二百五八十九・そのリーダーの名を、彼らは知らない
「さて、何度目になるかな? 作戦会議をしよう」
旧魔王別邸に戻って来た僕らは早速皆揃って会議室へと向かった。
のっぴょろん君がひょっこり顔をだせばくまっぴょろん君が凄く嬉しそうに話し合い始める。
新しい仲間の事もあるし、百鬼夜行の話もある。
向こうは向こうで進展した事の話もあるだろう。
そしてノヴァの行方とリュークラインとかいう冒険者パーティーについて、あとバイスグリムデについても報告しなきゃだね。
「よぉーグーレイ、なんか知らねェ間に見覚えねぇ顔が増えてんな?」
「矢田、話進まなくなるから黙ってて」
「はぁ? ただ挨拶しただけだろォが、リーダーの女だからって調子乗ンなよクソ女」
「だ、だだだ誰が信の女よ!? 違うわよ馬鹿」
……なんだろう。朝臣さんが可愛い生物になってない?
顔真っ赤にして否定されても信用できないってもんですわ。
「あれ? シルバー居ないの?」
「ええ。報告に向かってるわ」
「ふーん。まぁこっちもカッパー居ないから向こうも向こうで落ち会ってるか」
カッパーちゃんとシルバーさんは祖国に報告しに行ったようだ。
同郷なので向こうで会って楽しげに会話、出来てればいいんだけどなぁ。
さすがに無理か。
「んじゃー、まずは点呼取るよー」
グーレイさんの言葉で皆が一斉にグーレイさんへと向き直る。
会話を止めて、呼ばれる名前に「はい」と答えて行く。
なんか、学校みたいだね。
「以上が私達のクランメンバーだ。次に、新しく我がチームに入ったメンバーを紹介するよ。まずはゴールデンオカブ、それから元百鬼夜行のメンバーで、クラレットさん、ギュスターブさん、アリーシャさんだ。それと、私達の仲間にはならないけど、何故か付いて来た百鬼夜行のクランリーダーである……ちっさいおっさんだ」
「誰がちっさいおっさんだ!?」
小人族か何かでしょ? 名前聞いてないし、ちっさいおっさん以外呼び方がわからないよ。
「そう言えばリーダーの名前ってなんだっけ?」
「あん? クラレット、知らねぇのか? こいつは……ん? そういや俺も知らんな?」
「もぅ、二人ともさすがに可哀想じゃないですか、元リーダーが心で泣いてますよ。この人の名は……名は……」
ああ、駄目だ。同じクランメンバーからも名前出てこない。
多分皆リーダー呼びしてたせいで名前忘れちゃったんだろうなぁ。
役職あるあるである。
いや、僕もそこまで詳しくないけど、母さん曰くこういうことは結構あったらしい。
「なんで誰も俺の名前覚えてねぇんだよ!?」
「まぁちっさいおっさんで伝わるから名前はいいだろ。それより先に進めよう」
「おい!?」
あーあ、名前知る機会失っちゃったよ。
経験上からしてこう言う時は、まず長引くよ。名前告げようとするとことごとく邪魔が入っちゃうんだ。
結果的になんとか告げても、ふーん、あっそ。とかだから? って感じで盛り上がりもないんだよね。
「まず、件の問題に関してだ」
「あ、これマジで俺の自己紹介ないんだ……」
「諦めて、リーダー」
「ちっさいおっさん、俺はその、個性的な名前でわかりやすいと思うぜ?」
慰めにもなってねぇ!?
「さて、それで、今回はこの領地がノヴァ君によって売りに出された結果、悪徳冒険者に捕まったようでこの地の権利書が向こうの手に渡ったらしい。ギルドに頼んで無効にして貰い、この国にやって来たリュークラインのメンバーには丁重にお帰り願おうと思う」
着て早々に引き返して貰おう、ノヴァがいるなら回収、精神状態によってはアーデのドロップキックが炸裂する事だろう。
だからまだ生きてる事を願う。さすがに殺されたりはしないだろう。いや、でも、殺されるのかな、呪人でバグった存在って?
「それで、だ、折角温泉を紹介してくれたってことでこちらの百鬼夜行のメンバーが手伝ってくれることになった」
「あーまぁ、なんだ。結構迷惑かけちまったからな。とりあえず部下も温泉満喫してるし、俺の部屋まで用意してくれんなら、手伝おうかと思うよ」
ちっさいおっさんが告げる。
ちゃっかり自分の部屋を確保しようとしている所には目を瞑っておいてあげよう。
あんまり今はお金掛けたくないらしいし。
ちっさいおっさんの御蔭で協力得られたってことだし。
戦力的には申し分あるまい。
あ、でもちっさいおっさんはエッチみたいだから女性陣は近づかないように。
「そう言えば君は女性を食い物にしてるんだったけ? ウチの女性陣には近づかないでくれたまえよ? それならば部屋を用意するが?」
「誰が一癖も二癖もありそうな女ども誘うか!? 俺にだって選ぶ権利くらいあるわっ!」
ちっさいおっさんに断られた!? そっか。こっちのチームの女性陣……いや、違う、ちっさいおっさんが即行断ったのは、少し離れた場所から熱視線送ってるGババァに気付いたかららしい。
そりゃ、断るわな。




