百八十四・その隠し扉があることを、彼らは知らなかった
SIDE:尾道克己
「お、ここにもあるね」
本日、皆自由行動ということで暇を持て余していたのですが、グーレイさんが屋敷の隠し部屋を探索するというので同行させていただくことにした。
今回の探索に同行しているのはピピロさんとブロンズさん。
それにしても、グーレイさんの発見率は凄いですね。
先程から的確に隠し通路を幾つも発見しているのです。
「しっかし、さすが王族ね。隠し通路多くない?」
「そうですね。隠し通路自体も入り組んでいるようですし、もしかしたら本命を隠すための偽脱出路かもしれません」
「成る程、その可能性は気付かなかったな」
「それにしても、亜人には隠し通路発見機でもあるのかしら? あんた発見し過ぎじゃない?」
「そ、そうかね? 大体わからないかな?」
「普通はここまで巧妙に隠されてると分からないもんよ? それこそ初めから場所が分かってないと発見はできないんじゃないかしら? 空気の流入もなかったし。正直この隠し扉がここにあるってことに気付くより隠蔽状態の私を見付けだす方が簡単なくらいよ」
「そ、そうかね?」
「本当に初めて見付けたのよね、この扉?」
「はっはっは……」
「ですが、グーレイさんは私達とよく一緒に居ましたし、屋敷を調べるのはこれが初めての筈ですよ。掃除中に探していたとも思えませんし」
「それは確かにそうなんだけど……」
つまり、グーレイさんに屋敷を調べる余裕はなかったし、屋敷の詳細を知るすべもなかったはずなのだ。
たとえば、透明な誰かが事前に調べてグーレイさんに報告でもしない限り。
可能性として、考えはしていた。
なにしろ、たまにグーレイさんは隣に話しかけるのだ。
まるでそこに見えない誰かが居るみたいに。
初めは気のせいかと思いました。
しかし、私と同じように訝しんでいるピピロさんや、途中からグーレイさん同様、そこに誰かが居るように振舞うニャークリアさんを見て、徐々に疑惑を深めています。
やはり、いるのでは、ないでしょうか?
今回はもしかしたら確信できるかとグーレイさんにご一緒させていただいたのですが、どうやら今回は近くには居ないようです。
さすがにグーレイさんに直接尋ねる訳にもいきませんし。
もし知ってはならない禁忌の情報だった場合私がアブダクションされるかも知れませんしね。
思えば、グーレイさんと旅をすることになってから不思議な事が良く起きるようになったのですよ。
私の能力がおかしくなってましたし、英雄パーティーからはじき出されたピピロさん。グーレイさんと一緒に移動することになってから予想以上の成長を遂げました。
私から生み出された呪人も、突然現れた、いえ、人類至上主義者が変化したモザイク人という方と相打ちすることになった。
まるで彼に対抗するためにモザイク人が生み出されたかのように。
あの熊のバケモノに関しても、です。この付近にあんな生物はいないそうです。
クマの魔物は近くの森にいるらしいですが、スマッシュベアなどの中級冒険者が狩れる程度の魔物しかなかったそうです。
つまり、私達が居た時に限り、新種の魔物がタイミングよく生まれ、討伐された。
それはまるで、そう、私の能力が変化したように、クマの魔物の能力が変化したから生まれた……
飛躍、し過ぎでしょうか?
ですが、気になってしまうのです。
グーレイさんたちがしきりに告げる、『バグ』という一言が。
バグ。そう、バグだ。
この世界の人なら虫の魔物かなにか、だと思うかもしれません。
しかし、私たち日本人にはもう一つ、意味するものがある。
私はソレを連想してしまう。即ち、『バグった』。
私はドラゴンゾンビ戦までは震えるだけの存在でした。
しかし、その後、何かが変わったのは自分でも分かっていました。
最初に自覚できたのは裏世界へ向った時でしょう。
そう、それはまるで、私の実力がバグったかのような印象でした。
目の前で起こったバグなら他にもあります。
アーデちゃんが襲われそうになった人族至上主義者の教会。
唐突に空間が『バグった』ようにGババァさんが現れた。
ユーデリアさんも唐突に変化した。
アレはどう見ても『バグった』と言える変化でしょう。
つまり、バグらせる何かが私達の近くには存在している。
それはそう、それ自体が『バグった』存在なのではないだろうか?
考えて見ればグーレイさんチームでバグった存在は基本良い変化しかしていない気がする。
モザイク人に関してはほぼ敵みたいなものですし。
つまり、味方には良い変化のバグを敵には悪いバグを付与する見えない存在がいるのではないか、と私は思うのです。
聞いてみたい、しかしグーレイさんに直接尋ねる勇気が私にはない。
今、同じように気付いてると思しき存在は、おそらくニャークリアさんだけではないでしょうか? いえ、もしかすればGババァさんも知っているかもしれませんね。
外堀から攻めるべきか、本丸を攻めるべきか。
出来れば、笑い話で終わるといいなぁ。