二百五十九・その登る岩山の先を、彼らはまだ知らない
SIDE:灼上信夫
岩で出来た山を登って行く。
ところどころ平地もあるので、そこまで登りにくい訳でもなく、段状になってる場所が多いので結構楽に登れている。
問題点は、岩に隠れて魔物の接近に気付きにくいのと、魔物が上から降ってくる事だろう。
なんか岩に手足の生えた爆弾岩っぽいのが降ってくるんだ。
僕らがびくっとした次の瞬間にはそのまま下へと落下していってるんだけど。
この岩山はゴーレム系の魔物が多いようだ。あと丸い感じの魔物が多くて、ごろごろ転がって行く。しかも僕らの傍で止まったりはしないのでそのまま地面に向かって落下して、ばきゃっと粉砕されて散っていく。
つまり、まぁ、流れ弾に当たらなければ敵と遭遇戦することもないっていう、落石避けるだけの障害物レースみたいになっていた。
なので、皆もちょっと離れ気味に歩いて落石を避けながら移動している。
基本、ヤバかったらピピロさんがカバーに入るので、少し離れて避けに徹した方が安全に登れるのだ。
「結構登ったなぁ。まだ中腹にも届いてないけど」
「どんどん高くなってるわね。こんなに上だったかしら?」
「空間が歪んでるのかも知れませんよ。裏世界ですし」
ソレはありそうだなぁ。
ってことは、この先登っても周辺が見られるかは分からないかも。
そもそも別のフィールド扱いされたりしないかな。ほら、ゲームだと山登ると山専用のダンジョンみたいになって周辺を見られなくなったりとかする奴あるじゃん。
……下、全然見えないや。本当に別フィールドじゃないかなここ?
「リーダー、なんか来るぞ!」
「あれは……ぎゃあぁ!? 狼!?」
真上から飛んで来たのは赤く灼熱した狼の上半身型火球。
なんとかぎりぎりで避けるが、あっつい!?
掠ってもいないのに無駄に熱かったんだけど!?
「うっわ、なんだありゃ、しかも、曲がるぞあの狼!?」
「ちょっとだけどホーミング付きかな!?」
微妙に僕等向けて曲がってくるのがちょっと怖い。
ただ、地面に激突したらマグマとして広がって、そこで終わりみたいだ。
つまり、一度避けてしまえば勝手に自滅する魔物らしい。
「今の、どっから飛んで来た?」
「いや、なんか空から突然……おい、アレ!」
遥か上空から、唐突マグマウルフが降ってくる。
まるで空中で突然生成されたかのように、唐突に現れるのだ。
「たぶんだけど、あそこの空までが守護者の守護範囲なのね。あの先は別の守護者の区域だから自分の区域内でしか魔物を生成できない、とかじゃないかしら?」
「なんとも良く分からない感じだね。でも……実際そんな感じなんだよなぁ」
空中で出現しているマグマウルフは確かに色の違う空の手前で生成されて降って来てる気がする。
ん? ちょっと待てよ。ってことはだよ。あの区域上に越えたら守護者が変わるってことか?
山、山頂がちょっと掛かってるんですが?
岩山を必死に登る僕らは、ようやく山頂手前までやって来た。
今のところ守護者の居る様子はない。おそらく逆方向あたりに居るんだろう。
それよりも問題は、山頂付近のみ緑っぽい空と同じ色合いになってるのが恐い。
山頂に守護者居たりしないよね?
「山頂、到着……居ないな?」
「空の守護者ってことかしら? さすがにここまで高いと周辺が見えないわね」
「雲海ってのが見えるぞ?」
つまり下の方は見えないってことね。高過ぎるだろこの山。僕ら良くこの軽装で登れたな? やっぱり空間歪んでるぞここ?
「ん? あ、あの、皆さん、なんか凄いの居るんですが?」
指差す尾道さん。なんだ? とそちらを見れば、くねくねと空を泳ぐように移動している超巨大な緑色の生物が遠くに見えた。
うん、ありゃどう見ても……龍です。竜ではなく東洋の龍です。
遠くだから判別は難しいけど、空泳いでる時点で僕らじゃ絶対敵わないのが理解出来た。
と、とにかく、こちらに気付かれる前に逃げよう。そうしよう。
「ぜ、全員撤退」
「あれは無理だよねー」
「むぅ、さすがの我も空中戦は少々荷が重いか」
天空向けて拳付き上げれば真上の敵位屠れないかな? そのまま真っ白に燃え尽きそうだけど。
「撤退はいいがリーダー、どっちに降りる!?」
後退すれば道なりに戻るだけで元の場所に戻れる。
でも逆に前進して下山すれば、未知の場所に辿りつけるだろう。
まず、もう一度この岩山登るのは無理。体力的にも精神的にももう登りたくない。
となれば、降りで先に進んで平坦な道を戻るのが良いような気がする。
「よし、進もう」
龍がこちらに気付くまえに、僕らは前に向かって下山する。
下山するのはいいんだけど、魔物の出現は上から下なので、下山中は上からの落下物に気を付けながら下山しないと行けなくなる。なかなか骨の折れる下山方法だ。正直もう無理。二度と山登りしたくない。