百九十七・その噴出する闇を、僕らは知りたくなかった
そういえば、光り輝くGババァにはむしろ近寄ろうとすらしなかったはず。
現に今もGババァからは遠ざかろうとしている姿が良く見られる。
つまり、光からは遠ざかる。
なら近づいて行く存在は……闇属性?
「シシリリアさんが、闇属性?」
「え?」
「ちょ、グーレイ氏、さすがにシシリリアたんは闇堕ちしてないですよ!?」
「ああいや、実はGババァがいると彼らが寄って来ないんだが、それがおそらく光のせいじゃないかと言われててね。じゃあ逆にシシリリアさんが狙われる理由となると、彼らが近寄りたくなる存在ってことになるから、それなら闇とかそういう可能性かな、と」
「私が……闇?」
「心当たりはないかな?」
「……」
ああもう、グーレイさんが変な事言うから塞ぎこんじゃったじゃないか。
にしても、多過ぎない?
「ずいぶん遠くからも引き寄せられてるみたいだね。つまり、それほどシシリリアさんの引き寄せが強いってことになるのかね? Gババァを隣に置いたら止まらないかな?」
「今、Gババァさん引っ込んだら戦線崩壊しそうなんですけどっ!?」
「というか、もう向こうに戻った方がいいんじゃないの!?」
「今戻ると一緒に付いてきそうなんだよ。せめて魔物達が一段落してから、かな」
「うわー、面倒臭そう」
「まぁ、今の状況なら大丈夫だよ。余程事態が予測不能にならない限りは……」
「……そっか。そうなんだ……」
「ん? シシリリアさん?」
「あいつらが近づいてくる理由、分かった。 分かっちゃったよ……」
あれ? なんか様子が……
なんかワンバーちゃん失ったハラペコエルフみたいな目をしている……
これ、ヤバくないかなグーレイさ……
「貴女は自ら気付いてない心の内をさらけ出すでしょう、その時、近しき者と決別するでしょう」
「ちょ、シシリリアたん、それは……っ」
いち早く台詞に反応したのは灼上さん。
焦った声音の彼へ、目からハイライト消えたような顔で笑みを作ったシシリリアさんが告げる。
「これ、いつかの占い師が言ってたの。私はそんなことあるかって思ってた。でも、気付いちゃった。闇、そっか、闇だよ。周囲への悪感情って、嫌悪感って闇なんだよ。ああ、そう。もう無理、私無理っ! 矢田みたいな粗野な奴と一緒に居たくない、灼上みたいなデブと一緒に居たくない。朝臣は付き合い辛い、リックマンは頼りにならない、小玉は朴念仁、杙家は見てて胸焼けする。Gババァは気持ち悪い、尾道さんは気色悪い、斬星はちょこまかうざい、月締は面倒臭い、ピピロは一人称が引く、蛙は気持ち悪い、グーレイは気持ち悪い、魔物は気持ち悪い、ああ、ああ、私、ずっと、ずっと我慢してた。全部気持ち悪いっ、私以外気持ち悪い、居なくなればいいのに、全部、全部居なくなればッ」
め、めちゃくちゃヤバい人だったんですが!? プリカも驚きの壊れ具合だよ!?
「ドロドロしてる。そりゃあ魔物も私に近づいてくるわよね。この感情は闇だ。分かるよ、理解したよ。でも無理、理解しちゃったからもう無理。抑えるなんてできないっ」
「シシリリアさんっ」
「寄るな銀色ッ! 気持ち悪いのよッ!!」
手を伸ばしたグーレイさんだったけど、シシリリアさんの怒声に思わず体が止まる。
今の一言、意外と鋭く突き刺さったらしい。グーレイさんが目に見えてへこんでいる。
「シシリリアたんそっちはっ」
そして走りだすシシリリア。彼女の固有スキルが加速系だったようで僕らが反応するよりも速く消え去ってしまった。
いや、ここ裏世界なんですけど!?
こんなところで別れるとか死にに行くようなモノなのでは!?
「マズいな……」
え? どったのグーレイさん?
「考えなかったわけじゃないんだが、私達の中に復活の魔王がいる場合、シシリリアさんの行動はどう見ても魔王化フラグだよ」
あ、確かに。
って、ソレヤバいじゃん!? 復活の魔王になっちゃうんじゃ!?
「それは無いと思いたいけど……参ったね。まさかあそこまで嫌悪されていたとは思わなかった」
「彼女の性格がだいぶねじ曲がってたんだろ、こりゃ時間の問題だったんじゃねーか?」
「それはそうだけど、こっちの世界で行方をくらませたのは失態だよ。向こうの世界なら場所を追えたんだけどね」
あ、そっか、向こうの世界なら駄女神たちが見てるからシシリリアさんが何処に逃げても潜伏先がわかるのか。
でもこっちだと何処に行ったかすら不明。下手したら死んでるかもだし、生き残ってたとしても助けにも行けない訳だ。
「チッ、結局俺の事扱き下ろしときながら自分が一番やらかしてんじゃねーか」
確かにシシリリアさんはやらかしたけど、君は既にやらかしまくってるからね。
ちょっと一度バグってみちゃう? いつでもやるよ?