二百三十六・その蕪の成長を、僕らは知りたくなかった
「お、終わった……」
結局生き残ったのは30本だった。
これでも大快挙だっていうんだから驚きだ。
一体どれ程の損失でこうなってしまったのか。
「すまねぇ、大見栄きっときながらこの位しか残せなかった」
「いんやぁ、いつもにくらべりゃ大豊作だ。下手すりゃ一本しか生き残らないこともあっからなぁ。そんときゃタネが出来るまで育成しなきゃならねぇから大赤字でな。今回は黒字も黒字。数年分の稼ぎにならぁな」
一本売れるだけで凄い値段らしいからねこいつ。
「それによ、アレはすげぇぞ? どれだけの値打ちになるか全くわからん」
そう、パッキーが育てたオカブヲウバウの大きさが通常の五倍を越えた。
ここまでデカいオカブヲウバウは今まで生まれ出たことがなく、どれ程の値段になるか分からないらしい。
売れる事だけは確定しているので今から楽しみで仕方無いそうだ。
「コレ一つだけでも依頼して良かったものさ。指名依頼は駄目かね?」
「さすがにここのためだけに一年後もこの町に駐留するって訳にはいかねぇしな。俺らは専属冒険者じゃねぇんだ。悪りぃな」
「いや、むしろ引き受けてくれただけありがたいよ。過ぎた欲は身を滅ぼすからね。今回のことでいくつか方法も思い付いたし、そっちを試してみるよ」
ほんと、この蕪ってなんなんだろうね?
というかここまで大きな蕪って抜けるの? あ、自分で抜けてくるのか。
しかも農家さんの言葉に従って荷馬車に自分から乗ってるし。
売られていくって分かってるのかアレ?
「ここに残ってる一本が次代のタネになるんだ」
「ほぅ、こいつは確か、あのデカイのを抜かせば一番色艶がいいやつじゃねーか?」
「ええ。その一番良いもののタネが来年のオカブヲウバウになるんです。来年はもっと色艶が良くなり美味になりますよ」
なるほど、優性株のみを残していくことで美味しい蕪が毎年実るようになるわけか。
よく考えてるなぁ、でも、あのデカいの残さなくて良かったの?
「あの大きなの、残さなくてよかったのかい?」
「ええ。アレは特殊な育成でしたから、この後も出来るものではないでしょう? そういった者を残しても退化してしまうので逆に味が落ちるんですよ」
なるほど、優れた名君の息子は駄目息子っていう典型だね。だから二世は駄目ってよくいわれるんだ。
『だからって、いう意味がわからんよバグ君。しかし、あれだけ居たオカブヲウバウも、収穫されるとなんとも言えない畑になるな』
真ん中に一本残ってるけどね。
凄くシュールな絵面いなってるのがほんと、悠々自適って感じで凄く御満悦してるぞあの蕪。
「これからタネが出来るまではあの蕪一本だけの畑か……」
「一番良い場所に埋まってるみたいだけど、あのでっかいやつが居たところは避けてるね?」
「普通はあそこに行きそうなんだけどにゃー」
「栄養全て持って行ったんだろう。だから栄養が無いんだと思うよ」
確かそういう人参がえーっと朝鮮人参だっけ? 畑に植えたらその後十年は栄養が無くなるみたいなこと言われてるの。
「まぁ、なんだ。ようやく拘束無くなった訳だし、そろそろ次の国行こうじゃねーか」
「そういえば、今回のはガーランドさんたちの用事で長期間滞在してたんだっけ?」
「うぐ。悪かったよグーレイ。正直皆手伝ってくれて助かった。俺らだけだったら多分15本位あれば御の字ってところだったぜ」
まぁこの面子揃ってGババァまで居たのに生還した蕪30本だからなぁ。
難易度が高過ぎるよこの蕪の育成。
多分日本だったら絶滅天然記念物扱いになってたんじゃなかろうか?
あ、でも一本から生まれる蕪の数は結構凄いんだっけ?
それが争い合って結局数本だけ残るらしいけど。
その数本も野性動物に食べられるらしいから、ほんと生息数は希少なことこの上ない。
野性のオカブヲウバウなんて見掛けたら奇跡とすら言われるほどらしいからね。
まぁ、これからの僕らの旅には全く必要のない存在だからもう会う事もないだろう。
「おー」
「ん? どうしたアーデ……うわ、なんだその黄色いオカブヲウバウ。それ何処に……もしかして野性!?」
土が良かったので野性のオカブヲウバウがやって来て勝手に埋まった……今?
え、アーデそれ持ってくの? 食べれるよ? 食べない? 育てるの気に入った?
「そ、それは、ゴールデンオカブ!? な、なんて希少なモノ野生生物を! ぜ、ぜひ売ってください!!」
見付けた農家の人が縋ってくるけどアーデは『やっ』とそっぽ向く。
必死に土下座まで繰り出すけど彼女が首を縦に振ることは無かった。
うーむ、まぁ、本人が育てるっていうならいいか。
いいよねグーレイさん?
「まぁ、野性のオカブヲウバウがアーデと契約しちゃったみたいだし、いいか、皆食べないようにね?」
僕らは新しい仲間を手に入れた。うん、仲間……でいいんだろうか?