二百四十七・その殴られた理由を、彼は知らない
「よく来たな人間共」
謁見の間へと辿りつく。
メロンさんがやって来たことは理解しているのだろう。
玉座に座りグーレイさん達を睥睨するカイゼル髭の魔王は厳かに告げた。
ゆっくりと立ち上がるカイゼルヒゲオヤージ。
対面する娘の姿に不愉快そうに鼻を鳴らす。
メロンさんは少し不安げに、しかし既然と父親と向かい合った。
「どの面下げて戻ってきぶるぁっ!?」
そしてメロンさん向けて何か言い始めた魔王の横っ面目掛け、渾身の右ストレート。
想定外の一撃を受けた魔王は間横に吹っ飛び無様に倒れる。
ふぅ、体重の乗った良い右だったぜ。
『おお、意外と腰の入った右だ』
『あはは、ついさっきゴールデンオカブさんに習ってたのこれが理由だったんですね。なんでアーデを経由したら会話しなくても通じるんだろう?』
「な、なな、なんだ? 今、何が?」
これはアーデが危険を感じた分。
「くっ、ナマハよ、貴様父に対してなんという暴挙をするぶぁっ!?」
これはアーデに攻撃した分。
そしてこれが……
「ま、待て、待つんだナマハ、話せば分かる、はなせぶるばぁっ!?」
アーデが巻き込まれた僕の怒りだぁぁぁッ!!
―― おおっと渾身のアッパーカットが綺麗に決まったぁ!! 宙を浮いたぞカイゼルヒゲオヤージ!! そしてバグ君脱臼だァ!! ――
ぎゃああ、痛ってぇ!? やっぱ慣れない事するもんじゃ無かったぁ!?
『転げまわるくらいならやるなよ……はぁ』
『ふふ、アーデの事になるとホント無茶するんですから。えーっとあ、これなら入れれば直りますね。ちょっと痛いですよ』
ぎゃあぁ!? お、おお、直った。動く。痛いけど動く。
「い、今起こったことをありのままに言うわ。父親と対面して何を言われるかと覚悟してたら父が勝手に吹っ飛んで倒れたんだけど、どうしたらいいかしら?」
「とりあえず温かいまなざしで見守って上げよう。というか君、父親からナマハって呼ばれてるんだね」
「お恥ずかしながら。ナマハムメロンの最初の三文字で愛称らしいわよ。あんまり好きじゃないけど」
そもそも名前自体替えた方がいいと思う。
女の子に付ける名前じゃないよねナマハムメロン。メロンだけならまだ分かるんだけど……
「ぐ、くぅ……」
「父さん……」
「ナマハ……これが、これが答えなのか?」
「意味が、分からないのだけど? 父さんは何を怒っているの?」
「……何? お前、お前アレを忘れたと、忘れたと言うのかっ!!」
あー、これはメロンさんにとってはそこまで怒る事かなって思えるけど親父さんからしたら絶許の行動とか取ってたって奴かな?
「チャーハンにはソースだろうが! なぜ醤油をかけた!!」
どうでもいいいさかいだった!?
「何言ってるの?」
そうだよね、ほんと何言ってんの良い髭しといてっ。
「チャーハンには醤油でしょうよ!!」
そっちかいっ!?
たまにあるよね、マヨネーズ派とか醤油派とかケチャップ派とかソース派とか。
味噌汁も赤出しと白出しとかでモメたり、コーヒー派と紅茶派、犬派と猫派などで揉めることもしばしば、答えは出ないから好きなモノは好きで良いじゃない、って思うんだけど、本人たちは白黒付けたいらしいのだ。
「貴様とはもはや分かり合えぬッ!」
「ええ、やはり今日しっかりと確信したわ。父さんとは分かり合えそうにないっ」
「「ならば、生き残るのは一人のみッ!!」」
そして哀しき親子対決が始まった。
うん、もはやどうしようもなくしょうもない。
当事者じゃないから同意が一切出来ない。
「うにゃー、そうかぁ、メロンさんは醤油派かー」
「というか、この世界は醤油やソースやチャーハンは普通に存在するのか」
「なんか異世界人がいろいろ発明してるらしいぞ? 味噌やらコーンスープまで本当にさまざまだ」
さすが食に煩い日本人。
転生者達の努力の痕跡が伺える。
まぁ実際問題彼らが何かしたかどうかは別として、日本人になじみある調味料が存在するのは高得点だ。
毎日の食事に広がりが生まれるしね。
でも、味噌汁とかもあるなら、やっぱりあの告白も生まれてるんだろうか?
『告白、ですか? どんなのです?』
『お、バグ君告白するのかい? せっかくだからバグさん相手にやってみたら?』
えぇ!? そういわれるとなんか恥ずかしいんだけど。あー、えー、うー。
リエラさん、僕に毎日味噌汁を作ってください。
きゃっ、言っちゃった。
『え? えーっと、あの、グーレイさん、告白って、これ、どういう意味ですか?』
異文化圏で通じなかったっ!?
『あー。それはね……』
やめて、詳しく解説しないでっ。僕の恥ずかしポイントはもうゼロよっ!?