百八十三・その男女がカップルであることを、彼らは知らない
SIDE:月締信太
今、僕はデートしている。
誰が何と言おうとデートしている。
デート、して、るんだ……
「我が愛、これが似合うのではないか」
「え、っと……なぜ世紀末っぽい服を? それ、暗殺拳伝承者が着てる服っぽいんだけど。僕胸に七つも傷ないよ?」
そもそもなんで温泉街の防具屋にそんな服が置いてあるのか。
絶対にここ作った人日本人だろ。
ネタが大量に仕込まれてるのは僕でも分かる。
だってここにある服、全部コスプレ関連だもの。
亀とか書かれた胴着とかあるし、アレは着物だよね。鬼殺しのメンバー一式揃ってる。
僕の知ってる現代から来てるな異世界人。
というか、ここ、温泉街になってから数百年って言ってたよね、この世界と日本のある世界は時間軸一緒じゃないってことなのかな?
「ユーデリア。僕の服じゃなくてユーデリアの服見に来たんだよ」
「ぬぅ、そうであったな」
そう言って、おもむろに一つの服を手に取る。
「これはどうか?」
なんで覇王っぽい服装選ぶの!? それにその服男性モノだからぶっかぶかでしょうよ!?
「ユーデリアには、ほら、こっちの方が似合うと思うな」
「ぬぅぅ、我が愛よ、それでは覇道を歩めぬではないか。だが、それもよい」
いいんだ。
あ、意外と恥ずかしそうにしてる姿可愛い。
やっぱりユーデリアはユーデリアだなぁ。
そうだよ、口調がちょっと変わった程度ならユーデリアの可愛さには決してマイナスにはならないよね。
「店主よ、この服を貰って行くぞ」
待ってぇ!? お金は払おう!?
すいません店主さん、これ、お金です。ちゃんと払うに決まってるじゃないですか!
はは、やだなぁ。前の魔王みたいなことはしませんって。というか前の魔王は金払わなかったのかよ。
「むぅ、魔王ならばこの地を治める者だ。金を払う必要はないのだぞ?」
「駄目だよユーデリア。こういうのはきちんとしとかないと、前の魔王みたいになっちゃうぞ」
「奴のように……か。それは確かに褒められたことではない、か」
むぅぅ、と唸るユーデリア。
少し癖があるけど、なんとなく、彼女の変わった性格が理解出来て来た気がするような……
「ふむ。次はあそこの店に行くか」
「あそこは……道具屋かな? なんか必要なのってあったっけ?」
「必要なモノなどどうでも良い。全て平らげるぞ」
それ冗談だよね!? 襲撃するんじゃないよね?
ここって世紀末だったっけ?
「ふはははは、我が徴収より逃れる術などないのだーっ」
待って、ユーデリア待ってぇ。
「ええい、なぜ邪魔をする我が愛!?」
「なんか本気でやらかしそうだからだめーっ!!」
「なんか、楽しそうだな二人とも」
うぇ!?
「むぅ、うぬら5人か」
ガーランドさん、ジャスティンさん、エストネアさん、ニャークリアさん、そして斬星さんの五人がそこにいた。
「なんでいんの?」
「ついさっきまでダンジョンに居たんだ。今日は引き上げて来たところだ」
「ほぅ、ダンジョンがあるのか」
「スケルトンしかでてこねぇぞ?」
「殴るのならば丁度よかろう? 征くぞ我が愛!」
「えぇ!? 今からダンジョン行くの!? しかも二人で?」
……
…………
………………
そして僕は理不尽を目の当たりにした。
何か物凄い事が起こったんだ。
でも、多分夢だったんだろう。
だって、今僕とユーデリアは混浴風呂で二人きり、ゆったりと浸かっているのだから。
……ん? んん?
あれ? なんで僕はここにいるんだ!? ダンジョンはどうなったの!?
「あ、あの、ユーデリア?」
「ん? どうした我が愛? 抱擁が望みか? ならばくれてやろう」
「って、ち、違うよ、そうじゃなくて、いや、むしろ御望みだけども。さっきダンジョンに行くって言ってなかったっけ?」
「ふむ? 何を言っている? 先程倒して来たばかりだろう? あのスケルトンキングはなかなか歯ごたえがあったな」
あ、ああ、霞のように覚えてる。夢か幻のような一時の中でユーデリアと殴り合うやたら豪奢な装備のスケルトンがいたような気がしてたけど、あれ、現実だったのか?
僕の思考回路では理解しきれなかったようで覚えられなかったようだ。
「そら、近くに来るがいい我が愛」
「あ……」
ユーデリアに抱きしめられたことで思考回路は再びふっとぶ。
ああ、やっぱり僕、ユーデリアが好きだ。
一生、彼女と一緒に居たい。幸せに暮らしたい。
だから、まずは彼女を理解することから始めよう。
とんでもないことをしてるように見えても、それはユーデリアなのだから。
僕が、許容すればいいだけの話なんだ。
何か、致命的な何かを忘れてる気がするけど、きっと気のせいだろう。