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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1724/1818

二百五七十四・その目が直っていた理由を、彼は知らない

SIDE:斬星英雄


 ふいに、柔らかな感触で意識を取り戻した。

 いつまでも触れていたいような、恐れ多いような、そんな安らぎを与えてくれるふにんとした枕である。

 いや、これは枕なんかじゃない。


 うっすらと目を開く。

 焦点の合わない視界に、二つの丸い山が見えた。

 そこに、照明を遮るように人の顔。

 焦点が合ってくると、それがギオさんの顔だと分かる。


「あは、目、覚めました?」


「ああ、うん、えっと……」


 なんだっけ?

 僕、何して……

 不意に思った次の瞬間、直前までやってたことがフラッシュバックするように押し寄せて来た。


 皆と別行動して路地裏へ。

 そこで出会った光来。

 持ちかけられた話。


 敵対し、戦った事。

 勝てると思った。なのに、最後の最後で失態。

 光の英雄である光来の実力を見誤り、発光を間近で見て目を潰された事。


「え? 目が……見えてる?」


 あの光の量は確実に僕の両目を潰したはずだ。

 何も見えなくなって光が熱くて、もう駄目だって、思いながら痛みでのたうちまわっていた気がする。

 そのまま痛みで気を失ったのだろう。


「えへへ、良かったです」


 少し涙が漏れていた彼女は目元を拭い、笑顔を見せる。

 うぅ、駄目だ。こいつはガチムチの魔王だった存在だぞ。

 なんでこう、ドキッとしちゃうんだ。

 というか、二つの山に見えたのってどう見てもギオさんの胸じゃん!?


「ご、ごごご、ごめんっ!?」


 慌てて飛び起き彼女の膝から離れる。

 どうやら膝枕をされて寝かされていたらしい。

 普通の女の子なら喜ぶべきシチュエーションなのだけど、相手はTS系美少女だ。しかもTS前はガチムチ魔王様である。


 わかってはいる。

 わかってはいるのだけど本能的部分でドキドキが止まらない。

 もしも誘われてしまったら、僕はほぼ間違いなく一夜の過ちをしてしまうだろう。

 それくらいには彼女を好ましい存在だと見てしまっていた。


「あ、あの、ご迷惑でしたか?」


「い、いや、ちょっと驚いただけだよ。で、でもどうして僕は寝てたんだ?」


「あ、それは……」


「やぁ、起きたと連絡を聞いたから来たんだけど……お邪魔だったかい?」


 背後から声が掛かる。

 はっと視線を向けるとそこにいたのはグーレイさん。

 どうやら僕が目覚めるまで待っていてくれたらしい。

 下手に騒ぐよりは落ち着いてからの方が嬉しいので神妙な顔でうなずいて移動することにした。

 グーレイさん察してくれたかな?


「あの、僕は……」


「路地裏で倒れていたよ、全く、光来君相手に無茶をする」


「いや、あはは、面目ないです」


「目は大丈夫かい? バグ君が直してくれたようだけど」


「え?」


 ああ、やっぱり。目はあの時両方とも光に耐えきれなかったんだ。

 でも、僕の目はしっかりと色彩を保っている。

 つまり、誰かが直してくれたってことだ。

 バグ君……僕は皆を撒いたつもりだったけど、おそらく見えない彼は僕を心配して着いて来てくれていたんだろう。

 御蔭で光来の一撃で無防備になった僕を助ける事が出来たんだ。


「そっか、僕、負けたんだ……」


「光来君も君を確認することなく光を目くらましにして逃げたらしいよ?」


「それでも、至近距離の光を無防備に喰らった僕はそこで戦闘不能でした。剣術だけじゃ……駄目なんだ。ああいう咄嗟の魔法に対処出来るようにならないと」


 バグさんなら、きっとああいう手合いにもしっかりと対処できたんだろう。

 あるいは目を焼かれながらも反撃を出来たかも。

 僕はただ無防備に転がりまわるしかできなかった。


 強く、なりたい……

 偶然で拾えた命じゃない。

 僕自身の判断と実力で、ああいった状況でも生き残れる術が欲しい。


 思わず拳を握りしめる。

 悔しいけど、剣術が上手くなっても、良い剣を使えても、それだけじゃ駄目なんだ。

 もっと、もっと強くならなきゃ。


「グーレイさん……」


「うん?」


「僕、もっと強くなりたい。バグさんに、剣術を、咄嗟の判断で的確に動ける術を教えてほしいんですっ」


「それは……まぁ確かに剣術という面においては彼女が秀でているかもしれないけど……どうするバグさん?」


 え? そこにいるの!?

 なんか今の聞かれてたと思うとちょっと恥ずかしいな。

 でも、今より強くなるなら、あの無類の剣術を身につけてるバグさんに頼るのが一番だ。


「成る程、私を通訳にしてなら教えられるか……どうする斬星君?」


「……ぜひにっ」


「おー、見えない嬢ちゃんの剣術教えてくれんのか? 俺らもついでに教えてくれよ」


 え? あ、ガーランドさんとジャスティンさん!?


「ん? まぁついでにってことなら問題はないのか? 折角だし剣士繋がりでラウールさんも呼んでみるか」


 あれ? なんか大人数になりそうな予感が……まぁ、強くなれるなら、いっか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1724話……???冷静に考えると100話前後の時から読んでるから……もう何年だ???面白い。終わった上で次を続けてくれてありがとう。なろうで1番好きな作品です
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