二百五六十・その下る岩山の先を、彼らは知らない
SIDE:灼上信夫
岩山を下る。
魔物が上から降ってくるので登りより下りの方が危険だったりする。
これは逆方向を下山してたとしても同じ状況なので仕方ないんだけど、正直辛い。
何しろ背後から敵が落下してくるのだ。
背後に気を配りながらだと後ろ向きに岩山を降りないといけないからそれも危険だ。
特にマグマウルフは生成から落下までの期間が短く、しかも誘導弾のようにこちらに向かって来るのでなかなか背後から気を抜けない。
仕方なく、半数が降りる間、もう半数が背後に警戒するってことで倍の時間かけての下山になった。
まぁ、安全性はかなり高いから問題は無い、かな。
あと、フェアリーサークル見付けたらとりあえず覗いてみる事に決まった。
表世界が恋しいです。
しばしの下山。
登って来た時間よりは短縮されるものの、でこぼこの岩山下りに背後をたびたび警戒しながらの下山となるとさまざまな負担が体を精神をむしばんで行く。
山登り、今更ながら後悔してしまう。
平地を行けばよかったかなぁ。
「おい、アレって守護者じゃねーか?」
矢田が一番最初に見付けたのは、岩場の合間にでかでかと居座る岩のようなイグアナだった。
身体付きは3メートルくらいあるだろうか? 尻尾を含むともっと長い。
周りの岩場に擬態しているのでよく見ないとわかりにくい。
こちらを見上げているのでどう見ても認識されてるのは確実、逃げるのも無理そうだ。
待ちかまえている守護者の元へと向かうしかないらしい。
「闘いだな、任せよ」
まずは、とユーデリアたんが前に出る。
勝てるだろうか? いや、彼女なら十分戦えるはずだ。
走りだすユーデリアたん。
ソレを見たイグアナが戦闘態勢を取る。
「貰ったぞ!」
次の瞬間、ユーデリアたんが掻き消える。
まるで残像のように消え去った彼女は、イグアナの背後からチョップを撃ち降ろす。
が、イグアナは既にソレを読んでいた。
目から赤い液体を放出。
ぎりぎりで避けたユーデリアたんの頬を切り裂く。
「液体で切れた!?」
「高圧水カッターだ! 絶対に当たっちゃダメよ!」
アレは多分だけど、血だな、イグアナだったかは自信ないけど砂漠にいた爬虫類系の奴がにたようなことやってたのを覚えてる。
下手に近づくのは危険か。
「遠距離で戦おう。ユーデリアたん、避けタンクを頼める?」
「いいだろう。遍く全てを避けてみせよう!」
それはそれで見てみたい気もするけどさすがに無理だろ。
「貫波!」
「サンダーランス!」
「ダークフレア!」
「のっぴょろぁ!」
えぇ!? のっぴょろん遠距離攻撃できたの!?
って、近くの小石投げただけかよ!?
あ、でも地味に嫌がってる。よし、皆石を持てぇい! そりゃぁ!
全てを避けようとするイグアナ。避けきれずにいくつか当たるが、小石は大したダメージにならない。
しかしながら、全てを避けているせいでどれが当たるかはランダムと化している。
ゆえに、稀に看破やらサンダーランスが直撃して、大ダメージを与えられる。
また、隙を見せた瞬間胴を蹴りつけるユーデリアたんの一撃は莫迦に出来ない威力を誇る。
しばしの硬直。しかしすぐに体勢を整え威嚇を始めるイグアナ。
それでも、ユーデリアたんの一撃が随分ダメージになっている。
動きが鈍ったことで余計に攻撃が当るようになり、必死の抵抗空しく徐々にその動きを弱め始めた。
負のスパイラルへと突入したイグアナは、やがて動きを止め、そのままユーデリアたんの手刀を頭に受け、頭を窪ませ息絶えた。
いや、攻撃力!? ユーデリアさんの手ってどんな凶器なの!?
だが、僕らは忘れていた。
そう、守護者倒したら色が変わるのだ。
僕らが居た場所が頂上の色へと変わっていく。
そこの守護者は、そう、緑の龍だ。
「げ、下山急いでッ!!」
なんか龍がこっち向かって飛翔し始めてるぅ!?
折角守護者を倒したっていう喜びもつかの間、僕らは急いで下山する羽目になった。
しかも上から出現してくる魔物は相変わらずだし。
種類ごと変わったけど結局地面に向かって滑落して行く姿は変わらず、豚みたいな生物が横に転がりながら僕らを追い越して行くのが何ともシュールだった。
緑から赤褐色へ。ようやく変化したのは中腹を過ぎた頃。
魔物の種類も一気に変わり、この辺りからなだらかな斜面へと変わっていく。
岩場だった道も平たんな山へと代わり、周辺を楽しむ余裕が生まれだす。
「魔物も普通に闊歩しだしたな」
「後ろを警戒しながら下山する必要が無くなった半面、戦闘は増えそうですよ?」
「むしろ望むところだ」
「ユーデリアさんじゃないけど、あまり役に立ててなかったからね。そろそろ私も戦闘に参加せねば」
そういえばリックマンさん結構な頻度で戦闘に参加できてなかったな。
近接の斧使いなので必然的に山での戦闘には不利なんだろう。
基本接近される前に遠距離で倒すか避けるだけの闘いだったし。




