百八十六・その魔族にしか分からないことを、彼らは知らない
SIDE:ラウール
「何を、してるんだい?」
その日、屋敷の屋根に上っていたナマハムメロンを見付けた私は、屋根をよじ登って彼女の隣へとやってくる。
「ラウール? 鎧を着てないと間抜けな姿ね」
「間抜けは失礼だね。確かに君たち猿型生物に比べると間抜けに見えるかもしれんがね、蛙人としては全裸が普通なんだよ? 鎧を着るのは兵士や冒険者だけさ。他は父である陛下すらも全裸だからね。王冠とマント被ってるだけだよ?」
「生態が違うから問題はありませんが。私達がそれをしたら確実に変態扱いですね」
「それはそうかもね。それより、君はなんでまたこんな場所に?」
「私? 私はただ……魔族領に戻って来たんだなぁ、と思って空見てただけよ」
感傷にでも浸ってたのかね?
そういえば彼女が人間領に居た理由は知らないな。
何かしらの理由はあるようだけど、おそらく教えてくれたりはしないだろう。
「そういえば、ラウールはなんであんな場所居たの? 貴方が旅とか、嘘でしょ」
「……それを聞くかね。私も尋ねざるをえんぞ?」
「べつに……大した理由じゃないわ。父と喧嘩して殺されかけたから逃げて来ただけ。全く、年甲斐もなく娘に殺意向けて来るとかどうなのかしら?」
それはそれで何をしたのか気になるんだが……
「つまり、君の実家に帰った時は魔王から命を狙われる可能性が高いのか」
「ええ。だからあまり戻りたくないのよ。行くところもないからグーレイたちに付き添ってるだけよ」
「まぁ、暇な時期は殆どないからねぇ、彼ら」
「ええ。それに、気付いてる? 見えない人のこと?」
「たまにグーレイが虚空に話しかけてたから疑問には思っていたけど、やはりいるのか」
「ええ。少なくとも二人。私はグーレイから直接聞いてるからどういう存在かは知ってるわ」
「良いのかい、喋って?」
「本人たちが秘密にしてないもの。ユーデリアや尾道だったかしら、あの辺りがおかしくなってるのは見えない人のせいね。気を付けててもバグ弾にあたったらどうにもならないらしいからこのまま一緒に行動するなら貴方もバグる可能性はあるわよ。特に、毎回良いバグり方ではないらしいし」
それは少々気になるところだね。
バグというのがどういうものかは分からないけど、私にとって良い状況になるかどうかは不明ということか。
「それで、わざわざ付いて来た理由って、なんなの?」
「グネイアス帝国の英雄さ。12人も召喚して来た上に侵略を始めてるんだ。ウチの親もさすがに警戒するさ。現実問題そろそろウチも侵略されそうだからね」
「確かに、あの国の侵略率はバカに出来ないわね。既に魔族領中枢まで届きそうだし」
「ああ。軍国家である魔王が暗殺されたのが一番痛い。グーレイから何かしら情報を貰えるかと思ったんだけど、もう一つの英雄チームが実働隊だったのは失敗だったよ。できればそちらに潜り込みたかったね」
「このままいけば潜り込めるんじゃない?」
「それは……」
確かに、ここで合流した後付いて行けば問題はないか。我が国に仇為すようなら内部瓦解も促せるし。いや、しかし……
「多分、私はこのままグーレイたちと行動するだろうね」
「あら、そうなの? 貴方の国、滅ぶかもしれないわよ?」
「それはないよ。戦略的価値のない土地だし、人族にとっては沼地しかない場所だ。奪い取り滅ぼす必要性もない場所だと思うがね? そうだろう?」
と、私は背後の彼女に声を投げかける。
「ん。多分問題無く停戦可能だと思う」
そこにはカッパーと呼ばれていたグネイアス帝国のスパイがいた。
どうやら今までの会話は聞かれていたらしい。
まぁ、予想が出来ていたので聞かれることを想定して会話していたのだが。
「盗み聞きとは感心しないわね?」
「すいません、一応祖国に関わることなので」
「我が国は貴国に停戦を申し込むよ。いや、むしろ相互不可侵条約、かな?」
「かしこまりました。陛下にお伝えしておきます」
「あと、政略結婚が必要なら私の妹を送るつもりだけど、蛙は好みかね?」
「おそらく受け取らないと思われます。一応伝えます」
「ソレは残念。妹は気立ても良く可愛らしいのだがね」
「でも顔は蛙よね?」
「当然だろう?」
何を当たり前のことを。蛙人族なのだから蛙顔に決まってるじゃないか。
「多分人族は凄く嫌がると思うわ」
「そんなバカな!? 美人だぞ?」
「でも、蛙でしょ?」
「当然だ」
むぅ? まさか、本当に蛙人族と結婚は嫌なのか!?
一体なぜ!?
「い、一応、伝えておきますね?」
「あ、ああ。……そうか、蛙人族、人族とは相入れない、のか……」
衝撃の事実を知った気分だ。本当に、本当にそうなのか? ショックがでか過ぎる。