二百五九十四・その温泉に響く鳥の鳴き声を、彼らは知りたくなかった
「ワタシハトリィィィィィ―――――――――――――――――――ッ!!」
鶏か!?
盛大な鳴き声を響かせるワトリ。
温泉街に来た事が嬉しかったようだ。
しかし、凄い音量と、有名過ぎる魔物だったせいで百鬼夜行のメンバーがわらわら集まってくる。
彼等にとっては突然温泉街に現れた野性の魔物。
そりゃあ戦闘で追い返そう、あるいは焼き鳥だーっと集まってくるものである。
残念ながらこいつはテイムモンスターなので、ワトリの周りに居た僕らを見て、ああ、と察するメンバー。
中には分かって無くて戦闘に加わろうとするメンバーも居たけどアーデが笑顔でワトリの頭の上から手を振ると、毒気を抜かれたように武器を下げていた。
もしもの時はリエラが動くから少し安心できるけど、ワトリに攻撃が飛んでくるとアーデに当たる可能性もあるからちょっとハラハラしてます。
「しっかし、あんた達のチームはすぐ帰ったわね」
グーレイさん達もなんだなんだとやって来たんだけど、ワトリの頭に乗ったアーデ見た瞬間に、あ、いつものか。と納得して解散してしまった。
ほんと慣れって恐いよね。これで魔物が暴れ出したらどうするつもりなんだろう。
まぁ、アーデがテイムしたんだから暴れるわけもないんだけど。
「おいおい、ワトリじゃねーか、クラレット、お前確かコイツ苦手じゃなかったか?」
「あら、元リーダー。苦手は苦手よ。でもまぁ、パーティーの魔物使いちゃんがテイムしちゃったんだから仕方ないじゃない。ほら」
「おー!」
行くのだーっと元気一杯拳を突き上げるアーデ。それに呼応して動きだすワトリ。斬星君が走りまわっちゃダメだぞ、とつげたことを考慮してか、のっしのっしと歩きだす。
「どうにも言葉も理解出来てるみたいだし、言う事聞くなら、まぁ、いいかな、と。自己主張強そうだけど」
「そうか……まぁ問題ねぇならいいんだが。つか、実際大人しいなこの個体?」
「普通のワトリだけどね」
いや、ついさっきアーデが謎の桃食わせてたから知恵がスキルアップしてると思われる。
普通のワトリさんはアーデによりチート化してる気がする。
知能は高くなってるから人間社会や魔族社会への配慮はしてくれると思うけど。
アーデ達を先頭にして僕らは貴族邸へと向かう。
が、その途中で四人の男が道を塞いできた。
「テメェら、よくもやってくれたな!」
あ、こいつら、リュークラインとかいう元冒険者チームじゃん。
服装から鎧が無くなって平民服になってたから分かりにくいよ。
「おー?」
「お前たちは、私を隷属化させた……っ」
「モザイク野郎、よくもやってくれたな。まさか待ち伏せされてるとはよぉ」
「全裸で街の入り口に吊るされた気持が分かるか!? すっげぇ恥ずかしいンだぞ!」
「ぶっ殺してやるからな!!」
「殺してやる、絶対に殺してやるッ」
「止めておいた方が……いや、しかしよくここまでこれたな」
百鬼夜行の人たち誰も阻止してないじゃん。
「とりあえず、一人一体、ね。行ける、アリーシャ、ギュスターブ?」
「任せて」
「ようやく暴れられるな」
「えっと、クラレットさん、アリーシャさん、ギュスターブさん、僕、後は……小さいおっさん?」
「おい、俺も入れんなよ!?」
いや、入ってよ。協力するって言ったじゃん。
「行くわよ!」
拳を握り、サウスポースタイルになったクラレットが走る。
「クソ女、ぶっ潰してや、おぶぁ!?」
弱ぇ!?
右ストレートモロに喰らった!?
「ちぇぇすとぉぉぉぉっ!!」
「ぎゃぼぁ!?」
そして頭上からの一撃を避けることすらなく直撃して昏倒するリュークラインメンバー。
「はーい、おくすりどうぞー」
と、顔面にブチ当てられた薬瓶が割れ、リュークラインメンバーがまた一人、麻痺状態で倒れる。
「はぁッ!」
斬星君が斬りかかった男は慌てて剣を引き抜こうとして、自分が帯剣すらしてなかった事に気付き、剣を抜く動作のまま直撃受けて気絶した。
「な、何してんだお前ら!?」
残されたのはリーダーさん。
そんなリーダーの前にやって来たのは、巨大な青い鳥。
「あ、あぁ……」
「ワタシハ、トリィィィィィ―――――――ッ!!」
バサァッ! 両翼を開いた瞬間、攻撃されたと思ったリーダーさんは目をぐるんっと白くさせて気絶した。
恐怖で気絶って、しかも自己主張されて気絶って……ナムー。
「おおぉ?」
「いや、倒すのかよ!?」
「早速役に立った、のかしら? ワトリの自己主張で気絶する人初めて見たわ」
まぁ、バサッと物凄い勢いで翼広げるから恐怖感は凄いよね。
仲間が一瞬で撃退されてるし、そりゃ恐怖で気絶もしちゃうか。
でも、このまま放置したら多分また来るよね、とりあえずギルドに引き渡そうか?
グーレイさん呼んでくるよ。




