二百五九十五・その出会ってはいけなかった者たちを、彼らは知りたくなかった
「とりあえず、これでよし」
ギルドに引き渡した四人組は、既に冒険者ではなく犯罪者として扱われるので、このまま鉱山行きになるか、奴隷化されて、魔王の従者になるか、あるいは危険な決死行などをする役に分けられるらしい。
魔族だからか犯罪者に関しては厳しい措置のようだ。
魔王に逆らう存在はたとえ罵声だけでも即死刑とか極刑が多いみたいだし、あの四人はかなり軽い刑罰させられるんだなぁ。
いや、やらされる罰は人としての尊厳ぶっ潰すような恐ろしい刑罰だけども。
魔王に逆らった人物にしては軽い部類ってだけである。正直味わいたくもない罰ばっかだけどね。
どれも生存がかなり難しいらしいし。ワンチャン鉱山、運が良ければ決死行、くらいかなぁ。
「グーレイさん、少し、酷い気がします。もう少し救いは無かったんですか?」
ギオちゃんが凄く哀しそうな眼で尋ねる。しかし、グーレイさんは首を振った。
「いや、それだと魔王の威厳という示しが付かないからね。本来魔王に逆らったというだけで敗北=死刑なんだ。ユーデリアさんはその辺り興味無いらしいからこれでも減刑して貰ったほうさ」
「そう、なんですか……」
「魔王っていう称号は舐められれば終わりだ。余程の実力がなければ暴力の渦に巻き込まれて消え去るだけさ。だから、周囲の魔王に自分は付け入らせる隙等ないし、甘くもないぞ、と見せつけなければならない。正直、生かすこと自体が魔王にとっては致命的は判断ミスとすら捕らえられかねないんだ」
「魔王って、大変ですね」
そんな魔王だったのあんただよギオちゃん!?
「まぁ、あいつ等についてはギルドにお任せしよう。私達は家に帰って風呂にでも入ろう。疲れただろう? ゆっくり疲れを癒して来ると良い」
それもそうか。
そういやワトリは野性だったわけだし、ノミとかマダニとか羽の中に飼ってそうだな、この際だから温泉にブチ込んでみるか。
そしたらあのキラキラの羽がもっと綺麗になるかもしれない。
皆で魔王別邸へと戻る。
クラレットたちはまだ慣れてないので思わず貴族邸見上げて、ここがクランの詰め所になるんだ……と感慨深そうに告げていた。
多分帰って来る度に思うんだろうなぁ、慣れるまでは。
のっしのっし歩くワトリ、初めての魔王別邸なのに我が物顔で歩いて行く。
館内に入る直前、メイドさん達に足を拭き取られたのだが、まるで貴族か何かみたいにうむ、苦しゅうないと泰然自若の態度で足を拭き拭きされていた。
そして赤い絨毯敷かれた通路をアーデ頭に乗せながらのっしのっし歩いて行く。
目指すのは露天風呂だ。
とりあえずさっさと体洗わせてダニとか取っちゃおうという予定である。
ふと思ったんだけど、鳥って石鹸でごしごしこすっても大丈夫なんだろうか?
大量に羽、抜けたりしない?
……ま、いっか。その内生えるでしょ。
露天風呂へとやってくる。
湯気の煙る温かな湯を見て、ちょっと不安げにしているワトリ。別に鳥の煮込みを作る気はないぞ? ほら、既に先客がいるし問題は……
カピリアスの群れが一斉に振り向く。
その刹那、バヂリ、火花が散った気がした。
カピリアスの一番厳つい顔とワトリが互いに見つめ合う。
これ、物凄いヤバい状況では?
出会っちゃいけない二人が出会っちゃった?
無言で睨みあう二匹の魔物。
不意に、カピリアスが立ち上がる。
ワトリがぐっと足に力を込めた。
「ゴッゴッ!」
「ワタシハ、トリィ!!」
バサァッと羽を広げてワトリが威嚇。カピリアスも二足歩行になって警戒を露わにする。
「ワンッワンワンワンッ!!」
「ワタシハトリィィィィィ――――――――――――――――――ッ」
えぇぇ!? カピバラって犬みたいに鳴くの!?
っていうかなんでこいつ等威嚇してんの!?
「おー?」
小首を傾げたアーデ、何してんの、入ろうよ? とワトリの頭をぺしぺし叩く。
むぅっとワトリが困った顔をする。
「おっ」
そして威嚇するカピリアスにアーデが一言。
カピリアスは少し警戒したままだったが、直ぐに警戒を解く。
どうやら突然やって来たワトリをこの地を奪いに来た存在だと思ったらしい。
アーデは人質に取られたとか思ったようだ。
意外と、アーデのために動いてくれそうだなこのカピバラ共。戦力的に強いかどうかは別として。
だってずっと温泉浸かってる姿しか見てないし。
「ククッ」
「ワ、ワタシハトリ―」
じゃあ、入らせて貰おう、とばかりにゆっくりと温泉に浸かるワトリ。最初に湯に足浸けた瞬間だけはびっくりしたようで足を一度引いていたけど、すぐに温度的には問題無いと理解したらしく、直ぐに湯に浸かりだす。
意外と鳥でも温泉好きなのかな? それともこいつが特殊?
「ハトリぃ~」
「お~」
おっと、アーデも隣に落下してリラックスしだした。
……なんだ、この魔物だらけの温泉……