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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
最終話 その彼の名を誰も知らない
1672/1818

二百二十三・その善意の出し物を、彼らは知りたくなかった

SIDE:灼上信夫


 意思疎通可能な存在が居たということで、翌日、ピピロさんたちに案内されながら、早速裏世界の住民にコンタクトを取ることにしたのである。

 尾道さんの話も気にはなるけど、こちらを優先するのが正解だろう。


「失礼します、昨日言ってましたメンバーを連れて来ました」


「おお、盾の人よく着た。歓迎する」


 ぶっふぉ!?

 その容姿を見て思わず噴き出しかけた。

 いや、別に特別な容姿って訳じゃないんだけど、愛らしいと言えば愛らしいかもしれない姿だよ、うん。


 三頭身で丸顔、丸いホッペに挟まれた肥大化したおっきな丸い鼻。円らな瞳のオジサンである。

 どっかのデフォルメキャラとか御当地キャラに居そうな存在である。パンの英雄様とはちょっと違う、むしろジャムの人の方が近いかも、毛は頭頂部に三本しかないけど。


「オイラはまるまる村のマルーイだ、よろしく、表の人」


 まるまる村のまるーいさん……体型もまるーい。


「この村にはマルーイさんのほかに100人ほど住んでるらしいです。結構気さくな人たちですよ」


「へぇ、なんでまたこんな場所に村を?」


「よくぞ、聞いたまるい人」


 まるーい人に丸い人って言われた!? え、僕そこまで丸いかな? 丸くないよね!? ちょっと、皆なんで視線逸らしたし!?


「ここは各守護者の最端にある。つまり下手に襲うと他の守護者と領地接収戦になる。だから守護者近寄らない。ここ、安全」


「成る程、四方向から守護者がせめぎ合ってる特異点ってところか。あの、マルーイさん、この世界がいつできたかとか、神話や昔話などはありますか?」


「ん? まるい人、その質問はよくわからない。だが、おそらくの話、する」


 と、僕らを村の中に案内しながら楽しげに告げるマルーイさん。


「オイラたちは気が付いたらこの世界居た。ここから何処に行けばいいか分からない。近く守護者いる、恐い。だから皆寄り集まって村作った」


 気付いたら、ここにいた?


「いつから居たんです?」


「分からない、10日から数えるの止めた、沢山、沢山の時間が過ぎた。皆老いる事も死ぬこともなかった。魔物に襲われれば死ぬけど」


 ってことは、この世界では老衰とかは無いってことでいいのか。

 時間が閉じてる? 時間軸が存在しないとか? そんなバカな?


「家、着いた。人多い、狭いかも。それでもいい?」


「はい、お邪魔でなければ」


 ピピロさんの言葉にうなずき、マルーイさんが家の中へと誘って来る。

 木で出来た簡単なログハウスだ。

 背丈が背丈なのでかなり小さな家になっているが僕らも身を屈めれば十分室内を移動出来そうだ。横幅がたまに凄く狭い時があるけど、これ、詰まらないよね? え? 僕だけ?


「んじゃー、代表者が座った方がいいですよね、灼上さん、と朝臣さん、どうぞ」


「え、私!?」


 僕はともかく何故美樹香たん?


「これ、飲める、これ、食べれる」


 マルーイさんが持って来たいびつな湯呑っぽいのに虹色の液体が入っている。

 見るからに飲んではいけないような物なんだけど、これ飲んだら裏世界から出られなくなるとか、ないよね?

 一応鑑定してみたけど飲める液体ってだけで名前もないし特性もない。体に変調をきたすような説明文も見当たらない。


 食べれると言われたものはクッキーだろうか? これはどろっどろの血液色でだいぶ食べるのに勇気がいる。

 当然ながら食べてどうにかなるような特性はないようだ。

 皆して食べないのもマルーイさんに悪い気がするし、リーダーに選ばれた以上、やるしかないんだろうなぁ。

 ええい、ままよ!


 サクッ、ザクザクゴクッ、ぐびび、ゴクン。


 もはや味わうとかの次元ではない。覚悟を決めて一気に行った。皆信じられない物を見る眼で僕を見ていた。


「ははは、結構なお手前で」


「お、おぅ、まるい人、よく飲めたな。オイラ達もこの色気持ち悪いし飲み食いするまで時間掛かった」


 マジかよぉっ!?

 畜生、今無性に四つん這いで床を殴りたい気分だよッ!!


「あんた、さすがに躊躇いなさすぎでしょ……」


「覚悟を決めんといかんでしょうよ、折角善意で出されたんだし、誰も食べないなんてマルーイさんにも失礼だから……うぅ、全裸でブリッジしながら力の限り叫びたい」


 恥ずかしさ、悶絶級。


「で、味、どうだった?」


「……普通に美味しいクッキー、あとシトラス系の天然水」


「嘘でしょ……」


 虹色の液体を見て美樹香たんが怯えた顔をする。

 うん、分かるよ。僕も分かる。リーダーじゃなければ絶対飲もうとかしなかった。

 でも多分デブ飲めよ。とか言われて一番最初に飲まされるのは僕なのさ。

 ふふ、どっちに転んでも僕なら、もう率先して貧乏クジ引いちまう方がいいのさ。畜生。


「それで、何、聞きたい? 毎日暇、幾らでも話、できる」


「そ、そうですね。では折角なので僕からいいですか? 他に村とか、ありますか?」


「ん。多分? オイラたちは村の外まず出ない。村に川流れてる、傍に草、ある。草、喰う、水、飲む、生きられる。たまに皆で魔物狩る。魔物喰う。意外とイケる」


 つまり、他にも村があったとしてもこの村から出ることのない彼らでは知りえない情報、ってことか。ふむ。折角だしいろいろ聞いてみちゃおうか。

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