二百五十五・その海の守護者を、彼らは知らない
SIDE:灼上信夫
しばし温泉でゆったりと精神を落ち付けた僕らは、裏世界を北に向かって探索を始めていた。
最初の方は小川が流れる道を緩やかに登るルートで、色が変わった辺りから徐々に下り坂になっていた。
釣りで取れる魚も多種多様。
というか奇形種が多い。
多分食べてるかもだけど食べたくない姿なのでキャッチアンドリリースを心がけている。
だって釣った魚に手足生えてたり、ウサギの尻尾生えてたり、頭に突起があったりするからね。 正直生態系が壊れ過ぎてて食べようとすら思えない。
ああ、それとは別に、釣った瞬間膨らみ始めて爆発した魚は別な意味で食べれなかった。
直撃受けたノヴァが惨殺された人みたいにモザイク塗れになって……いつも通りか。
とにかく被害は少ないけど全身魚塗れになって酷い思いをすることになるのであの魚釣ったの見付けたら即行距離を取る事は暗黙の了解となった。
しかも今いる色の場所だと殆どの釣れた魚が爆発系なのでノヴァたちが見せられないよっ、状態である。
なのになんでこのモザイク人共は釣りを止めないのか。
次こそは喰える魚が釣れる、とかいいながら爆発の直撃を受ける姿は、馬鹿の一つ覚えと言わざるをえない。
「くまっ!? くまっぴょぅ!!」
お、なんか釣り上げ……ぎゃぁぁ!? 捨てて、ソレは捨ててっ! なんでそんなSAN値直葬級生物が川にいるのさ!?
でろんでろんだよっ!? 竿ごと捨ててしまえ!
「貫波」
「ギョエェェェェェッ!!?」
うわーお、焼却処分。
「そろそろ海岸に着くわよ?」
「おっと、この川河口に繋がって……ないな、横に曲がってるや」
「まぁその辺りは今回放置でいいだろ」
「海釣りだ!」
「のっぴょーう」
「くまぴょろーぅ」
だから釣りすんなって、ヤバいの釣れたらどーすんのさ!?
「うっわ、何アレ?」
海岸なんだけど、なんか宙を舞ってる。
無数に漂うソレを見て、思わず僕らは歩みを止めた。
だって、眼球が空飛んでるんだもの。
あれだよね、イービルアイとかそういう類の。
アレ見て思うんだけど、栄養ってどうやって取ってるんだろうか?
目と思われてる場所に口とか他の臓器があったりするのかな?
って、待って、待って!? 檸檬たんなんでタモ持って駆け寄ってるの!?
「っしゃぁ! 食料、ゲットだぜ!」
違う、違うよ!? イービルアイは食糧じゃないよ!?
「うひゃぁ!? 光線出した!?」
目だもんよ、目からビームでちゃうでしょそりゃあ!
「あははは、ぷちぷちしてる。これは食感好きかも」
いつの間に!? なんで躊躇なく食べれるの!? 口に含む直前に光線出されるとか考えなかったの!?
「ひゃっはー、大量だぁーっ!!」
暴食バーサーカーがタモ持って暴れはじめる。
イービルアイたちは最初こそ迎撃の構えを取ったモノの、まさか食べられるとは思ってなかったようで、味方が消えて行くごとに慌てふためき逃げ始める。
「逃すかぁーっ」
なんだろう、魔物の方が可哀想に思えてくるから不思議だ。
「最近三食しか食べさせて無かったからなぁ。ストレス溜まってたのかな?」
いや、小玉氏、普通は三食で十分なのでは?
「とりあえず浜辺の魔物は一掃されたわね。浜辺辺りまでは安全に移動できそうよ?」
僕らは浜辺へとやってくる。三バカトリオが海釣り始めたけど、何が起こっても助けないぞ?
とりあえず、この周辺の色は乳白色かな?
前に報告聞いた時と色が違う気がするけど、多分守護者が交替したんだろう。
海については相変わらず黒一色だ。見渡す限り黒いのでかなりの範囲を持つ守護者なんだろう。
遭遇しない事を祈りたい。
「お、ヒット、ヒットした!?」
「のっぴょぉ!?」
「うわ、でかっ!?」
「任せよ! オルァ!!」
ノヴァが釣り上げたのは巨大なチョウチンアンコウ。
飛び跳ねたところとユーデリアさんが殴り飛ばして砂浜に打ち上げる。
びくんびくんと痙攣しているチョウチンアンコウに近づいた小玉氏によって綺麗に解体されていくのだった。
海の中の生物は普通……な訳もないか。クマっぴょろんが釣ったのは槍型の先端をもったイカ。
釣り上げた瞬間釣った相手目掛けて突撃して来てクマっぴょろんが慌ててガチ逃げ。
それでも逃げ切れないと気付いた彼はベアクローで迎撃していた。
海の中の魔物も危険だからあまり海側には近寄らない方が良さそうだ。
下手に近寄ったらひきずり込まれそうだし、なんか守護者が突撃して来るフラグとか踏みそうだし。
正直危険しかないので浜辺からは遠ざか……
うわーお、頭が三つある鮫が飛んで来たぞ!?
危うく月締君が頭から齧り付かれそうだったけど、ユーデリアさんが割り込んで空中からの拳の打ち降ろしで一撃粉砕。やっぱり彼女、頼りになるなぁ。