二百五八十・その少女の出現を、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
守護者を倒して満足したらしいユーデリアさんを回収し、僕らは一度戻ることにした。
変化した支配地域はある種安全地帯になったので、檸檬たんが入れ食い状態になってた以外はそこまで問題もなく移動が出来た。
草原に辿りつくと、色が変化していて、出現する魔物が様変わり、八本足のバケモノが闊歩する危険地帯になっていた。
空を漂うマンタみたいなひらひらした生物、布を体に巻き付けたようなシーツお化けが宙に浮いている。あ、いや、あれはむしろ、メジェド様かな? 何故か八本足を目からビーム発射して撃破していた。
味方になるかと思ったんだけど、こちらい気付いた一体が普通に攻撃仕掛けてきて、尾道さんが貫波で倒していた。
敵と敵が同士打ち、というよりは別の色からやって来た侵略者が色地帯を奪おうとしているようだと認識を改め、とりあえず魔物から身を隠すようにして草原を通り抜ける。
正直相手してられない。
さすがにユーデリアたんも多勢に無勢、あるいは僕等の被害が無視できないと認識したらしく、文句を言う事もなく見付からないようにスニーキングミッションだ。
スニーキングっていっても魔物の追跡じゃなく目の前を歩く月締君の追跡だけどね。
背の高い草に身を隠しながら、メジェドやマンタと闘う八本足の群れをやり過ごす。
なんでこんな殺伐としてるんだ?
僕らが一本道攻略する前に通った時は全くと言っていいほど平和だったのに。
まぁ魔物は襲って来たけど。
「いけいけ! きゃははははっ」
……ん? なんか、聞き覚えのある声が?
ふと、顔を見上げた視線の先に、マンタの一体に乗ったまま楽しそうにしている少女が一人。
シシ、リリア……たん?
え? なんでマンタに乗ってるの?
それ、マンタとは名ばかりなバケモノだからね。血管浮き出てるし、気持悪いし。
メジェドさんから突き出たスネゲ生えた生足がむしろ安心出来るくらい気持悪いからっ。
なんでそんなもんの上に平気で乗れてるの?
っていうか今どういう状況?
「な、なぁリーダー、あれって……」
「皆、声立てないように、間違いなくシシリリアたんだけど……彼女は闇堕ち状態だと思った方がいい」
シシリリアたんっと声をかけたいところをぐっと我慢して、僕らは草原地帯を抜ける事を優先する。
どう見ても侵略中の魔物達を指揮しているような立場だ、何かしら裏世界の法則を手に入れたのだろう。
彼女は無事に今まで裏世界で生き残り、魔物達を従えるまでになったようだ。
状況を知りたいが、今彼女の前に姿を見せれば、配下の魔物達がこちらに襲いかかって来かねない。
彼女が僕等に対してどう思ってるかは既に聞いてるんだ、多分出会えば敵対以外あり得ないだろう。
グーレイさんチームが居るならともかく、僕らだけの状況で彼女の魔物軍団と敵対するのは無謀だと思った方がいい。彼女のスキルは加速だし、Gババァさんが居ないと対処も出来そうにないからね。
とにかく、グーレイさんと合流した時に報告は出来るようにしておこう。
そのためにも今はただ草原地帯を脱出して表世界に戻る事を優先しないと。
「おい、どうする? あの辺りで草原が途切れるぞ」
「その先はガイコツ地帯でしょ、急げば追ってこないんじゃない?」
「確か、魔物は二つ先の色地帯には攻め込めないんだったな?」
「しかし、シシリリアは侵入できるぞ? 最悪我が足止めに残るが、どうする?」
「いや、全員気にせず駆け抜けよう。飛び出すのは、彼女が後ろを向いた瞬間だ」
草原が途切れる場所へと辿りつく。数メートルでガイコツ地帯だ。
シシリリアたんが向こうを向いた次の瞬間、僕らは走りだす。
急げ急げ。出来るだけ気付かれないように……あ、目が合った。
にぃっと嫌な笑みを浮かべているのが見えた。
咄嗟にヤバいと思った僕は魔法を唱える。
「このっ、ピンポイントシールドっ」
「ちょ、なんだそのまほ……っ!?」
振り返りざまに魔法を発動した次の瞬間、メジェドの一人が目を光らせこちらを攻撃して来た。
ぎりぎり間にあったシールドに弾かれたものの、一瞬でも遅れてれば僕等の誰かが死んでてもおかしくは無かった。
「くらえっ!」
リックマンさんが斧をぶん投げる。
メジェドを撃破し、シシリリアたんへと向う斧。マンタが自分を盾にシシリリアたんを守っているのを確認し、僕らはガイコツ地帯へと逃げ込んだ。
「と、とにかくこのまま表世界に逃げ込もう、ここはしばらく使わない方が良さそうだ」
もともとグーレイさんと合流するまで休日にする予定だったし、しばらくは裏世界に来ない方が良さそうだ。
シシリリアたんのことは気にはなるけど……とにかく皆の安全優先だ。