百九十四・そのこれからの方針を、彼ら以外は知らない
SIDE:灼上信夫
「さて、それじゃ改めて。これからの方針について話そうか」
「あ、そういえばそんな話でしたね」
「あー、席、外すか?」
「かまわんよ、折角だから君の直感で方針に口出ししてくれ」
「でもグーレイさん。方針って言っても僕等は基本グネイアス帝国の命令で魔王退治してるんだよ、グーレイさん達はどうするつもりなんです?」
「やらないよ面倒臭い。そもそも私達がこの世界に呼ばれた理由はグネイアス帝国が滅びる、復活の魔王を倒す事だ。今いる魔王を倒す必要は全く無いんだ。むしろ今の君たちはグネイアス帝国に良いように使われてるといっていいよね? そうだろう、シルバー君」
「……私に構わず御話を続けてくださいまし」
うえ!? いたのかシルバーたん!?
「お、おいおいグーレイ、グネイアスのスパイの前でソレ言っていいのか?」
「別にグネイアス帝国がやることを阻止するために動くつもりもないんだ。僕らはグネイアスが滅びる原因になりそうな復活の魔王を探してる、だからグネイアス帝国の指示を受ける必要はないんだよ。そもそもがね」
「た、確かに目的は復活の魔王からグネイアスが滅びるのを防ぐことだけど……今いる魔王から出てくる可能性は?」
「可能性は低いだろうね。そもそも復活の、魔王だ。今いる魔王たちは既に活躍中。復活する訳が無い。むしろ、グネイアスが魔王を滅ぼして行けば行くほど、落ちのびた魔王が復活する、なんてことはあるかもしれないね」
確かにそういわれると、むしろグネイアス帝国は自分から滅びに向っているようにすら思えてくるなぁ。
「どうなのシルバーたん?」
「私からはなんとも。確かにグーレイさんの言葉は一理あるでしょう。でも復活するのが今侵略中の魔王たちである可能性も低いのでしょう?」
「まぁ、ね。私としては今活動中の魔王復活教団の動きが気になるよ。彼らは各地の封印を解いて回っている。グネイアスを滅ぼす魔王が復活する遠因になる可能性は十分高い。また、各地のフェアリーサークルから向かえる裏世界の存在も気になるね。この世界の神すら気付いてなかった世界だ。魔王らしきものが封印されていても全くおかしくもない」
裏世界、ってなんぞ?
「おい、グーレイ、裏世界ってな、なんだ? フェアリーサークル?」
「君たちは見たことないかい? 円形に花が生えてる場所や石が置かれた場所。あるいは茸が生えている場所だ」
「なんだそりゃ?」
「気付かなかったなぁ、フェアリーサークルか、確か現代世界でも妖精郷に通じているとか、フェアリーチェンジが起こる場所だとか、いろいろと噂があるよね?」
「ああ、この世界ではどうやら別の世界に移動するワープゲートになっているようなんだ」
「おいおい、訳の分からん世界なのにまだ別の世界ってのがあんのかよ?」
「ついでに、そちらの世界はこちらの世界にいる魔物より、数段強い魔物が生息している。万が一フェアリーサークルから向こうの魔物が噴出すれば……それこそこの世界が滅びるかもしれない」
ごくり、喉が鳴ったのは僕だったのか、それとも矢田の喉だったのか。
二人とも、グーレイさんの意味するところに気付いて戦慄していた。
この世界でもかなり強い魔物相手には逃げるしかないのだ。あの軍服魔王みたいなのの数段強いのがわんさかでるとか、無理ゲーすぎる。
「軍事利用は可能かしら?」
ちょ、シルバーたぁん!?
「無理だね」
で、ですよねぇ。あー、安心した。
「理由は?」
「まず最初に言った通り魔物が強い。私達も何度か入っただけで詳細を知ってる訳じゃない。どれ程の脅威があるか全く謎だ。それに……」
と、一度言葉を切り、グーレイさんが声音を落とす。
「何処に出るか、分からない」
「ランダムポータルですかな?」
「いや、空間の繋がりが別みたいでね、グネイアスの隣の国からグネイアス方面に歩いただけなのに出て来たのはこの国のずっと南側だった」
グネイアスって確かこの国からは東側だよね?
しかも何日も何日も歩いて。
一国分位の歩きで数国以上離れた場所に出てしまった訳か。
「他にもあるけど、悪戯に兵に損失を出すくらいなら初めから戦略に組み込まない方がいいだろう。下手に向こうから魔物を呼び込むとそれこそ手がつけられないかもしれないよ」
「了解、その点しっかりと陛下に伝えておきます」
「それがいいだろうね。特にそちら側に封印された魔王がいる可能性が高いから下手に刺激して起こすかもしれない行為は止めた方がいいよ」
うぅ、そんな世界行きたくないでござる。
「それから、僕等英雄に復活の魔王討伐と銘打って各魔王を暗殺させるのももう止めてくれないかね? さすがにこれ以上はこちらも看過できないよ」
「肝に命じておきますわ」
そう告げてシルバーたんは音もなく去っていった。
うぅ、情報収集係恐い。一体いつから聞いてたんだろう?




