二百五七十九・その一本道の激闘を、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
「ふははははは! いいぞいいぞ! うぬのような強者を待っていた!!」
「グルァァァァ!!」
ユーデリアさんが楽しそうに闘っている。
一本道の守護者は猪人という亜人種でした。
ムキムキの二足歩行生物で、顔だけ猪という何とも言えない生物である。
鬼でも斬るのかと思ったけど刀は持って無くてでっかいハルバードを巧みに扱う守護者であった。
今はハルバードをユーデリアさんに粉砕されて肉弾戦に突入、二人して楽しそうに拳を打ち合っている。
んで、その間僕らは何しているかといえば、地中から突撃して来るモグラモドキの対応に追われていた。
なんとか対処できるようにはなって来たけど、やっぱり股間へ飛びかかってくるゲテモノは全く慣れない。
今のところ男性だけだから問題は無いけど、檸檬たんに襲いかかって来られたら……
って、檸檬たんっ!?
「っ!?」
真下から襲ってきたモグラモドキ、股間向けて噛みつこうとしたその瞬間、がしり、と両手で頭を掴みあげられる。
「ふふふ、釣ーれた♪」
あ、違う、不意打ち打たれたんじゃない。檸檬たん誘ってやがった!?
ばたつくモグラモドキを持ちあげ、にたぁっと笑みを浮かべた檸檬たん。次の瞬間、ばつんっとなんかもう言葉では言い表せないというか言い表したくない。
目に見えない程の速度でモグラモドキの首から上が消えた。とりあえずそれだけ告げとくよ。うん、何処に消えたかはあえて何も言わないでおくよ、はは、ははは……夢に出そう。
あ、モグラモドキが一斉に逃げだした。
さすがに危険を感じてしまったようだ。
喰いつくはずの物体たちに逆にアレされたもんなぁ。そりゃ恐ろしくて襲いかかれないよね。
うん、なんでだろう? 凄く、納得いかない。
なんだろう? 檸檬たんが徐々に人外に足を突っ込んで行ってる気がするのは気のせいかな?
彼女、確かバグってなかったよね?
なんであんなにおかしな感じになってるんだろう?
と、とにかく、彼女を見るのは危険だからユーデリアたんの方に視線を向けよう。
あっちは……こっちも流血沙汰だぁ!?
なんでウチの女性陣は殺伐としてるのばっかなの!?
月締君、小玉氏、これどうなって……
「あれはユーデリアあれはユーデリアあれはユーデリア……」
「あれは檸檬あれは檸檬あれは檸檬……」
二人とも既に精神限界迎えていたようだ。
役に立たなーいっ!?
畜生、男性陣の精神が打たれ弱くなってる。
「いいぞいいぞいいぞ、滾って来たわァ!!」
「グルアァァァァッ!!」
拳をぶつけ合うバケモノと美少女、三倍近い体格差をものともせずに殴り合うユーデリアさんはさすがに狂気じみた顔をしていて近づきたくない戦闘狂だった。
にしても、あの巨体と普通に打ち合うとかよくできるよね。
しかもこっちが押しているという……
あのイノシシ頭、意外と打たれ弱いというか、ユーデリアたんの打撃力が強いのか……
あ、大振り。
好機到来と突撃するユーデリアたん。
敵の攻撃をかいくぐり、顎への真下からの掌底。
浮き上がるほどの一撃で意識を飛ばす猪人。
すかさず背後に回って熊殺し。
要するに腕を回して喉を圧迫する暗殺術で締め上げる。
びくびくっとしていた猪人は、くたり、と力が一瞬で抜けきった。
刹那、道を彩っていた色が塗り替えられていく。
「意外と楽しめたぞ宿敵よ!」
愛しげに告げて、猪人から飛び降りる。
体格差のせいで真後ろから飛び付いた状態での密着首絞め状態だったからね。
気のせいだろうか? 月締君が凄く羨ましそうな顔で猪人の遺体を睨んでいた気がする。
掛けてほしいのあの技? 死ぬよ?
優しく後ろから抱きしめられたいってことかな?
言えば多分やってくれると思うけど……
まぁ、バカップルがイチャつくのは見たくもないので言わないでおこう。
出現する魔物は……
メタリックイエローに彩られた歩くキノコの群れだった。
どうやら敵対存在ではないらしく、僕らを放置して、産まれた先からどこかへ向って歩きだし始める。
足はラグビーボールを半分にぶった切ったような形で、ぽってぽってぽってぽってと歩く姿はある種可愛い系だろう。
守護者は……この周辺には居ないらしい。
近場の存在がここを分捕ったんだろうし、山の方か、それとも逆方向……切り断った崖みたいな場所で行けなかったんだけど、そっち方面だろうか?
まぁどっちでもいいか、しばらくしたらまた守護者変更されるんだろうし。
とりあえずモグラモドキがいなくなったならそれだけで十分だ。
ただ、檸檬たんがキノコ~っと襲いかかってたのはさすがにちょっと人としてどうかと思う。