百九十六・その少女が狙われる理由を、僕らは知らない
さてさて、本日はなんと、皆揃って裏世界にピクニックです。
『いや、ピクニックなんて生易しいことじゃないからね』
『あはは。でもグーレイさんの言う通りですよ、バグさん。裏世界でゆったりしてると魔物に囲まれちゃいますし』
そうなんだけどさー、ほら、アーデ見てよ、遊ぶ気満々だよ?
『そりゃアーデはいつも通りだろうけども……まぁいいや、それじゃ準備はいいかな?』
「はぁ、気は進まないけど皆、裏世界体験の時間だよ」
「灼上さん、裏世界……ってそんなに危険なんですか?」
「いやー、僕も入ったことないからわからないんだよシシリリアたん。グーレイさん、この装備で大丈夫そう?」
「この周辺の裏世界は確認してないからさすがに安心だとはいえないかな。とりあえず入ってみないと状況もわからないし」
折角だし最初に向かってみようか?
『やめてください、バグさんだと万一がありますから行くなら私が先行します』
そりゃまぁ、入った瞬間即死攻撃来たら避けきれないだろうけどさぁ。
でもリエラも十分気を付けてよ?
温泉街の周辺を探索すると、直ぐにそれは見付かった。
まずはリエラが先行して向こうに向かう。
皆が近づく前に戻ってきたので思わず安堵の息を吐いた。
どうだった?
『問題無しです。すぐ近くに魔物はいませんでした。安全も確保できたので皆さんを連れて入っても大丈夫そうです』
『それは重畳』
「それじゃあ入ろうか」
僕らはぞろぞろとフェアリーサークルへと乗っては消えて行く。
「えぇ、消えるの!?」
「ほら、シシリリアさん行くよ」
杙家さんに引っ張られてシシリリアさんも渋々フェアリーサークルへ。
よし、これで全員入ったね。
んじゃ僕もっと。
フェアリーサークルを抜けて入ると、そこは焦げ茶色の草原と緑色の荒れ地だった。
目に見える範囲は殆どが草原で、左側には荒れ地が広がっている。丁度中間地点に出たようだ。
遠くには真っ白な森が見えるのと、逆方向には黒い海が見える。
「え? なにここ、気持ち悪っ」
「うわぁ、配色がだいぶ間違ってるなぁ、確かにこれは裏世界と呼ばれてもおかしくないかも」
「常識が一切通用しないな……こんな草初めて見たぞ」
灼上君チームが変わり過ぎた世界に戦慄している。
あれ? 矢田だけ普通に歩きだした?
「チッ。なんだよこのわけわかんねぇ場所は? 空が黄色とかふざけてやがる」
しばし見上げていた彼の近くに、魔物出現。
はっと気付いた彼に向かい、にっちゃうの亜種が体当たり。
「しまっごぶほっ」
完全な不意打ちを受けた矢田が吹っ飛ぶ。
僕らの目の前を通り過ぎ、荒れ地を二転三転転がって行く。
「えぇ!? 飛び過ぎじゃない!?」
「全員気ぃつけろ! 普通の魔物より格段に強ぇぞ!!」
「アレはまた初めて見るにっちゃうだ。紫色?」
確認したよグーレイさん。あれはにっちゃう・ふぃふす。えーっと、五番目のにっちゃうシリーズかな?
「次はヘキサにでもなるのかね。全員気を付けてくれ、あれは にっちゃう・ふぃふすらしい。初めて見るにっちゃうだ。かなり強いぞ!」
「貫波」
あああああっ!? 一撃かよ!? アンタがやったら相手の実力わかんないだろーっ。
って、こらアーデ、倒れた矢田に焦げ茶色の葉っぱ引きちぎって桜吹雪みたいに投げないの!
ソレ散らしても矢田は回復しないよ!?
僕がアーデを引きとめている間にエストネアさんの回復魔法が矢田を回復する。
ソレを合図にしたように草原から次々現れるにっちゃう・ふぃふす。紫色のにっちゃうは相変わらず達磨のような体躯と円ら瞳にウサミミウサ尻尾なんだけど、どうやら毒魔法を使って来るようだ。
触れても毒になるらしく、矢田が状態異常になってたのでエストネアさんが再び魔法を唱えて治療する。
「近づかせるな!」
「遠距離の見せ場よね、頑張って!!」
「ちょ、なに休んでんだよ檸檬、いや、お前参加したら毒受けそうだけども」
「だから応援してんのよ陸斗」
「この数なら大丈夫です。エストネアさんの手間になるよりは応援して貰った方がいいっすよ」
「にゃはー、にゃーも応援するにゃー。がんばれー」
「お前はナイフくらい投げろよ!?」
「って、すごっ!? え、すごっ、斬星くんなんでそんなことできんの!?」
「え? ちが、朝臣さん。これは違……」
あはは、リエラ頑張ってるなぁ。超健常の御蔭で毒受けないから近接戦闘仕掛けられて、斬星くんが動くのに合わせて目の前に居るにっちゃう・ふぃふすを細切れにしている。
「数が多い!? どうなってるんだ!?」
「対処は可能だけど、終わりが見えないぞ!? 何匹いんだよ!?」
おかしいな。このにっちゃうども、後から後からやってくるぞ? グーレイさん、どうなってるの!?
「わからん、けど、こいつ等シシリリア君を狙ってる!?」
「え、私!?」
言われてみれば、皆シシリリアさん目指して向かって来るね。なんで?