二百十五・その意味不明な世界を、彼らは知りたくなかった
SIDE:灼上信夫
ああ、来てしまった。
色違いの空を見て、僕はしばし呆然とする。
グーレイさんたちと別行動。
出会ってた時間は短かったけど、彼らと一緒に居た時のなんと心休まったことか。
しかも僕がリーダーとして率いる面子はわざわざ僕らが追い出して行ったもとメンバーたちが殆どを占めている。
当然チーム内は凄くギスギスしている。
唯一いい事があったといえば、ピピロたんがこっちに来てくれたことだろうか?
もともとグーレイさんチームに残るはずだったのに、矢田が認めたってことでこっちでもいいですと付いてくる事が急遽決まったのだ。
盾職は貴重なので大手を振って受け入れたけど、ピピロたん、少し見ない間に優秀になり過ぎじゃないかな?
迫ってきたにっちゃうっぽい魔物も棺の盾で一撃反射死だし。
この盾職優秀過ぎるっ。
連携不足で不安しかないこのチームでも彼女がいてくれるだけで普通に機能するんだから不思議だ。
しかも周囲をよく見て誰にどれを攻撃したほうがいいですよ、みたいな指示まで出してくれる。
リーダー、替わりません?
にしても……この面子、本当に大丈夫なのかな?
いや、戦力面は揃ってるんだ。
ピピロたんがタンク役だし斥候関連は美樹香たん、ゴールドたん、シルバーたんが出来るし、近接には小玉くんとリックマンさん、月締くん、ユーデリアたんがいる。
遠距離には尾道さんがいるし、僕も戦力としてよく分かってないけどムードメーカーな檸檬たんやモザイク棒人間の三人組も一緒だ。
戦力的には問題ないんだ。
ある程度の小競り合いは杙家さんと小玉くんが間を取り持ってくれるし、最悪ユーデリアさんが出張れば腕力自慢の矢田も押し黙る。
ユーデリアさん、一番漢らしすぎるんだよね。月締君はこういう引っ張っていくタイプの娘が好きなのかな?
でも、彼女の姿を見て彼女はユーデリア彼女はユーデリアとかたまに自分に言い聞かせるような言い方してるのが気になるなぁ。
「シシリリアさん、見付かるかな?」
「ピピロよぉ、あんな女見付けたって意味ねーだろ。どうせ俺ら嫌ってさらに逃げるだけだぞ?」
「それは、そうですけど……」
「あいつ、随分と排他的だったんだな。来る者拒まない檸檬とは段違いだ」
「えへへ。陸斗に褒められた。私何でもこいだよ。全部食べるよ!」
「いや、そういう意味じゃ無くて……」
檸檬たんは食べることしか頭にないようだ。
おかしいなぁ、こんな人だったっけ?
ちょっと別れた間に人格変わってない? 気のせい?
どっかバグってたりしない?
「それで、この広い裏世界とやら、どこから手を付けるんだ?」
「とりあえずマップを作る所から始めようと思うんだ。一先ずはここを起点に裏世界を探索して行く感じかな」
「地味な仕事になりそうだな」
リックマンさんが地味って、いやまぁ、皆こういう作業は嫌いなんだろうけども。
僕は結構好きだよ? 同じような果ての無い作業とか何千時間時間でも消費できますわ。
「とりあえず地図の作成に関してはそういうの得意そうなゴールドたんとシルバーたんにお願いしました」
「自動マッピングの魔法の地図があるから歩くだけですわ」
酷いなオイ!?
僕は必死に書きこんで行くんだとばかり思ってたから凄くねぎらおうって思ってたのにっ。僕の純情を返せっ、絶対にねぎらったりしないんだからねっ! ぷんすこ。
「信? 何一人で百面相してんの?」
「なんでもないよ美樹香たん。索敵の方はどう?」
「相変わらずよくわからないわね。相手の能力とかいうよりはフィールド効果って感じかしら? ある程度何かが近づいてるくらいは分かるから慣れれば問題は無いと思うわ」
「やっぱりかぁ」
この裏世界、どうにも表世界での索敵とかのスキルが軒並み役立たずになっている。
理由としては多分世界の規格が合わないってところだろう。
微妙に違うせいで感覚が掴めないってくらいの違いらしいけど。
なので、今日はこの草原と近くの荒れ地。つまり目に見える範囲のみの探索に留めるつもりだ。
初日にあんまり急いで遠くに行く必要はないし、ゆっくり少しずつ探索範囲を広げる位で丁度良いと思う。
時間制限もあるかどうかわからないし、安全マージンとる方がいいだろう。
もしも時間的な何かがあるならグーレイさんから連絡来るだろうし。
はぁ、目がちらつく、色がおかしいせいで正気度がぐんっと減った気がするんだよなぁ。
「目に見える範囲は雑魚ばっかだな」
「雑魚とはいえ気を抜けば殺されるくらいだけどな。気を抜くな矢田」
「るせぇよ、テメェの方が雑魚いだろうがリックマン」
「うぐっ」
リックマンさんのメッキは既に剥がれている。
彼の実力はこの中では下から探した方が早いくらいだ。
と言っても僕も個人的な能力は低いんだけどね。
ピピロたんや尾道さんと闘えとか言われたら即土下座よ?