです。と言われてしまえば了承するしか僕には出来なかった。
ゆえに、ここに居るのは三人だけだ。
僕とギオちゃん。そして……光来勇気。
「あの木、守らなくていいのか、剣の英雄」
「そちらこそ、彼女を守らず何処に行くつもりだった?」
「チッ、お見通しか、面倒臭ェ」
本当なら、僕らも向こうに参加するつもりだったんだ。
でも、見付けてしまった。
明らかにルートが違う道を走るこの男を。
「もう一度言う、何処に行くつもりだった、光来っ」
「るせェ! 年上だからって先輩面か斬星ッ! なんちゃって勇者がしゃしゃり出てくんじゃねェッ!! まして、女連れだァ? 爆発しちまえクソ野郎ッ」
女、と言えば女だが、ギオちゃんは元ムキムキマッチョな魔王だぞ?
バグってお淑やかTSしちゃってるけど。
「お前は、ここで止めなきゃいけないらしい」
「はっ、目を押さえてのたうちまわってたくせに俺に勝てると思ってんのかよ」
確かに、前回は光の英雄だってこと忘れて普通に剣でのみの闘いをしていた。
けど、それが分かってれば方法くらいはあるのだ。
一番の方法は目を光から隠すサングラスとかだけど、そんなモノを持っていると警戒されるし、壊されたら終わりだ。
だから、僕が頼んだのは、ギオちゃんだ。
もともと魔王だったおかげか、今も魔王のステータス持ちだし、魔力も高い。覚えていない属性魔法だったとしてもその道のプロから教われば、補助魔法位は使えるのだ。
ゆえに、朝臣さんにお願いしてギオちゃんに闇の補助魔法ライトガードを教えて貰った。
これは光魔法を軽減させる魔法なのだけど、目元に集中させることで急な光で目がやられるのを防ぐのだ。
こいつに会う直前にギオちゃんに唱えて貰っているので、不意の一撃を喰らっても普通に攻撃出来る。
だから、今回お前に勝ち目はないっ。
純粋な剣術勝負だ光来っ!
「行くぞ!」
「チィ、面倒な。おい、クソ剣、分かってんだろ?」
―― おいおい、話が違うじゃねーか。まだ女の一人にすら握られてねーぞ? ――
「もうすぐだっただろうが、コイツさえぶっ倒しちまえば憧れの王女様だぜ? 奴隷の首輪もある、お前の求めるモノはすぐそこだ」
―― げひゃひゃひゃひゃ、仕方ねぇなぁ。欲望のためだもんなぁ。仕方ねェ、今回ばっかは大盤振る舞いだ。負けても俺様を言い訳にすんじゃぁねぇぞ相棒っ ――
「上等だ。クク、斬星、テメェは剣の英雄らしいが、俺の方が剣の腕が上手いって所を見せてやるぜ」
「剣の英雄はお前には過ぎた称号さ、光だけで我慢しときなボウヤ」
「……殺す」
言葉はもう、要らなかった。
アズセ式十変化ガンブレードを剣にして走る。
光来もまた性剣を手にして突撃。
接敵と共に剣撃が鳴り響く。
クッ、言うだけあって剣の腕、それなりに有りやがる。
僕の剣術だってそれなりに覚えたはずなのに……
「クソ、剣の英雄は伊達じゃねぇってか? なんで俺に付いてこれてんだよッ」
ソレはこっちのセリフだ。
でも、悔しいからこの言葉には返答しないでおく。
代わりにバックステップで一度離れた隙に武器を換装。
刀へと変えると腰元に鞘が自動で生成される。
先程とは違う、打ち付ける剣撃から切り結ぶ一閃へ。
剣筋が変わったことで驚いた光来が慌てて後ろに飛び退いた。
「なんだその武器!? 剣から刀に変化だぁ!? 良い武器持ってんじゃねーか! 俺にこそふさわしいだろ、お前を倒して貰ってやんぜ」
武器を構え直す光来を注視しながら、刀を鞘へと戻す。
高速抜刀術による居合斬、刀の攻撃でも上位に来る一撃だ。
これで、決めるッ。
本来、これはカウンターとして使うのが正しいと思う。相手の一撃よりも早く相手に届かせる最速のカウンター。
しかし、俺が今から行うのは、突撃の居合斬。
前へ出る突進力を使用した一撃だ。
受けきれるか、光来ッ。
「ッ!?」
ぎりぎりで後ろに飛びながら剣でガードする光来。
しかし、刀の一撃が剣を弾き飛ばす。
「マジか!?」
「終わりだッ」
「ざけんな!」
一歩踏み込み返す刀でキメに掛かる僕に、光来は迷わず光魔法を発動。
全身をまばゆく光らせるものの、僕には効かない。
驚いた顔のままの彼を、刀が薙いで……っ!?
飛ばしたはずの剣、それが光来の胴と僕の刀、その間に、割り込んでいた。




