二百二十五・その国の世紀末さを、彼らは知りたくなかった
はい、現場のバグ君です。
ただ今僕たちはとある人族領にやってきております。
門前では馬車や冒険者の行列が生まれており、兵士さんたちが一人一人ボディチェックを行い街の中へと誘導しております。
ええ。その通り、先程から三時間程、この場から動けてません。
いえ、まぁ確かに少しずつ前進はしているのですが、ゴールデンウィークの高速道路を思わせる込み具合。これぞ人の渋滞。二度と味わいたくない光景です。
あとたまに魔物が襲ってくるからその時に順番が若干入れ替わったりしております。
あの野郎共マジ許ですよ。とりあえず魔物の骨投げつけてやったぜぃ。
僕らが戦闘に向かった隙に僕らの二つ前に割り込んだガラの悪い連中。ホントちょっとGババァ嗾けてしまおうかと思ったくらいである。
だって割り込んだあと何でもないようにバカ笑いしながら世間話してんだもん。
ねぇ、アーデもそう思うよね?
「くぴー」
ね、寝ておる!?
鼻提灯膨らませて幸せそうな顔で寝ておる!?
くぅ、なんてこった、僕の心のシャッターが連続でカシャカシャ鳴ってしまっている。
おのれアーデ。なんて可愛いんだっ。
『バグさん……なんか楽しそうですね』
『ついさっきまであの割り込み組に噛みつきそうな勢いだったのにね』
いやグーレイさん、我慢できんの?
斬星君とか普通にイラッとした顔してるじゃん。
「良いんですか、アレ」
「あ? あー、まぁ別にいいだろ。ああ言うのは揉めると面倒だぞ?」
斬星君の言葉にガーランドさんが心底面倒臭そうに告げる。
それでも納得できない斬星君、なんかこのままだと単身注意しに行きそうだなぁ。
「やめておくにゃ斬星。あれ、多分裏社会の奴等にゃ。下手に揉めると暗殺者が大挙してくるにゃ。あと組織だって殺しに来られるとさすがにニャーたちも危険だにゃ」
裏社会って、マフィアとかヤーさんの亜種ですか?
「まぁ、アレくらいなら下っ端だろうけど、稀に大物混じってたら大問題になるから放置するのが正解にゃ。でもまぁ、絡まれた時は逆に全力でぶっ倒せばいいにゃ。その時までは我慢我慢」
「むぅ……」
「そういうこった。自分や仲間貶されたりした時は遠慮はいらん、叩っ切ってやれ」
一応、ガーランドさんたちもイラついてはいるようだ。
ただ、揉める方が面倒だから放置しているだけらしい。
多分、ガーランドさんたちなら対処は出来るんだろうけど相対的に見合ってないんだろうなぁ。赤字財政になるから下手に事を構えたくないんだろう。
それから一時間して、ようやく僕らの番になった。
あの迷惑客は既に街の中だ。普通に兵士のボディチェック素通りしちゃったし、ここの兵士さん大丈夫か? もしかして繋がってる?
「よし、容姿が異常だがそれ以外は問題無いな、通って良し」
最後まで残されたグーレイさんも無事通過でき、僕らは新たな国へと足を踏み入れたのだった。
うん、だめだここ。
一目見ただけで踵を返したくなったよ。
だって、あの迷惑客ッぽいのがそこいら中でカツアゲしてんだもん。
「世紀末かな?」
「ヒャッハーさんが一杯だ」
グーレイさん、ヒャッハーたちをこいつらと一緒にしたら可哀想だよ。ヒャッハーに謝れ。
「ヒャハハ、おいお前ら、この町は初めてかぁ? 俺がこの町のルールを教えてやんぜぇ?」
なんかガラの悪いお兄さんがやってきた。
その服どこで売ってたの? 棘が一杯突き出てますが?
「いいかぁ、ここでは俺ら昏不射蟻迂須のシマだぜぇ。有り金ぜぇんぶよこへぶぁ!?」
余程イラッとしたんだろう。ガーランドさんがノ―モーションで拳を突き出し、男の顔面を粉砕した。
鼻血を噴き出しながら倒れるお兄さん。
その顔面を思い切りふんづけるエストネアさん。
「ごめんなさいお兄さん、今、何か言いましたぁ?」
わざわざ踏んづけたまま顔を寄せて尋ねる。
あかん、この人怒らせたらヤバい人だ。いや、スケルトン討伐時でなんとなくエンリカっぽい雰囲気醸し出してたけども。
「ふ、ふごぶへぁっ」
「えー、なァに、聞こえなぁ~い」
白々しいほどの大根役者な棒読みで告げながら髪を掻き上げるエストネアさん。
視線がヤバい、汚物を見る眼になってる。
「お兄さん、声が小さいわ。もっと大きな声でしゃべってくださいません?」
「おぉっとぉ。こんなところに社会のゴミがっ」
とか言いながらジャスティンが蹴りつける。
ひ、ひでぇ、なんて容赦ないつま先蹴りだ!?
あ、エストネアさんが離れた?
「ごふぇ、て、テメェら、こ、こんなことしてタダで済むと……」
「Gババァ、新しい雄よ」
「へへ、ええんか? ええのんかぁ?」
「はぁ? あ、ま、待て、やめ、止めろっ、止めてくれぇぇぇぇぇぇ――――っ!!」
そしてしばらく、アーデが小枝で突いて正気度を計測。
びくびくっと痙攣が返って来てアーデは僕に困ったような顔を向ける。
うん、まぁ、なんだ。彼は……旅立ったんだよ、アーデ。