二百五十・その命令を解除する方法を、誰も知らない
グーレイさんはワインを二つ受け取ると、取っ組み合い始めたカイゼルヒゲオヤージとメロンさんの脇を抜け、二人のワイングラス向け、赤ワインと白ワインを同時に注ぎ込む。
まさかの暴挙に僕らは止めに入ることすらできなかった。
「「あぁーっ!!?」」
混ざり合ったワインはもはや赤とも白とも言えない状態に。
二人が気付いた時には、既に二人のワインは混ざりあった状態だった。
「な、なんということを!?」
「グーレイさん、なんで私のまで!?」
「お黙りなさい。赤か白かで争うならいっそ二つを合わせれば問題ないでしょう! ほら、飲んでください」
「「暴君だ!?」」
泣きながらワインを煽る魔王と魔王の娘。その後は争うこともやめたようで。残ったワインが混ざらないよう気を付けながら思い思いのワインを嗜み始める。
「それじゃあ。皆も卓につこう。折角持て成してくれるようだし」
持て成す相手にやるこっちゃないよ、暴君グーレイ。なんて恐ろしいんだ。
グーレイさんは怒らせないようにしなきゃ。
『一番怒らせそうなの、バグさんですよね?』
何のことかわかりませんな?
「おー、意外と凄いな魔族食」
「温泉街の食事とはまた違うわね」
本場魔族の料理だってさ。リエラどう?
『んー、えっと。アメリスさんの家で食事を続けていたせいでしょうか? そこまで美味しいとは……あ、いえ、美味しいですよ? 美味しいですけども』
と、いうことらしい。
つまり普通に美味しいけど普通どまり。
美食って程ではないらしい。
まぁ、アメリス邸の料理が貴族にしてもかなり美味しい部類になってたから仕方ないっちゃ仕方ないんだ。リエラの舌は肥え過ぎていたのさ。
「あー、それで、ナマハよ、我が城に戻って来た理由を聞いてもいいかね?」
「え? 街に入るなり殺しに掛かって来たから、だったら首魁潰そうって話になっただけよ、通過するだけのつもりだったのに」
「お、おぅ、そうなのか? それはすまん」
ほんとに、あ、そうだグーレイさん、メロンさん見付けても攻撃してこないよう告げとかないと。
「あー、カイゼルヒゲオヤージ殿?」
「ふむ、なんだね銀色の」
「メロンさんに掛けてある懸賞金か何か解除しておいて貰えるかい。城をでたらまた衛兵に襲われるとか御免だよ?」
「ん? ああ、そういえばそうだったな。おい、執事、ナマハへの殺害命令を解除しておいてくれ」
「無理です」
「は?」
しかし、すぐ近くで侍っていたらしい執事さんは呼ばれるなり拒絶する。
「最初期に陛下がこの命令は絶対に撤回せん、と。たとえ自分でも解除は出来ない、と全市民に伝えよとおっしゃられました」
「よし、滅ぼすか」
「ちょ、ちょっとまてナマハ! お、おちつけ、落ち付くのだ」
これは酷い。
多分、激怒した勢いで言っちゃったんだろう。
そして街の人々にはメロンさん見掛けたら殺しかかるか衛兵呼んでって伝えちゃったんだろうね。
「もう二度と故郷には帰れないのね……はぁ」
「ああ、すまん。こんなことになろうとは……」
「構いません。二度と戻らないだけなので」
「あれぇ!? 全然応えてない!?」
そりゃそうだ。メロンさんは別に戻る気なかったし、グーレイさん達と一緒に行動する方がいいって言ってたもんね。
「ただ、領地を出るまで狙われるのはあまりいい気分ではないわ」
「それは……今回領地をでるまでナマハを攻撃しないという勅令は、可能か?」
「連絡はしてみましょう。可能かどうかは領民次第ですが、城内での暗殺等は防ぐように伝えておきます」
「……ままならぬモノだな」
あんたのせいだろ!?
とりあえず城の中は安全らしいし、今日の所はここに泊まった方がいいかな。さすがに今外に出ると野営確定だし。
「少々厚かましいかもだけど、今日はこの城に泊まることは可能かな?」
「うむ、むしろそうしてくれ。さすがに申し訳がなさすぎる」
「それはありがたい。ただ、またメロンさんとモメて掌を返すのは止めてくれたまえよ。次はこちらも容赦はしない」
「お、おぅ……おい、ナマハ、お前の知り合い凶暴ではないか?」
「アレを凶暴にしたのは父さんだってこと忘れちゃダメよ?」
「そ、そうか……」
グーレイさん普段は理知的なんだけど、実際問題知能タイプを装った危険生物グレイだからね。
怒らせると理性かなぐり捨てて襲いかかってくるよ。
『私は獣か何かかな?』
『あはは。グーレイさんがそうなったらこの辺焼け野原になっちゃいますね』
いやー、グーレイさんだよ? ここらっていうかこの星纏めてブラックホールに投げ込む位はやりかねん。
―― あ、それ昔マジでやったヤツー ――
え?
『ああ、あいつか。あれはもう生かすだけ無駄だと思ったから消し飛ばすことにしたのさ』
あれ、これマジな感じ?
やばい、忘れてたけどグーレイさんって神だった!?