二百五十七・その陣取りが激しいことを、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
本日は南側向けて裏世界を探索中の灼上です。
正直こっちの方面は魔物の出現率も少なく、陣の中央付近で佇んでいる守護者を放置すればすんなり遠くまで向かえるので探索がしやすい。
もしかしたら難易度的にこの方面が一番楽だったかもしれない。
「しかし、この前来た時と色が違うくね?」
「多分定期的に守護者同士で闘ってるんじゃないかしら?」
「あ、また変わった。さっきまで足元薄い黒色だったのに、今は青色になってる」
「あの辺りは逆に赤から緑に変わったわね」
「あ、また変わった。あそこ、茶色になりましたよ?」
よくよく周辺を見ながら探索していると、次々に地面の色が変わっているのが分かる。
「おや? この近辺に出来るようですよフェアリーサークル」
え? こんな何もない場所に?
えーっと、すいません神様、聞こえます?
―― お? あ、灼上君連絡できるようになったの? 今パンティちゃんとアルセは席外しててにゃー。おおぅ、いつの間にか地図が結構埋まってる。 あれ? 北側行き終わったんだ? ――
裏世界での行動把握出来ないって聞いてたけど、本当に把握できてないみたいだ。
一応北側の状況は報告しておくか。
海方面が凄くヤバいってことを報告していると、バツンっと念話が切れた。
どうやらフェアリーサークルに切り替わってしまったよう……
「なんだこいつ?」
それは小柄なエントと呼べる樹の魔物だった。
自分の陣地と思しき緑色の四角い領地一杯に体を狭そうに揺らしている。
その陣地の大きさは、人一人が入れる位の小さなモノだ。
少しずつ、領地を広げようと暴れる守護者だったが、陣地が少なすぎるせいで満足に動けないようだ。
これは、好機!!
動けないなら攻撃し放題じゃないか!
「ひゃっはー、僕のターン、魔法連打ぁぁぁーっ」
「おおぅ。灼上君が凄く楽しそうだ……」
「信の奴、こういう敵には容赦ないよね」
「つか普段の鬱憤を晴らしてる気がすんぞ?」
僕が活躍できるのってなかなかないんだよ。リーダーなんてやってるから基本皆への指示と補助だし、ふはははは。その点こういう状況なら僕のターンしかないからね! 弱肉強食バンザーイッ!!
「お、倒した」
「おかわいそうに……」
エントの守護者を倒すと、数少ない彼の陣地が一瞬で消え、他の守護者たちに接収されていく。
なるほどなぁ。フェアリーサークルと同じ出現パターンで守護者も生まれ、周囲の領地を浸食して自分の領地を増やしていく。
そして一定の土地を簒奪したところで守護者同士の闘いが始まるようだ。
「よし、次行こうか」
「なんて爽やかな笑み……」
「僕、灼上さんには休日一人でゆったりできる時間、必要だと思うんだ」
「ん。ちょっと放置する時間、作ろう」
「そう、ね。あまり構い過ぎるのもストレスだったかもしれないわね」
なんかよくわからないけど、僕に皆同情的な目を向けて来るのは何故だろう?
ちょっと張っちゃけ過ぎて引かれたかな?
でも、こういう状況ってテンション上がらない?
「あ、あの辺りにも違和感産まれましたよ」
「よし、次も僕のターン連発……だ……」
「ウオォォォォォンッ!!」
そこに現れたのはライオンの体躯に尻尾が四つ股の蛇で出来たバケモノだった。
僕を見た瞬間、咆哮と共に炎を吐き散らす。
「ぎゃあぁぁぁっ!? 調子乗ってすいませんっしたぁ!!」
慌てて逃げだし炎の範囲から脱出。
ピピロさんがフォローに入って反射攻撃と尾道さんの貫波によりすぐさま倒された。
「こ、恐い、守護者恐い」
「さっきまでの威勢よ……」
ユーデリアさんが凄く呆れている。
「おや、また新しい歪み……これ、守護者を倒したら新しい守護者が生まれる感じですかね?」
「似たような場所に次のが生まれるってことね。ありそう」
「それって、ここにいたら永遠守護者と闘う事になるのでは?」
ノヴァが珍しく正論言った。
「よし、行こう。さっさと行こう。南下の先にある光景が僕らを待ってる」
「調子いいわね……はぁ」
「信夫可愛い」
「え、アレがか?」
ゴールドたんの呟きに思わず僕を二度見する矢田。失敬だね。僕だってモテるんだよ、多分。美人局では無いと信じたい。
でもゴールドたんグネイアスのスパイだからなぁ。
あ、でも最近は普通にシルバーたんしか報告行ってない気がするし、まさか本当に僕のことを!?
いやいや、落ち付け。それこそが孔明の罠だ。
僕がコロッと惚れた瞬間掌返されてグネイアス帝国の駒としてころころっと転がされてしまうのだ。なんと恐ろしい存在だ。やはり女の子は2D世界に限りますな。
「どしたの、信? 変な顔になってるわよ」
「変とは失敬な。このキリッとした可愛い顔らしいですぞ」
「なんか口調も変だから。モブ顔なんだからキメェ顔でキメずに普通にしときなさい」
「いや、辛辣っ!?」
うぅ、美樹香たんが辛辣だ。死んだ魚のような目で毒吐かれたらなんかこう、心の奥がびっくんびっくんして、不思議な扉が開かれそうな気がするから恐ろしい。