百八十八・その温泉街にやってきた英雄たちのことを、彼らは知らない
SIDE:灼上信夫
「よ、ようやく、ようやく着いた……」
正直旅路が長過ぎた。
なんだったんだあの長い道のり。
いや、馬車とか使うと魔王達に察知されて殺されそうだったから徒歩選んだのがそもそも間違いだったんだけども。
「おー、マジ温泉街じゃね?」
「ふむ、漂っている臭いは硫黄だな」
「うっわ、くっさ。なんですここ? 卵が腐ってる?」
「硫黄ってそういう臭いよシシリリアさん」
さて、ようやく辿りついたけど、グーレイさんたちは何処に居るんだ?
とりあえず冒険者ギルドで会えるだろうか?
「まずは宿取るかリーダー?」
「いや、まずは冒険者ギルドでグーレイさんたちを探そう。向こうも宿を取ってるはずだし、そこに案内して貰った方がいいと思う」
「温泉、入りたい」
「ふふ、リックマンさん一緒に入ります?」
シルバーたんはリックマンさん誘惑するのマジ止めてください。
リックマンさんあの体格と容姿で純情だから。
多分誘惑されたら一気に堕ちるぞ。
「おいおい、おっさんと入るより俺と入ろーぜ? しっかり満足させてやっからよ」
「えー。貴方はちょっと、乱暴そうだもの」
「ひでぇなオイ?」
「酷いも何も順当じゃないロクデナシ」
「アァん? 喧嘩売ってんのかクソ女」
「なんですってっ!?」
あー、またか。なんで矢田とシシリリアたんは事あるごとにバトるかな?
「ほら、さっさと行きましょ。冒険者ギルドでしょ」
「あ、うん、そうだね」
バトり掛けた二人を放置して美樹香たんが僕の腕を取って歩きだす。
ちょ、ちょっと、なんで腕とったんっすか?
「あ、ズルい」
反対の腕にゴールドたん。
なにこれ? なにこれ? 連行されるオークさんかな?
「あ、待ってくれたまえ灼上君」
「あらぁ、つれないわねぇ」
「チッ、置いてかれちゃたまんねぇか」
「あ、待ちなさいよ!?」
はぁ、ほんとまとまりないなぁこのチーム。
僕、リーダー降りれませんかね?
無理? 分かってるよそんな事は。
多分僕が辞退した瞬間このチームは瓦解する。
ぎりぎりで繋がってるんだからちょっとの刺激で分解するのは当然だろう。
あー、嫌だなぁ、ストレス溜まって痩せちゃうよ。でもやけ食いするから逆に太るんだ。不思議だなァ。
「お、ここだここだ」
冒険者ギルドってどこも似たような作りだよね。多少変わってても看板ですぐわかるのがいい。
僕らは入口をくぐって冒険者ギルドへと入る。
ここも結構賑わってるなぁ。
一先ず依頼ボードを見てみると、温泉の警護とか、温泉の掃除、臨時職員募集などが多い。
基本的に温泉中心で回ってるようだ。
「んじゃ、とりあえず受付嬢に聞いて……」
「今日は上出来じゃねーか斬星!」
「あ、はは。アレは僕がやったわけじゃ……」
「にゃはは、スケルトンキング瞬殺細切れ凄かったにゃー」
「剣抜いたら相手が分割されるのすげぇよな。あれなんて技?」
「私の魔法発動より速いってすごいわよね」
なんか賑やかな冒険者がやってきた、と思ったらどっかで見た顔が一人混じってた。
「斬星!?」
「……え? あ、灼上……」
思わず声を上げてしまい、相手も気付く。
こちらを見付けた彼は凄く苦々しい顔をした。
マズい所を見付かった。そんな顔、いやむしろ出来れば会いたくなかったって顔だろう。
「おいおい、役立たず君が随分楽しそうだなァ?」
ちょ、矢田、今はマズいって。相手のパーティーリーダー見てないのか? マッスル禿げ様だぞ? めっちゃ強そうじゃん!? 敵対とか僕無理ですからぁ!!
「なんだぁ坊主? 知り合いか?」
「あ、ああ、これからグーレイさん達と合流する英雄チームだよ」
「あれが? ガラ悪くない?」
「なんていうか、ギルドで絡んで来てそのままノされるタイプの……ああ、丁度今そのイベントの真っ最中か?」
「よくある話しだにゃ~」
その話、転生者じゃなくてもよくある話なのか……
「おい、斬星、無視してんじゃ……へ?」
次の瞬間、不思議な事が起こった。
斬星君の胸倉を掴もうとした矢田が足払い受けたみたいにすっ転ぶ。
無様にずっこけた矢田に、なぜか斬星君がタイミングよく倒れこんでエルボードロップ。
「ぐほぁ!?」
「へ? え? うわわ!? ち、違うっ、今のは違うんだ! 僕は……」
「うーんちょっとおしかったにゃー。そこは脇腹じゃなくって顔面に当てるところだにゃ」
「ほんとすっげー動きだな坊主。やるじゃねーか」
「え? 違、ホントに僕がやったんじゃ……」
斬星君狼狽してるけど、今のって斬星君がやったんだよね?
シシリリアさんが思わずガッツポーズしてたけど、僕もちょっとスカっとしたよ。