三百十六・その指名されなかったことを、彼女は知りたくなかった
「お」
アーデがとあるメンバーに声をかけ始めた。
声が掛かったのは、ワトリ、キャットハムター、そして、くねくねちゃん。
それぞれ鳥、栗鼠、ワームの代わりだそうだ。
ワトリは分かる。
キャットハムターはまぁ鼠だし栗鼠の代わりと言われれば百歩譲って認めよう。
なぜくねくねちゃんがワーム……あ、いや、そうか、確かに棒一本で人型になってる訳だし、長ぼそいワームの代わりとしては、うん。確かに。
だが、そのせいで、一人、ぴるるるるるっと哀しそうな声を上げてる奴がいた。
そう、パッキーである。
ゴールデンオカブとか呼ばれてないんだけど、彼の場合はそこまでアーデに依存してるわけではないので、パッキーだけがなんで最古参なのに呼ばれないの、と哀しげな声をあげているのである。
でも、今回必要になる眷族は鳥と栗鼠とワームの代わりだ。
パッキーの容姿や特性的にどれにも当てはまらない。
今回は涙を飲んで見送りなよ。
残念だけど、今回は無理だって。
ああ、泣いてる、パッキーが泣いている。
なぜかグーレイさんに縋りついて泣いてる。
グーレイさんどうしたらいいか分からず困惑してるし。
なんかこれはこれでいいのかな?
さて、パッキーはグーレイさんにお任せしてっと。
「任せないでくれないかな? それより、これからどうするかなんだけど、グネイアス帝国が滅びるまでここで過ごすわけにもいかないだろ、何かした方がいいと思うんだ」
「ギルドには既に伝えたから指名手配されてもグネイアス領地のみだろ。他の国はむしろここみたいに匿って……」
「英雄様、大変ですっ!!」
おっとぉ。なぜかカッパーちゃんが血相変えてやって来たぞ。
というか、よくよく見ればゴールドちゃん以外のスパイさんが居なくなってたんだね。
「おやカッパーさん」
「グーレイさん、あの、えっと……恥ずかしいっ」
なぜかその場で煙玉を投げつけドロン。
どっかに隠れてしまったらしい。
「けほけほっ、ちょっと何よこの煙!? ちょっとグーレイ、隠れるにしてもこんな煙臭いとこに居ないでよっ」
「いや、それ、カッパーさんがやったんだけど」
「はぁ? またやったのカッパー。まぁいいや、グーレイ、大変よ! グネイアスでクーデターが起きたわっ!!」
わーお、意外と早かった。
カッパーちゃんが言いたかったことを後から来たブロンズちゃんが教えてくれた。
「今シルバーが詳細を調べてるんだけど、クーデター起こしたメンバーの中に英雄がいるらしいの」
「ああ、おそらく光来君だね」
「知ってたの!?」
「知ってたも何もグネイアスの街を歩いてたら聞こえて来てただろう?」
あー、僕らが集めた情報をさも自分が集めたみたいに言ってる!
リエラ、ギルティだよ、グーレイさんが僕らの功績を自分の物にしやがった!
「あはは、まぁいいじゃないですか。それより、パッキーちゃんを慰めるの手伝ってください」
ありゃ、グーレイさんが話始めたからか今度はリエラに泣きついてるのか、ん? でもリエラってパッキーには見えなかった……
「あれ? ちょっと、グーレイ、そこにいるうっすい女って誰?」
「ん? 薄い女?」
「えーっと、確かパッキーだっけ? それを抱き抱えてる奴」
「……見えてるのかい、リエラ君が」
「へー、リエラっていうのね? いつ知り合ったの? なんか気安い感じだけど……」
訝しむように告げるブロンズちゃん。
「リエラく……うん? リエラ君っ。名前が、名前が言えるぞ!」
「え?」
驚くリエラ。
慌てて自分の身体を確認する。
「あ、あの、皆さん、私の事、見えてますか?」
「お、おぅ、言われてみりゃ確かに……」
「でも、薄いわね」
「殆ど透明だぞ? 言われりゃそこに居ると分かるくらいの」
僕には普通に見えるけど、皆からはリエラが幽霊みたいにうっすら見えてるのか。
……見えてる、のか。
―― がんばりました。ようやくここまで戻せましたよっ、長かった…… ――
この声、パンティさんか!
―― パンティじゃないです、パンテステリアですっ。もぅ、なんで誰も覚えてくれないんですか ――
そんなことはどうでもよろし。それで、リエラはどのくらい戻ったの?
―― そんなことじゃないですよぅ。うぅ、えーと、リエラさんは殆ど元通りですね。98%位ですかね。えっへん、私ががんばりました。マ……駄女神様がもう無理って匙なげちゃったので私とアーデで頑張ったんですよ ――
おー、パンティさん頑張りましたな。
そっか、ついにリエラも皆に認識され始めたか。
―― この勢いで完全にグーレイさんから切り離しちゃいますからねーっ ――
―― パンティさん、それリエラさんじゃない ――
……先は長そうだ。
アルセの働きに掛かってそうだね。




