三百十九・その結局巻き込まれる反乱を、彼らは知りたくなかった
「ああああ、なんでこんなことにっ」
「ほら、つべこべ言ってないで走りなさいよ信っ」
「恋人、おいかけっこ、抱きしめて、いいよ?」
「言ってる場合か! 走れぇぇぇっ」
灼上さんが全力疾走している。
頑張れ灼上さん。
囮役御苦労さまでーっす。
「街門見えたわよ!」
「ぬおおおおおっ、助けてユーえもーんっ」
街門越えた場所に仁王立ちしているのはユーデリアさん。
グネイアス帝国に入るに際し、僕等英雄組は光来君の証言でクーデター側にとって敵として認識されていたのである。
ゆえにグネイアス帝国に向かうにはどうしてもクーデターに参加している民間人や兵士を撃破して行かなければならない。
ただ、僕等としては彼らと敵対する必要性は無いので、囮役であらかた集めて足止め役にお任せしちゃおうという訳である。
それが……ユーデリアさんだ。
「頼んだっ」
「任されたッ!!」
仁王立ちするユーデリアの背後まで駆け抜ける灼上さんたち。
なんでも体力なら灼上さんが一番あると皆から太鼓判押されたからね。町中走りまわって敵性存在を一カ所に集めて来たのである。
「はぁ、はぁ、もう無理。月締君、護衛頼む」
「任せて、ユーデリアと僕がここから先には絶対に進ませないからさ」
「信、どうせまだまだ余裕でしょ。遊んでないで索敵するわよ」
「信夫休ませるのがいい妻」
「うるさい、結婚してないでしょうがっ」
キャットファイトが始まる中、街門に辿りついた国家反逆者たちがユーデリアさんと対峙する。
「さて、始めよう……覚悟は良いな? 死にたい奴からかかってこい」
ゆっくりと歩きだすユーデリアさん。
気圧されたように男達が下がる。
しかし、直ぐに女一人に怯えてどうする、と武器を引き抜き雄叫びと共に走りだす。
乱闘が始まり、一人の漢女が無双する。
「ぬははははは、最強ではないか我が軍はっ」
「ちょ、なんで死亡フラグ言ったの灼上さん!?」
「すまん月締君、しかし、言わねばならん気がしたんだ」
「なんで……って、危ないっ!」
どうやら街門の上方に登った弓兵が居たらしく、灼上さん向けて射ってきた。
慌てて矢を斬り払う月締君。
「本当に死ぬ気ですか!」
「すまない、本気で死ぬかと思った。もう死亡フラグは言わないっ」
うん。まぁ余裕そうだからここは放置で良いか。
じゃあ月締君、任せた。
「わっ!? 何今の肩……あ、バグさんか、ここは僕に任せてください」
「うをいっ、月締君、僕に対して死亡フラグ言うなといいながら自分で言ってるじゃないか!」
「え? 今のも死亡フラグですか!?」
「ええい、二人とも遊んでないで手伝いなさいよっ」
上に登った兵士を見て、ユーデリアさんから逃れた男達が街門の上に登り始めている。
そこに、朝臣さんとゴールドさんが迎撃に向かっていた。
うん、この面子なら放置してても問題無いだろ。
僕は足早に街門抜けて先行侵入組に追い付く事にした。
一応心配だからってことでグーレイさんに灼上さんたちがユーデリアさんに合流するまで警護するようにいわれたんだよね。
問題なく合流できたから僕はアーデのお手伝いに向かうのさ。
「ちぇぇすとぉぉぉっ!!」
「ドルァッ!」
「よしよし、良い感じだ。この門から来ようとする奴は少ないぞ」
ジャスティンだけちょっとサボってない?
城への裏門に陣取っていたのはガーランドさんとジャスティン、エストネアさん、アリーシャ、ギュスターブである。
今回彼らはアーデが目的を達せるまでここで侵入者が来ないように防ぐ役目を買って出てくれたのである。
それにしても、この巨漢と子供なアリーシャちゃん、なんか凄くいちゃいちゃしてるんだよね。
聞いた話じゃ親子ってわけでもなさそうだし。
でも態度は親子なんだよなぁ。ちょっとズレてるお父さんとそんなお父さんが大好きな娘って感じて、見ててほっこりするイチャイチャである。
事案、では多分ないはずだ。
彼らの脇を越えて王城内へ。
既にグーレイさんたちは中庭についてるだろうか?
できるならアーデが待ってくれてるといいんだけど……
こっちかな? えーっと、お、見付けた、あそこが中庭だ。
扉を開いて中庭へと向う。
城の内部はゴールドさんが地図持ってたので皆既に頭に中庭の場所が入ってる。
僕も覚えたもんね。アーデの晴れ姿、せめてしっかりこの目に焼き付け……
……何してんの、これ?
「あ、バグさんお帰りなさい」
リエラ、これって何してんの?
「それが、この先は後宮になってて男性禁制というか、王族以外禁止だってことでシルバーさんが敵になりました。あとついでにカッパーさんとブロンズさんも。あ、アーデたちは問題無くとおっていいらしいですよ」
その三人なら別に敵対しても問題無いでしょ?
ほら、モザイク棒人間共が威嚇しながら三人と敵対してるよ。
他の人は放置して付き進んだらいいじゃん。




