二百五七十七・その遅すぎた報告を、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
―― というわけでー、のっぴょろん君はグーレイさんのところで預かってまーっす ――
ワッツ?
パードンミー?
唐突に頭に聞こえた空耳のような天の声に、僕は思わず立ち止まる。
いや、昨日知ってたならなんで教えてくれなかった!?
既にもう大々的に捜索依頼をノヴァが出しちゃったじゃん。
依頼料まで支払ったのにどーすんの!?
捕獲指令みたいなの出しちゃったよ!?
モザイク棒人間個体名カリオンの保護。
生存状態での魔法の英雄チームへの引き渡し。
成功報酬3万。
と、まぁノヴァ君が必死に冒険者ギルドに依頼したのである。
つまり、コレ解除しないと向こうで引き受けた冒険者たちがカリオン君捕獲にグーレイさんチームを襲撃しかねないってことじゃん!?
裏世界に行こうとしていた踵を返し、僕は冒険者ギルドへと向かった。
「え? 取り下げですか? それは依頼者本人じゃないと……」
「え? ノヴァ居ないんです?」
「自分も探すと言ってそのまま出て行かれましたが?」
なんか、大事になりそうな気がします。
おい、駄女神ッ! どーすんの!?
って、回線開いてないじゃなーいっ!?
不味い、不味いぞ、これはかなり不味い状況になるんじゃないか?
「で、では別冒険者への伝言をお願いします至急依頼で!」
「かしこまりました。チーム名は?」
「英雄のグーレイさんチームにカリオン君の捕獲依頼が出されて取り消せないからそっちでなんとかしてください、こっちはノヴァ探しますってお願いします」
「かしこまりました。こちらの文章でお間違いはありませんか?」
「……はい、お願いします」
確認を終えて、グーレイさんに伝言を送る。
上手く聞いてくれればいいんだけど、さらにややこしい事にならないことを祈ります。
「ってか、ノヴァは何処行ったんだよ」
「彼、凄くカリオン君探してたから、もしかしたら他の国に一人で行っちゃったかもしれないわね」
「ソレはさすがに最悪なんだが……」
既に居場所判明したし、戻って来さえすれば会えるんだけど……
ああもう、タイミングが悪いっ、あの駄女神、もうちょっと早く伝えてくれればもっと状況は落ち着いたモノだったのにっ。
「ままならないわねぇ」
「グネイアス帝国の方でも連絡はしてみるけど、ノヴァ君何処行ったかは分かってないみたいよ」
「ありがとうシルバーたん」
「おう、リーダー、手分けして探してきたが、やっぱこの国から出たんじゃねーか?」
「ノヴァ君の目撃証言が外に向かっているようなんだ。別の国に向かったかもしれない」
いてもたっても居られないのは分かるけど、なにしてんのノヴァぁ!?
「どこいったかはわかりそう?」
「残念ながら、この先はどう考えても別れ道だからな、しかも複数の魔族領に繋がってる。さすがにあてずっぽうで捜索するのは危険すぎる」
「はぁ、何処に向かってしまったんだ。またチームメンバーが崩壊してくのは見たくないんだが?」
「どうしようもないわよ。とりあえず近隣の冒険者ギルドに連絡頼みましょ」
「あー、受付のお姉さん、追加の伝言お願いします」
「……はい」
ああ、長々カウンター占拠してるからお姉さんの機嫌がかなり悪くなってる。
別に迷惑客じゃないんですよ?
ただちょっといろいろと面倒事が起こってるだけですから。
「モザイク棒人間のノヴァさんに、カリオン君の足跡見付けたんで捕縛令の解除と早急な帰還をお願いします、とお伝えください」
「かしこまりました」
「い、以上っす」
これ以上は不味い、と本能が告げだした。
僕はメッセージの確認だけ済ませると、そそくさとカウンターを後にする。
ギルドの一角で他のメンバーとまとまって、今後の方策を考える。
「下手に別れるとなんかまた合流は難しくなりそうだし、ノヴァが戻ってくるまではこの町拠点のままでいいかな?」
「もともとそのつもりだし問題は無いでしょ?」
「グーレイ氏も戻ってくると言っていただろう? 一度落ち会う為にこちらに戻ると」
「後は裏世界に行くかどうかだけど、とりあえずあの小道だけでも攻略しとこうか、ユーデリアさんがうずうずしてるし」
「それもそうだな。今日一日はそこに費やすとして……」
「うん、明日からは温泉休日でいいんじゃないかな?」
「やった! 食べ放題っ」
「止めて差し上げろ檸檬」
「やっぱり裏世界だと連戦になりますし、ゆっくり疲れを癒しながら攻略する方がいいですよね?」
「ピピロさんは特に気を張ってますからね。しっかりと休んでください」
「そういう尾道さんも率先して戦ってますよね? 休んでくださいよ?」
互いに尊重すんのは良いんだけど、この二人付き合ってるんだろうか?