百九十二・そのどす黒い何かを、彼女は知らない
シシリリアさんとピピロさんが道を歩く。
屋敷から出て来た二人はピピロさん案内のもと、この地域周辺を見回るようだ。
せっかくだから僕もついて行くことにした。
最初に訪れたのはお店だ。
道具屋、防具屋、武具屋、鍛冶屋、靴屋、褌屋が並んでいる商店街みたいな場所を紹介する。
ここは商店が連なって出店しているのでかなりの賑わいをみせている。
「あっちの方に行くと食料品とか御土産屋さんもあるんですよ」
「土産? あ、そっか、一応観光施設なんだっけここ」
「そうなんですよ。たぺすとりーっていうのが人気らしいです。あと木刀?」
修学旅行かな?
正直買って帰ったあとはどうしようもなくなって部屋の隅っこで埃被ってるんだ。
ちなみに僕が京都行った時は小さい阿吽像買ったんだよね。正直置き場に困ってどうしようかと思っていたら母さんがいつのまにかいらないって捨てて、気付いた時には、あれ、そういえばないなぁ。ってことになったんだよね。
どう考えても罰当たりだよなぁ、あれ。
「どうですシシリリアさん。木彫りの熊とか買っておきます?」
「いや、いらないでしょ。いえ、でもこの大きさと硬さなら鈍器くらいには……」
「シシリリアさん?」
「そ、そろそろ行きましょうか。ここ人が多いし」
「そうですね。えーっと温泉ばっかりなんであんまり案内する場所がないんですけど、行きたいところってありますか?」
「グーレイさんのいないとこ」
「え? シシリリアさん、グーレイさんのこと、実は嫌いだったりするんですか?」
「嫌いというか、正直、なんで皆アレ平気なの? 正直気持ち悪いでしょ、銀色の肌とか、目が大き過ぎだし、あの小さい眼鏡なによ、叩き割りたくなるわ、あんな気持ち悪い生物が存在するとか吐き気が……」
おぉっとぉ!? なんか凄くどす黒い感情が湧きでておりますが!?
「し、シシリリア……さん?」
「え? ……あ、いや、その、グーレイさんは優しい性格してるけど、容姿がちょっと好きになれないっていうか、ね?」
オブラートに包み直してももう遅いと思います。
「そ、そうですか、シシリリアさんはグーレイさんの容姿あんまり好きじゃないんですね」
「え、ええ、だから出来れば視界に収めたくな……じゃなかったえーっと」
いや、もう、下手に隠そうとか言い直そうとしなくても良いと思うよ。
意外と毒持ってるなぁシシリリアさん。
そっか、こっちに全然来る気配ないと思ったら、グーレイさんの容姿が生理的に受け付けなかったのか。
―― ぷぷー、ウケるー ――
駄女神マジ話しかけないで。
僕的には駄女神が生理的嫌悪で受け付けません。
―― えぇ!? そんなこと言わないでぇ。私の声可愛らしいでしょ? ほら、女の子のかわゆい美声よ? ――
そういうの間に合ってるんでアルセ並の美声になってから出直してください。
「んー、でもそうなると時間潰しには……温泉入ります?」
「そうね。いろんな温泉あるみたいだし、入り比べってのもいいわね。お金は……」
「あ、僕今までの冒険で一杯お金あるんで奢りますよ」
「え? でも……いいの?」
「せっかくですから一緒に入りましょう。面白い温泉知ってるんですよ。打たせ湯って知ってます?」
「打たせ湯? よくわかんないけど折角だし体験してみようかな」
ほほぅ、打たせ湯に御二人様とな? これはもう、突撃するしかありますまいっ!!
「では行きましょうか。こっちです」
「温泉かぁ、まぁ折角だし羽伸ばそうかな」
僕も参加します、強制です! いいっすか! ひゃっほぅっ。
―― ああ、バグ君が暴走しちゃう、誰かーここに危ない人がいまーす ――
はっはっは。残念だが誰もこないさ。
リエラはGババァについてったし、グーレイさん達は話し中だからね。
だから……
『ばぁぐぅさぁぁん?』
ひぃっ!?
油の切れた機械のように、僕は振り向く。
そこにいたのは……り、リエラしゃん!?
『さっき駄女神さんから連絡が来たんですよ』
笑顔で重圧を振り撒くリエラが僕の背後にいらっしゃった。
既にピピロさんとシシリリアさんは温泉向けて移動しているけど、僕は移動すら出来そうにない。
だって今移動したらリエラに怒られそうだし。
あ、あの、Gババァと矢田は?
『矢田さんはグーレイさん達の部屋に運んでおきました。ええ。なので、私は空いてますよ。ふふ、一緒にどこか、行きましょう、ね?』
は、はいっ! 喜んで!!
イエス、マム!!
畜生、覚えとけよ駄女神ッ、何時か致命的に恥ずかしいバグを送り込んでやるからなぁっ!!
―― はーっはっはっは。神はお前の行動全てを見ているのさ。変なことできると思うなよー ――
神めぇ、覚えとけよぉ、必ず辿りついてやるからなぁっ!!