二百五六十六・その魔王召喚で出て来たモノを、彼らは知りたくなかった
魔王復活を見学出来るってことらしいので、僕らは全員で会場に潜入することにした。
本気でヤバそうだったら召喚された魔王をぶっ倒すつもりらしいけど、なんか失敗する事もあるらしいよ?
しかも失敗したらそのまま解散だそうだ。
魔王召喚に成功しても、命の保証は無く、ヤバい魔王だった場合は国壊滅の可能性すらあるらしい。
それでも魔王を召喚するって、馬鹿なのかな?
自滅はともかく周辺国に迷惑掛けないでほしいよほんとに。
僕らが付いた時には既に儀式が始まっていた。
祭壇と思しき場所には、フェアリーサークルが作られており、どう見てもこいつら裏世界のこと認識してるってことはすぐに理解出来た。
正直、あの世界から呼びだしたならどんな生物であれ、この世界にいる魔物よりは強力だよね?
魔王と勘違いされてもおかしくは無いのかもしれないけど、うーん、まぁ何が召喚されるかワクテカして待ってようか。
『バグさんったら、何が出て来ても問題無いって顔ですね』
そりゃこの面子だよ? 余程理不尽な存在じゃ無ければ負ける気がしません。
あのヤバい光景ともこの辺りは全く違うしね。
そこはもう安心して見れちゃいます。
なんか最高司祭っぽいお爺さんが変な呪文を真剣に唱え始める。
うーん、なんか適当に言ってるようにしか思えないなぁ。言葉の羅列にも意味がなさそうだし、むしろ暗号? 呪文って感じじゃなくて文章を単語ごとに区切って並び変えたような言葉だ。
だからなのか、聞いてて気持悪い。
両手を掲げてほあーっと叫ぶ。
ビカァッと光が瞬き一瞬後、ドォンっと音が鳴り響く。
あ、詠唱終わってないから今のは召喚された音じゃないのか。
わかりづらいなぁ。
にしても、どれだけ詠唱してるんだろう?
声よく枯れないよね? 息継ぎもしてないように見えるし。
あ、また手を上げた。
バリバリバリっと放電現象が起こり、室内が明滅する。
正直眩しいです。目が潰れちゃう。
って、今のもただのフリなのか。
それからも何度か魔王出現してもおかしくないエフェクトが部屋中に散らばったりしたんだけど、期待持たせたわりにはなんかもう全然魔王とか来ないな。
「あー、なんかだれてきたんだが……」
「ガーランドさんこういうの苦手かい?」
「待つのがな。どうにもむず痒くて仕方ねぇ」
気持はわかります。さすがに長過ぎるもんなぁ。
そろそろなんか出て来てもおかしくないんだけど。
一般信者の一部もちょっとだれて来てるぞ?
詠唱もなんか繰り返し多くなって来てるし……
ん? 気のせいかな? あの司祭さん、冷や汗かいてる?
もしかしていつもはあのエフェクトで魔王出現とかしてるのかな?
「なんか、様子が変だね」
「幹部連中もざわつきだしたな」
「これ、いつ終わるのかしら?」
多分なにか出てくるまで、かな?
もしかしたら向こうに誰かがいて、定期的にこっちに魔物を送ってるのかも。でもトラブルが発生して送れない状態になったとか?
「ほんごれぎれあちょぁーっ」
ついに司祭さんの呪文が意味不明になりだした。
少し前まではちゃんと単語になってたのに……
これはもう、今日は無理なんじゃないかな?
あ、幹部っぽい人たちが祈り始めた。
これはもうなんとか魔王っぽい何か出て来てくださいって神頼みしてるってことだよね?
いや、無理だろ。たぶん魔王候補なんて絶対に出てこないぞ。
トラブルだって認めちゃえよ。
それでもしつこくほげほげ言ってる司祭さん、もはや引くに引けずに出てくるまでやるつもりらしい。
可哀想に、ちょっと半泣きになってるぞ。
まぁ、確かに既に一時間近く呪文唱えてるもんね。そりゃもう止めたいって思うよ。
うん、君は頑張った。もう休んじゃえよ。
どうせ出てくる気配は全く無いんだし。
あ、そうだ。グーレイさん、ちょっと隠蔽スキルとか使ってあのサークルから出て来てあげたら?
「なぜ魔王扱いされてこなきゃいけないのかね?」
グーレイさんなら出て来ても全く違和感なく受け入れられると思うんだけどなぁ。
って、待って? なんか光の具合がおかしい?
これってもしかして、召喚始まってる!?
光が溢れる。
フェアリーサークルから溢れた光が渦を巻きやがて何かがその場に現れる。
おお、と皆から声が漏れた。
いい加減だれていただけに、その出現に期待が込められる。
果たして、そこに出現した存在は……
黒い、棒状の身体。ソレを覆うように肉付くモザイク。
人型のそれは周囲を見回し、一言。
「のっぴょろん?」
も、モザイク棒人間だぁぁぁぁ――――っ!?
な、ななな、なんでお前がここにいる――――っ!!
あ、駄目だよアーデ、うかつに近づいちゃ……って、なんでドロップキックしちゃうのーっ!?