二百十六・その世界の戦力を、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
「クソ、誰だ雑魚ばっかとか言った馬鹿は!?」
数時間後、僕らは魔物の群れに囲まれていた。
いや、これを魔物と言っていいのかどうか。
正直正気度消失しそうなゾンビオークの群れとか出会いたくもなかったんですけど!?
しかもこれゾンビじゃ無くて普通にフレッシュミートオークという新鮮なお肉豚という謎の名前を持つオークである。
なのに片方の目だけ肥大してたり、舌出っぱなしだったり、歩き方がゾンビだったり、正直気持ち悪い。
それが数十単位で襲ってきた日には、もう阿鼻叫喚の地獄絵図……
「あはははは、肉肉肉ぅ~~~~っ」
「あああ、食べるなよあんなキモいの!? 誰か檸檬止めてくれぇっ」
「ふん、所詮拳一発、雑魚である事に変わりはあるまい」
「にょっぴょーう!」
「くまっぴょーう」
「はははははは、武器を持った我に敵うもの無し! この武器いいぞ! さすが高い金を払っただけはある!!」
モザイク人煩い。戦闘の際もうちょっと静かに闘ってほしいでござる。
にしても、凄いな皆。
僕が何か指示出しする以前の問題だ。
「カバーっ!」
「貫波」
メインアタッカーが多過ぎてこの状況なのにピンチだとすら思えない不思議。
「ん……暇」
「皆さん凄いわねぇ」
「チッ、俺が闘う隙間すらねぇ……」
僕の傍にはゴールドたんとシルバーたん、そして弓装備の矢田が集まっていた。
お前弓の英雄なのになんで弓使わないの? え? 弓得意じゃない? ならなんで弓の英雄になってんの!?
「チャカのが得意なんだがな。まぁいい。とりあえず石投げるくらいなら的中補正かかるから問題ねーだろ。そらっ!!」
「あいたぁ!? どこ狙ってんのさポンコツ!」
丁度矢田が狙った魔物に噛みついた檸檬たんに命中。
がるるとお怒りの檸檬たんだけど、直ぐに食欲に負けたようでオークさんを平らげる。
「くそ、弓の英雄全然仕事しねぇじゃねーか」
投擲は弓と違う気がするんだけど……
「ちょっと、何遊んでんのよ!?」
「あはは、でも僕らも殆ど闘ってないですし、なんなら闘う必要もないですよね?」
「それは、月締君は彼女が頑張ってるから」
「我が愛を危機にはさせん。皆我が拳で潰すのみぃ、ウリィィィィ!!」
「アレはユーデリア、アレはユーデリア。大丈夫、ユーデリアは可愛いユーデリアは可愛いだからアレはカワイイ」
月締くん、おちついて。なんか味方の姿でSAN値チェック入っちゃってるぞ!?
「カバー! うぅ、数が多い……」
「シルバーさん、その、風魔法で私から相手に拡散するように風を吹かせてくださいませんか、皆さんは風上になるように」
「お安い御用よ」
なんだ? 尾道さん何かいい方法が?
「臭激!」
刹那、はぁーっと息を吐き付ける尾道さん。
いや、臭激ってそんな口臭だけでどうにかな……うそん!?
尾道さんの口臭が風に乗って魔物達に広がる。
すると、魔物達が突然痙攣を始めて眼が白目へと変わっていく。
泡を吹きだしその場に倒れ、陸に上がった魚のようにびくびくと悶え苦しむ。
「え、なにこれ?」
「私のブレス系スキルです。結構致死率高いんですよ」
え、こわ、普通に恐。口臭で敵死ぬの? 激臭兵器ってそこまで危険なのか……
「か、風で散らすわ。残り香に気を付けて」
若干顔を青くしたシルバーたんが告げる。
気のせいかな、皆尾道さんから一歩引いた気がする。
多分気のせいだろう。でも一応僕も一歩引いとこう。
「皆さんの役に立てるスキルがあって良かったですよ」
え? ええ。ああ、はい。そうっすね。
「なにはともあれ威力は実証済みね。死んでない奴から刈り取るわよ」
未だに痙攣を続ける魔物達にトドメを刺して行く。
この魔物、回収はしてるけど売れるんだろうか?
グロテスク過ぎて買い取り不可とか言われないかな?
むしろ未知の魔物過ぎて買い取り不可はありそう。
「さすがに疲れた……」
「ふむ? 良い運動になったと思うが? そろそろ本格戦闘をしたくなってきたな」
「ユーデリアさんの本格戦闘ってどのくらいの規模になるのかしら……悪いけど今日は一度帰りましょ。さすがに初日にこれ以上闘うのは止めた方がいいわ。どんな失態があるかわからないもの」
「そうだね、一度帰って皆の疲れ度合いと今後の捜査方針を話し合った方がいいと思う。皆、連戦だったから知らないうちに疲労が蓄積してるかもしれないからね。急ぐ必要はないんだ。大きな失態に繋がる前に休んでおこう」
「ふむ。休息も良い肉体を作る一つの糧、か。我が愛、戻るぞ」
「ちょ、待ってユーデリア、別に小脇に抱えなくてもちゃんと戻れ……ぎゃーっ」
美少女の小脇に抱えられた少年がお持ち帰りされたのだった。




