三百九・その道中の裏世界を、彼らは知りたくなかった
「んー、改めて思うけど、意外と大人数になったなぁ」
馬車の上で、グーレイさんがしみじみと告げる。
さすがにこの人数の移動を徒歩でグネイアスまで、というのは面倒臭かったので、連結式馬車を一つ購入。
幌馬車にすると割高だったので、幌無しにしたんだけど、なんかトロッコ列車に乗ってる気分だよ。
「それにしても、エストネアさんが馬車使えてよかったよ」
「冒険者やってると偶に護衛任務で御者が死ぬ時があんのよね。そういう時は自分たちが動かさなきゃだから、とりあえず手が空いてるメンバーは馬車の動かし方覚えるようにしてんのよ。ガーランドは面倒臭がってやらないんだけどね」
「そりゃぁ、もしもの場合両手が塞がってたらやられるだけだろ? 嫌だぜ闘いもせず頭打ち抜かれて死んじまうのは」
「こんな感じで絶対に手綱握らないのよ」
馬車は結構ゆったり目に走ってるし、この位なら素人でも問題無いと思うんだけどなぁ。
やっぱり微妙な動かし方ってのはあるのかな?
一応、エストネアさんが後一時間程御者をやって、その後ジャスティン君、ニャークリアさんと二時間毎位で交替しながら馬車を進ませる予定である。
「しっかし、こうやって馬車に乗せられてると売られていくみてぇだな」
「変な事言わないでよ矢田」
「矢田を売りさばくとかできるのか? 普通に売れ残りそうだが」
「るせぇなリックマンのおっさん」
「おっさんつけるの長いだろ。リックマンでいいぞ?」
「ハッ、もう少し頼れるようになってから言いやがれ」
耳に指を突っ込んで告げる矢田。多少照れ隠しがあるのは気のせいじゃないだろう。
なんだかんだいいつつ、あいつもこのパーティーに居心地の良さを感じているらしい。
放っとくとクズな行動取るけど、リーダーと思える存在が居れば忠犬になるらしい。
わかり易いし、扱い易くはあるんだけど、ちょっと間違えたり彼自身がこいつにはもうついていけねぇとか思ったら暴走始めるからそこがちょっとネックだよね。
不発弾抱えて歩いてるような気分だ。
まぁ、アーデたちに危害加えるようなら迷いなくバグらすけども。
あ、見て見てグーレイさん、あそこにあるのってフェアリーサークルじゃない?
「ん? 何処にフェアリー……エストネアさん、馬車を止めてくれ」
「え? どうしたのグーレイさん?」
グーレイさんの声にエストネアさんが馬車を止める。
止まった馬車からグーレイさんが飛びおり、僕が見付けたフェアリーサークルへと向う。
「これは……フェアリーサークルでいいのだろうか?」
「おいおい、この規模でフェアリーサークルって、今までよく無事だったな?」
草原に囲まれた街道のすぐ近く。円形のフェアリーサークルが存在していた。
その半径……約1キロ。1kmである。いや、デカっ!?
「折角だ、入ってみるよ」
「のぴょ!?」
「くまぁっ」
カリオン君とくまっぴょろんが止めるのも聞かず、ノヴァがさっさとフェアリーサークルに飛び乗る。
おお、消えた。やっぱりここフェアリーサークルだ。
そしてすぐに出てくるノヴァ。
よかった、向こうは陸続きみたいだ。
「どうだった?」
「きょ、巨大怪獣決戦地帯ッ」
何ソレ気になる。
「おー」
アーデも見たい? だよね、よし、行くぞー。
「ちょ、バグ君っ!?」
アーデを抱え上げて僕はフェアリーサークルへと飛び込んだ。
途端、視界が切り替わり奇抜な青紫の空とアンデスメロン柄の大地。そして雄叫びと共にぶつかりあってる数十メートル大の巨大生物たち。
「おぉーっ」
す、凄い、凄いよアーデ。ゴ○ラは居たんだ。破壊光線吐けるんだ。日本の守護神は実在したんだよっ! あとジャ○ラも居たんだ。あれってやっぱり宇宙に行って戻って来た人間だったりするんだろうか?
『うわー、これは凄いですね』
おっと心配かけちゃったかな。リエラもこっちに来たようだ。
「おーおーっ」
がんばれーっと歓声を送るように、アーデがはしゃぐ。危ないから僕が抱えたままだけど、凄く楽しそうなのでこのままでいいか。
『んー、さすがにこの規模の魔物が群れで出現したら不味いですよね?』
ソレは確かにそうだけど……
でも退治しきることできそう?
『それも確かに難しいですね。こっちの世界にいる魔物は勝手に生み出されてますし、全てを潰しきる方法があればいいのですが……』
「おっ」
ん? なに? えーっと、バグ弾放つの? アレに? え、違う? 適当に放り投げるの?
ふむふむ、なるほど、よーし、折角だからアーデのお願い聞いてあげよう。
思うは二つ。アーデの為に、そして、まだ見ぬ異世界の神に禍あれー。そいやっ。
そこまでバグ力集めなくていいらしいので想いだけは強烈に込めて、バグのタネを放り投げる。
大きくなーぁれ。なんちって。




