二百四十六・その親子喧嘩の理由を、彼らは知らない
「姫ェェェェ、死ぃねぇぇぇぇぇッ!!」
「ウゼェ!」
ガーランドさんに一蹴される兵士達。
正直宿にも止まれない。
これはもう魔王の元に向かってなんとかしないとどうしようもなさそうである。
「仕方ない、まずはメロンさんと王を仲直りさせたほうがよさそうだね」
正直ソレを行わないことには安全に宿を取ることもできなさそうである。
宿取ろうとする段階で既に襲撃されてるもんなぁ。
宿側も勘忍して下さいとか断ってくるし。
「姫ェェェェ、死ねェェェェッ」
「お?」
「「「「「あっ」」」」」
魔族の一人が叫びながらアーデに突撃。
即座にリエラが割り込み、剣撃を受け止めるも、その剣閃は完全に……アーデを真っ二つにせんと真上から振るわれていた。
「おぶぉ!?」
「あ、あの、バグ……君?」
うん、宣戦布告と受け取った。
笑顔でグーレイさんに告げる。
その手では既にバグ弾を生成してアーデに斬りかかって来た魔族に連射中。
バグった相手がさらにバグってモザイク化してもさらにバグって……
よし、こいつはこれでいい。
さぁ行こうかグーレイさん、カイゼルヒゲオヤージさんの元へ。ちょっとバグらせてくるよ。
「お、おいおい、嘘だろ? なんだこれ?」
「魔族が……意味不明な生物になってる……」
「モザイク化したあと分裂してさらに細分化してオブジェクト化して……あ、ヤバいこれ以上鑑定するのは危険だ」
「父上、貴方は敵にしてはならないモノを敵に回してしまったのね、可哀想に……」
「ナマハムメロン君、さすがに父君に対して軽薄過ぎないかい?」
「だってまだ喧嘩中ですし、そもそもなぜここまで敵視されるか私も知らないもの」
メロンさんも知らないのか。
じゃあやっぱり魔王カイゼルヒゲオヤージが悪者だね。うん。僕決めた。とりあえず一発殴る。バグらせるかはそれからだ。
『そこはバグらせるじゃなくて話を聞こうよバグ君』
『そ、そうですよバグさん、もうちょっと穏便に。ほら、アーデも怪我はしてませんし。ちゃんと私が守りますよ?』
でも、リエラが守れなかったらアーデが怪我してたじゃないか。
許せないよね。大人の理由で子供に攻撃加えるような奴って。多少バグっても問題無いでしょ。
『やっぱりバグ君モンスターペアレンツだよ……』
『あの、バグさん鑑定してみたんですけど、モンスターペアレンツとかじゃ表現できない状態になってますよ、これじゃあアーデやアルセに悪意向けただけでバグさんに襲われますっ』
『はぁ、なんで彼はこんなにアルセ系に入れ込んでいるんだろうね』
だって、僕が異世界に飛んで初めて僕を認識してくれたのがアルセだったし、ずっと笑顔を向けてくれていたんだ。この子が成長するまで守ろうって決めて、僕の生きる意味になったんだよ、そんなアルセの端末体であるアーデは僕にとって庇護すべき存在さ。
敵対存在がいるなら苛烈に激烈に反応するのは当然だろう? じゃなきゃ助けたい人だって守れないじゃないか。
そうさ、守るためにはただ守りたいモノの傍で守るだけじゃだめなんだ。
守るべきモノの脅威を取り除かないと永遠に守り続けなきゃいけなくなる。
でも、僕の能力なんて大した事なくて、あらゆる外敵から守るなんてできないから。
危険な脅威は根元から切り取らなきゃいけないと思うんだ。
そうすればアーデを害するものが居なくなってアーデが笑顔を失うこともなくなる。
だから、僕は先んじて敵対している元を断つのさ。
『もっともらしいこと言ってるけど……』
『ようは気に入らないからぶん殴る。ですよね。まぁ気持はわかります』
『あっれぇ、分かるんだ!?』
『私も守るより元を断つ派ですから』
さぁ、さっさと行くよグーレイさん!
「あー、その、バグ君が猛ってるからこのまま王城に突撃しよう」
「了解」
皆苦笑いなのはなんでだろうね?
先程までは魔族に対して遠慮気味というか、殺さないようにしていたのに、アーデが危機にさらされてからは相手への遠慮が消えた気がする。
やっぱり皆もアーデが好きなんでしょ?
「やー、もう遠慮がいらないならわざわざ相手を慮る必要無いからむしろ気楽っつーか」
「魔物を相手にしてると思えば多少気楽になるんだよな」
「正直いい加減にしてほしいにゃ。こっちはただ休みたいだけにゃのに、っていうことでさっさとぶっ倒すにゃ」
要するに休め無くなったことでイライラが許容量越えたのが理由らしい。
まぁいいさ、皆揃って魔王城にカチコミだ! 親子喧嘩に他人巻き込むんだから覚悟はいいよね?
と、言う訳でグーレイさん景気づけに一発宣戦布告よろしく。
「はぁ、まぁ仕方ない。それじゃあ宣戦布告と行くか」
ピチュン、と赤い光線が一筋。
次の瞬間カイゼルヒゲオヤージ領の王城が、斜めに崩れ落ちて行った。