百八十五・その料理に使われた食材のことを、彼女は知らない
SIDE:小玉陸斗
「え? コレ食材なんですか?」
「え? ええ。魔族領だとふつうですよ?」
「ギニャーッ!?」
だ、断末魔が……
「こうやって頭を思い切って切り取ってください。あとは皮を剥ぐように一枚一枚ちぎって行けば問題ありません」
「そ、そうなんですか、えっと……これの名前は?」
「キャ○ツです」
「え? 今、なんて?」
「ですからキャ○ツです」
キャベツと聞こえた気がするけどキャッツと聞こえたような気もする。
姿は確かに猫だ。猫の姿をしたキャベツだ。
キャベツなので野菜に分類されるにゃーにゃー鳴きながら闊歩する歩く葉物である。
生まれてくる時はタネからで、土に埋まって成長し、普通のキャベツみたいに青々生い茂る。
成長しきると土から出て来て根っこを引きちぎり、他の野菜の葉っぱを食い荒らす害獣と化す。
うん、なんだこれ? 生物なのか葉物野菜なのか。
「そ、そうですか……」
食べて、大丈夫なんだろうか?
というか調理の絵面がなんとも言えない。
何しろ猫型のキャベツの首もいで皮を剥いで行く、あるいは千切りに……ど、動物虐待? いや、でも野菜だから問題はない、のか?
「そ、それで、こっちは?」
「突撃トマトンです。気を付けてください、隙を見せると突撃して来ますから」
「いや、突撃って……あっ」
トマトンたちの一斉突撃。
俺の全身がトマト塗れになった……
「なん、だ、これぇ……」
もはや呆れた笑いしかできないよ。
「トマトン放置してたら飛んでくるんですよ。いやー、久しぶりですな、新人は皆通る道ですよ」
ああ、そうですか……
うぅ、野菜サラダ作るだけのはずなのになんでこんなことに……
「ああ、温泉で体を洗うのでしたらそこの野菜も連れていってください」
「は? 野菜を?」
「温泉人参と温泉大根です。温泉浸かってる姿結構可愛いんですよ?」
いや、待って。その人参と大根手足が生えてますよ? 顔っぽいのもあるんだけど?
温泉大根きりっとしたイケメンスマイルしてるのなんで?
人参の方は俺の背後に来るんじゃないとか言ってきそうな濃ゆい顔だし。
そして、俺はトマトンの猛襲を洗い流し、人参と大根を主張する謎生物と温泉に浸かる。
なんでこいつら温泉に浸かると歌いだすんだろう?
しかも歌が漢な塾とか学園で歌われてそうな校歌っぽいし、涙流して揃って歌うな。なんか気持ち悪い。
風呂から上がって厨房に戻る。
折角暇だから厨房で何か作ろうかと思ったんだけど、魔族領の食材一癖も二癖もあって調理するだけでも大変そうだな。
「あ、今からライデンフィッシュ調理しますんで体が濡れているようなら厨房から出てください」
「え? あ、水気は既に大丈夫ですけど?」
「そうですか? ではそちら預かりますね」
人参と大根を受け取った魔族の料理人について調理場へと向かう。
丁度魚を捌く所だった。
刹那、そこいら中に黄色い何かが飛び散る。
雷魔法らしく、凄い音が遅れて轟いた。
なんつー電力量。
これは確かに濡れてたら危険だ。当たっただけで死にかねない一撃だった。
「雷耐性魔法を重ね掛けしてもこれですからね。要注意の魚なのです」
「なら、なんでそんな魚を?」
「調理が難しいのですが、その分美味しく元魔王様が好んで食べるんだ。既に届けるようにと伝えられてて今日届いてね。さすがに捨てるのは勿体ないから皆さんに出そうかと」
「ソレは嬉しいですね」
「えーっとあとは……ああ、ゲーテモゥノの焼き肉にしようか」
……え? げ、げてもの?
うわっ!? 何ソレ、気持ち悪っ!?
ひぃっ、いまぴちって跳ねた!?
容姿も気持ち悪いし動きも気持ち悪いっ。
「コイツは特殊な味でね。人によっては最高の食材なんだが、生ゴミのような味と言われることもある。人間に合えばいいんだけどねぇ」
「とりあえず、作るだけ作ろうぜ。ここに証人がいるし、食えないもんだしたわけじゃないってことは確かだから処刑されることもあんめ。ちなみに前の魔王はこれを喜んで食っとったぞ」
「うわー」
正直これは食べたくないなぁ。
でも、焼き肉として出されたら普通に肉としか思えない。
味見で一つ食べさせられたけど、無駄に美味しかった。
大丈夫かなぁ、ホントに大丈夫かな?
一応調理の仕方は習ったけども。
これはさすがにちょっと作りたくはない、かな?
アイテムボックスに料理の余り無理矢理入れられたから最悪檸檬に与えるしかあるまい。
ちなみに、その日の夜の食事は皆に大うけだった。
うん、まぁ、味は良かったらしい。特にライデンフィッシュの唐揚げは大人気だった。
グーレイさんとか特にゲーテモゥノを美味しい美味しいって食べてたけど……
素材が素材だからなぁ……さすがにちょっと、あ、あぁ、檸檬待ってそのきゃべつっぽいのは……うぅ、なんか吐きそう。




