百八十二・その剣が折れる理由を、彼は知らない
スケルトンナイトは強敵だった。
斬星君の実力だとさすがに苦戦するらしく、たびたびフェイントに引っ掛かる。
それでもなんとか押し込み、腕を斬り飛ばし、片腕状態にしたことで多少余裕が生まれた。
でも危なっかしいのは変わりない。
特に問題なのはフェイントだと判断して踏み込んだ所が普通の攻撃だった時だ。
危うく脳天カチ割られるところだったよ。首根っこひっつかんで後ろに引っ張るのが一瞬でも遅れてたら彼は死んでたかもしれない。
無駄に僕の心臓までバックバクだよ。
「つ、強い……これがスケルトンナイト」
「にゃーっ、数がうっといにゃーっ!!」
「ほら、ニャークリア、スタンさせたからトドメ刺して!」
「助かるにゃー」
そんなニャークリアの会話を聞いた斬星君が思わずこっちも欲しいな、と呟くが、今回のスケルトンナイトは君の技術を引き上げるための対戦相手だからね。
「っし、ジェネラル撃破だ!」
「あー、負けた!? 最後の一撃相手がフェイントしてこなければ俺のが早かったのに!?」
ガーランドさんとジャスティンは何の勝負してんの?
「クソ、もう僕のとこだけか」
あ、こいつ焦りだした。
とりゃ。
「あいたっ!?」
調子乗りそうな斬星君の頭に後ろからチョップ。
軽い一撃だけど斬星君が驚く程度には強かった。
「なん……?」
「落ち付いて行くにゃー。皆と合わせる必要はないにゃ、落ち付いて倒しに行くにゃ」
「あ、は、はい……ふぅ……平常心、平常心。やる、ぞッ」
ニャークリアさんからのフォローでようやく落ち着きを取り戻した斬星君。
目の前には片手で剣を持つスケルトンナイト。
強さ的にはニャークリアさんがちょっと面倒臭いと思う程度の実力だ。
けど、殆ど初心者の斬星君にとっては格上とも言える相手なのだ。
ちょっとでも心のゆとりを失えばたちまちに窮地に追いつめられることになる。
必死に相手のフェイントを読みながら切り結ぶ。
何度も剣を叩き込み、相手の剣で受け止められ、相手の剣を受けては反撃を行うを繰り返す。
皆は新しい敵影が来ないかを探りつつ、斬星君の闘いをしっかりと見つめている。
斬星君はそっちに意識を取られる余裕すら今は無いらしく、スケルトンナイトの挙動にのみ集中できている。
一対一なら一番良いコンディションだろう。団体戦だと即死するタイプだけどね。
スケルトンナイトも必死に剣をふるう。盾を失ったのは向こうにとって痛手だろう。
必死に剣で受け止めているが少しずつ剣にダメージが蓄積されている。
そのため、びきり、と嫌な音を立ててヒビが生まれていた。
しかし、スケルトンナイトは気付かない。
もしもソレに気付く事が出来たなら、あるいは逃げる術を覚えていたならば、彼は破壊されることは無かったかもしれない。
しかし、愚直に剣を振る。
ゆえに耐久値を越えた剣は斬星君の一撃を受け、砕け散る。
わずかに驚くスケルトンナイト。
守る物も闘う物も失った彼を待っていたのは、咆哮と共に振るわれた斬星君の剣閃だけだった。
「おお!」
「やったじゃん」
「危なっかしかったけどなんとかなったにゃー」
「つ、疲れた……」
性も根も尽き果てた顔で剣を支えに息を吐く斬星君、これは継続戦闘は無理っぽいね。
「ふむ、ちぃと早い気がするが、今回は引き上げるか」
「あ、その、すいません、もしかして僕のせい……?」
「いや、お前さんはよくやってる。だが、それでもこれ以上の戦闘はお前さんを守りながらになるからな、戦闘に慣れるまではコレの繰り返しだ。大変だろ、人一人が強くなるってのはよ」
「は、はい……」
「ま、そんな気ぃ落とすんじゃねーよ。なぁにしばらくここで訓練だ。目標はスケルトンキング単独撃破だ」
ばしばしと斬星君の背中を叩きがははと笑うガーランドさん。
「初めは皆そんなもんだ。むしろ初の本格ダンジョンでスケルトンナイト倒せたんだ。誇りやがれ」
「そういえばガーランドの最初ってゴブリン相手に漏らしてたっけ」
「言うんじゃねェよエストネア!?」
ガーランドさんが漏らすとか、全然想像付かないなぁ。どれだけ昔のことなんだか。
「ふふ。アレがもとで本気で強くなろうとしたから今があるのよ。むしろ率先して話すべきだと思うわ」
「ざけんな。そんな黒歴史忘れちまえっ。じゃねぇと初のゴブリン討伐で吐きまくったお前の話しすっぞ」
「いやぁ!? 止めて止めてっ。私のイメージが壊れるっ」
「すでに壊れてるから問題ないにゃー」
「まぁ、その話は何度か聞いたしなぁ。斬星、こんな感じで俺らも新人時代は散々だったんだぜ。だから気落ちする暇があったらもっと強くなる方法でも考えとけ」
「あ、はは。了解っす」
結構やらかしてる人多いなぁ。ジャスティンはナンパし過ぎて刺されたんだっけ。
このパーティーニャークリアさん以外黒歴史が……もしかしてニャークリアさんにも何か黒歴史が?
「うにゃ? なんにゃ? 私見たってないにゃよ。黒歴史っぽいのはもってないにゃ!」
「あん? ニャークリアの黒歴史っつったら、戦闘中に蝶見付けてうにゃうにゃいいながら戦線離脱した時あっただろ」
完全な猫の本能が戦闘を邪魔していたようだ。
「フギャーっ!?」
「がはは、つまりよぉ、皆やらかしてるってこった」
昔のやらかしは分かるけどニャークリアさんのは結構致命的なのでは?
これからそういう昆虫見付けたらニャークリアさんの傍に行かないように注意しておこう。