百八十九・その意味不明な体術のことを、彼は知らない
斬星君チームと一緒に何度目かの狩りに出かけた帰りの事、ついに英雄チームが冒険者ギルドで合流した。
発見一番DQN矢田が絡んで来たので、今回はスケルトンキングを斬星君単独撃破ってことで着いて来て貰ったリエラが矢田の足を払って倒し、ついでに僕が押し倒した斬星君が倒れてエルボードロップ。
ふっ、一撃必殺やっちまったぜ。
もんどりうって転がる矢田を放置して、皆が会話を始める。
でも、しばらく呻いていた矢田が起き上がり、憤慨した様子で斬星君に向かう。
「テメェ、やってくれたな!」
「あ、待って今おかしいんだ。僕に触れない方が」
「ごちゃごちゃうるっへぁ!?」
斬星君の胸倉掴んだ瞬間くるんっと盛大に回転する矢田。
倒れ込んだ所に再び胸倉掴んだままの斬星君が倒れて来る。
今度は御指定通りに顔に向かってエルボードロップ。
「がぁ!?」
「ご、ごめん、わざとじゃないんだ。僕がやったつもりは……」
「こ、殺す……」
「止めときなって、今のどう見てもアンタの負けでしょ」
「がはは、元気がいいのはいいけどよぉ、さすがにこれ以上はやめときな坊主。やんちゃが過ぎれば行きつく先は自分の命だ」
「……チッ」
矢田がなんとか立ち上がる。度重なるエルボードロップのせいでふらついているのがちょっと可哀想だけど、顔が顔だけにどう見てもやられ役のチンピラさんなんだよね。
本人の思考回路もそれに近いからどこかで実力者にコテンパンにノされて、反撃を画策したところで古の魔獣とか復活させて喰われるんだ。テンプレだよね?
『英雄が喰われてどうするんですか。さすがにそれは助けましょう?』
えー、でも自業自得じゃん? まぁ、彼はまだやってないけど。
でもほぼ確実にやっちゃうと思うんだよねぇ。
『私はその前にバグっておかしな能力付くと思いますよ』
失敬な!?
「クソ、なんなんだよ斬星、今の絶対お前動いてなかっただろ」
「え? そ、そう、だよね? あ、あは、あはは」
自分でも説明出来ない斬星君は笑うしかないらしい。
「クソ痛ぇ」
「自業自得じゃん。最高の汚い悲鳴だったわよ。斬星君ナイス」
「ど、どうも……?」
「それで、えーっと貴方たちは斬星君の新しいパーティーですか?」
「似たようなもんだ。俺は『帰還の誓い』ガーランドだ。こいつはジャスティン、そっちがエストネアであいつがニャークリアだ。グーレイたちと一緒に行動しててな。今は斬星のレベル上げ中だ」
「あー、成る程。じゃあグーレイさんとも会えるんですね」
「折角だし案内してやるよ」
と、言う訳でガーランドさんが責任もって英雄たちを魔王別邸へと案内することになった。
冒険者ギルドを出て別荘へと向かう。
あの別荘意外としっかりした荘厳な作りだからなぁ。皆初めて見た瞬間ぼへぇっと屋敷を見上げて止まるのは当然だといえよう。
「な、なんだこれ……」
「こ、これ、ホントにグーレイさんの屋敷?」
「グーレイさんというよりはチームでの、かな。魔王を倒して手に入れちゃったんだよ」
そもそも新しい魔王はユーデリアさんだからユーデリアさんの私物に居候してる感じだよね?
「うっわ、メイドさんがいる」
「あれって執事さん!?」
一応日々の業務回せる位のメイドと執事は新人募集で確保出来た。
冒険者ギルドの他に存在したハロワみたいな場所があってよかったよ。
魔王専用風呂に入れるっていう謳い文句が決め手になったようだ。
「すっごい、温泉あるんだ!? いいなぁ」
「混浴だから時間帯で男女別に別れてるわよ」
「あ、いいですねソレ」
「矢田、女性の使用時間に乗り込むなよ?」
「さすがにそんなショボいことしねぇよ。やるなら堂々脅してやるし」
「やめろよ屑野郎、今ココで消し済みにしてやろうか?」
「ア? 雑魚女がイキがってっと犯り殺すぞ?」
シシリリアさんが野蛮になっておられる。あのヤンキーとしか思えない矢田とメンチ切ってるし。
「おい、遊んでねーでこっちこい、もう皆集まってるってよ」
「そっちにいるのね?」
「ほら、皆いくぞー」
うーみゅ。朝臣さんだっけ? あとあの女の人ゴールドさん? あの二人って灼上君の彼女になったのかな? 腕組んでるよ?
『誰も何も言ってませんし、向こうのチームではアレが正常なのでしょう、私達も腕組んじゃいます?』
ええ!? さすがに恥ずかしいよ。あ。ちょっとリエラ。ブレストプレートが腕にめり込むぅっ!?
『あ、ごめんなさい?』
うぅ、ちくしょう、灼上めぇ、この恨みはらさでおくべきか。
『えぇ!? なんで灼上さんに恨みが!?』
カップルなんぞ滅べばいいんじゃいっ。
『むちゃくちゃ言ってるよぉ』
そして僕らはグーレイさん達の待つ部屋へと向かう。
灼上めぇ、何時かバグらせてやるからなぁ。




