二百五八十八・その温泉が賑わう理由を、彼らは知らない
「うおぉぉぉっ! 温泉だぁぁぁぁっ!!」
その後、大型クラン百鬼夜行と共に再び温泉街へとやって来た僕等。
リーダーの奢りということもあり、ひゃっほーぅと温泉用の資金をリーダーから奪い取って殺到して行く冒険者たち。
「あはは、我がクランながらこれは酷い、あんまり暴走しちゃだめですよー」
代表になっていた小柄な少女が苦笑い。
拳法娘によれば、彼女がアリーシャちゃんらしい。
幼いという理由でリーダーの魔の手を逃れつつ、賢いサポーターなので皆への薬を的確に配れる、副リーダーをやっているそうだ。
ただ、今回使い魔を使ってリーダーをハメたようなものなので、このクランには居づらくなったらしく、拳法娘さんの紹介もあってグーレイさんパーティーで引き取る事になりました。
目隠れ少女アリーシャちゃんは白いドレスみたいなワンピースに肩掛け鞄、赤い靴という可愛らしい恰好なのだけど、着ている服の魔法防御がすさまじいらしく、この服装で十分戦場を駆けまわる事ができるらしい。
「えっと、薬関係は任せてください。ちょっと触れるだけで危ない薬も扱えますから」
照れたように告げるアリーシャ。その鞄の中には回復薬と猛毒薬が混在しているそうだ。
仲間に投げる時、間違えないでね? 本当に。
「あ、そうだ、自己紹介してなかったわね。私はクラレットよ」
「俺はギュスターブだ。一応剣士だが、剣術の才はなくてな。愚直に突撃するしかできんのだが、それでも役には立てると思う」
確かにこのおっさん剣術は無かったけど剣速は滅茶苦茶早かったし、途中で剣切りかえしたりで腕力で振り回すのは得意だったからなぁ。大剣使いだから薙ぎ払う分には十分だし、筋肉達磨だから格闘戦もできるんだよなぁ。剣士と名乗っていいのかどうかは不明だけど。
「クッソ、俺のクランからメインアタッカーだけじゃ無く参謀まで連れ去るってどういうこったよ。あと運営資金が……」
一番割りを食ったのは小さいオッサンだ。
百鬼夜行のクランリーダーなのに凄い哀愁漂う背中を見せている。
なんかついさっき数人の女性からハーレム抜けます宣言されてたし。
お先は真っ暗である。
まずは冒険者ギルドに向かって別の部署と情報共有出来てるかを確認。
犯罪者となる報酬受け取った冒険者たちの洗い出しも完了。
リュークラインという冒険者パーティーで、ランクはD。素行が悪過ぎてこれ以上のランクに上がれてないらしい。
なのでランクD以上の実力はあると思った方がいいだろう。
ノヴァが一緒に居るのか、騙されてるのか、捕まってるのか、とにかく、迎撃準備を整えないと。
なんでもそいつらは昨日の時点で少し遠くの街で酒盛りしてたのを目撃されてるので、こちらに来るまではまだ時間がある。
何故か知らないけど百鬼夜行のメンバーも手伝ってくれるらしくて、温泉街はほぼほぼ彼等で埋め尽くされることとなった。
基本は温泉入りまくってたまに狩りに出かけるらしい。
ちなみに、今一緒に居るリーダー君はこれから皆の資金稼ぎのためにスケルトンたちのダンジョンに向かう事になっている。頑張れリーダー。負けるなリーダー、とりあえず僕は応援したりはしないよー。
冒険者ギルドを出た僕らは魔王別邸へと向う。
まさかの巨大貴族邸に、着いて来たクラレット、ギュスターブ、アリーシャの三人、と何故か付いて来たちっさいオッサン。
いや、あんたは適当に宿取ってスケルトン退治しときなよ?
「なんだよ? 俺の宿代も節約したいんだよ、そもそもお前らが温泉紹介しなけりゃ資金繰りがヤバくなることは無かったんだぞ、責任取って俺の宿位用意してくれ、頼むから」
あ、これすっごい切実だ。
さすがに可哀想に思えたグーレイさんが家主が許可すればと告げる。
家主ってユーデリアさんだよ? 構わんっていいそうだけど。下手すると我を倒せれば許可しようとか言ってきそうなんだけど、その辺り大丈夫?
「グーレイさん!」
おっと、僕らが来たのを執事さんから聞いたらしい、灼上君が物凄い速度でこっちにやって来た。
「うぉぉぉぉぉっ、よかった。ほんとよかった。リーダー返上しまーっす!!」
涙と鼻水で顔が凄い事になってる。
うん、リーダー向いてるらしいけど本人はリーダーしたくなかったらしいからね。
そりゃグーレイさん戻ってきたらグーレイさんにリーダー任せたいよね。
「そうしたいけどとりあえず報告会まではそのままで頼むよ、情報のすり合わせとか必要だし、なによりノヴァ君関連で面倒な事になりそうだからリーダーは二人に別れておいた方がいい」
「がふっ」
あ、膝から崩れて後ろに倒れた。
折角リーダーから抜けられると思ったのに残念だね。
でもね灼上さん。矢田は貴方がリーダーじゃないとまた暴走するだろうからリーダー確定なのは諦めた方がいいと思うよ?




